インドにマニュアル車がある理由は? ホンダ「WR-V」の開発責任者に聞く!

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2023年12月27日 11:31  マイナビニュース

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ホンダの新型コンパクトSUV「WR-V」は開発をタイのホンダR&Dアジアパシフィック、生産をインドのホンダカーズインディアで、販売をインドと日本で行うちょっと特殊なグローバルモデルだ。どんな開発秘話があったのか、開発責任者の金子宗嗣氏に話をきいてみた。


タイで開発、今までと違う点は?



――金子さんの勤務地はタイですか?



金子宗嗣氏:タイには今年の10月まで行っていました。期間は約5年半です。元々は車体性能開発部門のマネージャーとして現地に行きましたが、コロナ禍の2020年ごろからの約3年はWR-Vの開発責任者を担当してきました。


――クルマ作りに関して、これまでと異なる点はあったのでしょうか?



金子氏:同じところと異なるところがありました。



例えばホンダの基本である「マンマキシマム・メカミニマム」の思想自体は一貫しています。一方で従来と違うのは、その土地に見合った性能を追求するというところです。日本人だと「これをやらないと、ちょっと心配だな」というはずのところも、向こうだと「それは全然、気にしませんよ」となることが実際にありました。



一例を挙げると、耳の特性なんかも実は違っていて、エンジンの高周波音の聞こえ方が異なりました。我々が感じないところをうるさいと感じたり、逆もあったりです。なので、彼らの好みの方向はそっちなんだろうけど、日本にも出すので、日本の駐在員が間に入って、うまくバランスをとるというようなところが、これまでのホンダの開発とは違った点だったと思います。完成したエンジン音に関しては実際に走っているインドでも好評で、「これぞホンダサウンド」といったような記事も出ているようです。


インドと日本、クルマの好みはけっこう違う!



――他に異なる点は?



金子氏:低速からの加速感といいますか、力強さがインドでは求められます。コントロール性のよさよりも、勢いのよさを評価する傾向にあるようです。周囲にたくさんのクルマやバイクが走っているような環境なので、自分で操作してクルマを自分の支配下に置きたい、という考えがあるのかもしれません。なので、インドではマニュアル車(MT)も設定しています。


金子氏:あとは、日本でいう「カックンブレーキ」のようなものの方が「効きがいい」と評価されます。道路環境だけでなく、文化的なところなど、複合的な理由があるのだと思います。それと、向こうでは「ACC」(アダプティブクルーズコントロール)を使って走ることはほぼありませんね。



――インドでクルマを運転したことはありませんが、聞いているとイタリアのローマの街中と似た感じでしょうか?



金子氏:似ているかもしれません。基本としているラインはあるものの、地域とか文化の違いから、やっぱり味というのは出てきます。

とはいえ、インドと日本で販売することは当初から決まっていたので、インド寄りになりすぎてもいけないし、その逆でもダメ。かなり議論して、テストも行ない、うまく調和させたのが今回のWR-Vということになります。



タイのホンダR&Dアジアパシフィックはタイだけでなく、インドネシアやインドのメンバーもいる多国籍な環境です。日本にも輸出するクルマを作るのは彼らにとって初めてだったので、大きな経験になったと思っています。


SUVらしいデザインが生まれた理由



――デザイン面ではボディに厚みがあり、ゴツゴツとしたSUVらしい形が特徴的です。こういう外観になった理由は?



金子氏:私は「一眼見ただけで気に入っていただけるような、SUVらしいスタイリングにしてください」というオーダーを出しました。その結果だと思います。ドアパネルの厚みとガラスの厚みのバランスは、いろんなパターンを作ってもらいました。塊感や頑丈さなどが伝わってくるSUVとしての形状は、インドの方はとても大事にします。「ぱっと見」はけっこう大事で、インドのお客様は「カッコいいな」と思わなかったらもう絶対に買わないんです。



これは副次的なことかもしれませんが、インドでは相当に古いトラックがまだまだ走っていて、横をみるとすぐ目の前にバンパーがあったりします。そんな時にも安心して走ることができるのがこの形なのかもしれません。


インドでホンダはどんなイメージ?



――インドといったらスズキというイメージが定着していますが、ホンダの向こうでの存在感はいかがでしょうか?



金子氏:スズキ車はインドではシェア50%で、だれも日本のクルマだとは思っていないほど大衆に浸透しています。一方、ホンダはどちらかといえばプレミアムなブランドとしての位置付けです。



WR-Vはインドでは「エレベイト」(ELEVATE)の名で売っている高級モデルです。「サンルーフ」の優先順位が非常に高いなど、オプションパーツをはじめいろいろな装備がついているものの方が売れる、という傾向にあります。ただ、最近はそれだけではなく、ホンダセンシングなど、お客様の命を守る装備が価格とマッチしてさえいれば受け入れられる、という手応えも感じています。


金子氏:インドでは、休日になると家父長が後席に座り、ドライバーを雇って(人件費が安いため)郊外へとドライブに出かけることも多いんです。このため、後席の広さや快適性を重視して設計していますから、ここは日本のファミリー層の使い方にもマッチしていると思います。フル乗車しても全員分のキャンプ道具を積み込めるサイズのラゲッジルームがあるので、ここも評価していただければと思います。


原アキラ はらあきら 1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。 この著者の記事一覧はこちら(原アキラ)

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