高橋ヨシキが映画『ウィッシュ』と『PERFECT DAYS』をレビュー!

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2023年12月15日 17:11  週プレNEWS

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高橋ヨシキが映画『ウィッシュ』と『PERFECT DAYS』をレビュー!

日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』! 今回はディズニー100周年記念作品と、カンヌ国際映画祭で役所広司が最優秀男優賞を獲得した期待作!

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【写真】『PERFECT DAYS』のレビューにも注目!

『ウィッシュ』

評点:★1.5点(5点満点)

直接全部言ってしまったらそれは「物語」ではない

映画に限らず、物語として語られる表現は、プロットやキャラクターなどさまざまな要素の総体が観客あるいは読み手の内になんらかの情動や興奮や疑問を生み出すものだ。

あまりにも当たり前のことで、書いていてバカバカしくなってくるほどだが、逆に言えば「鑑賞体験を通じて読み手の内面に醸成されるはずのメッセージ」について、直接的に伝えたいのであれば、物語という形式を採用する必要はないのである。それこそプラカードに大書して町を練り歩けば良い。

人々の「夢や願い」を悪の王様が「吸い取って」しまう偽りのユートピアで、人々がやがて「自分自身の夢や願いの大切さ」に気づく、という本作の「ストーリー」は明らかに「物語」本来の機能を欠いた、まるで企画書に並ぶ文言のように思える(し、実際にそうだ)。

『ピノキオ』が「星に願った」のは、「人間の子供になりたい」という彼自身の夢であり、さまざまな艱難を経てその夢が叶えられるさまを見て我々は「夢を持ち続けること、誘惑に負けないこと」の大切さを知ったのである。決して「夢を持ち続けるのは大事だよ、あと誘惑に負けちゃいけないよ」とピノキオの「物語」が直接言ったからではなく。

STORY:どんな願いもかなうといわれるロサス王国。城で働く17歳のアーシャは、魔法を操り国を治めるマグニフィコ王のある秘密を知ってしまう。それは人々の願いは、王が国のためになると考えたものだけをかなえていることだった。

監督:クリス・バック、ファウン・ヴィーラスンソーン
声の出演:アリアナ・デボーズ、クリス・パイン、アラン・テュディックほか
上映時間:95分

全国公開中

『PERFECT DAYS』

評点:★3.5点(5点満点)

ささやかに美しく衰退することのロマンチシズム

役所広司演じる主人公は、渋谷区内に10数カ所設けられた異常にカッコいいトイレ(「The Tokyo Toilet」というプロジェクトで、トイレはどれもトンガりまくりで清掃員のツナギはNIGOがデザイン)を日々清掃するのが仕事である。

彼の過去はよく分からないが、裕福な家の出らしいこと、読書家で音楽を愛する(カセットテープで聴くのがカッコいい)インテリのようである。安アパートに暮らし、きわめて寡黙で、ごくごくささやかなことー例えば公園の木が形作る木漏れ日とかーに楽しみを見出すのが彼の日常である。

だからある意味、彼は没落し衰退してゆく日本そのものを体現するキャラクターだ。超ハイテクのトンガったトイレが、もはや落日の日本という国が「世界に誇れる」数少ないもののひとつだという事実がその感覚をさらに強める。

本作は必要最低限のことだけで満足して暮らす主人公について、必要最低限のことしか教えてくれないが、そこにはロマンチシズムが溢あふれている。それを「レクイエム」と言っていいのかは分からないが、おそらく我々はこの主人公のように美しくささやかに衰退していくことはできないのだろう、と思うと悲しくなってくる。

STORY:東京・渋谷でトイレの清掃員として働く平山。その毎日は同じことの繰り返しに見えるが、音楽や古本、そしてフィルムカメラで撮る木々の写真と彼の日常には新鮮な喜びが尽きない。ある日、思わぬ再会により彼の過去に光が当たる。

監督:ヴィム・ヴェンダース
出演:役所広司、柄本時生、中野有紗ほか
上映時間:124分

12月22日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開予定

●高橋ヨシキ(たかはし・よしき)

デザイナー、映画ライター、サタニスト。長編初監督作品『激怒 RAGEAHOLIC』のBlu-ray&DVDが発売中。

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