【漫画】Xで「いいね」殺到 『子供が欲しかった遊女の話』に感じる、江戸の情緒と人の変わらぬ思い

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2024年01月10日 07:10  リアルサウンド

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『あおのたつき』

 「わっちも子がほしい」ーー寂しげな遊女の描写で始まる漫画『子供が欲しかった遊女の話』がX上で公開され、6.7万の「いいね」を獲得するなど読者の心をつかんでいる。遊女が子供を持つことが許されなかった、という時代背景を基に、心に触れる物語が展開される。


(参考:『子供が欲しかった遊女の話』を読む


 本作は「マンガボックス」にて連載されている『あおのたつき』の第11話と12話。江戸の情緒を文化・風習のリサーチだけでなく、絵柄やフォントなどでも表現した、安達智さん(@Sato_adachi)に作品の意図や制作の舞台裏について話を聞いた。(望月悠木)


■江戸の感覚に寄り添って描くことで見えてくる世界


――本作は6.7万いいねが集まる人気ですが、これについてご自身としてはいかがですか?


安達智(以下、安達):フォロワーさんには猫飼いの皆さんも多いので、いなくなってしまった猫にまた会いたいという気持ちに寄り添えたとしたら嬉しいです。猫もきっと同じ想いでしょうし、お互いに近くにいると感じられたらいいなと思います。


――本作は連載作品『あおのたつき』のなかの第11話と12話ですが、これらのエピソードをピックアップした理由は?


安達:マンガボックスに掲載時、読者さんから特に多く感想を頂けたエピソードでした。掲載からしばらく経ちますが、その間にも様々な方に「一番好きな回」とポストして頂いていたので、SNSに公開してもっと多くの方に届けられたらと思いました。


――言葉遣いやファッションなど、当時の文化・風習を相当に研究されているのではないかと感じました。


安達:日本史の勉強は苦手で、歴史モノも特に好きというわけではないのですが(笑)、遊廓に関してだけは興味がありました。遊廓にまつわる本を読んだり、浮世絵や落語からもヒントを得ています。今は時代考証の方にアドバイスをいただきながら制作しています。


――安達さんは日本画を専攻されていたそうですが、その影響が作画にもあるように感じました。


安達:日本画は大和絵の作風を学ぶものではないので筆使い以外はあまり影響はないような気もします。日本画を学んでいなくても蒔絵や屏風絵の表現がお上手な作家さんは多くいらっしゃるので。


――ちなみに日本画を専攻した経緯は?


安達:日本画専攻のデッサンが最も線の表現がシビアだったので、線の表現を追求したくて選びました。


――擬音のフォントもこだわりを感じました。


安達:描き文字がお上手な作家さんにお願いしています。崩し字も読める方なのでとても心強く、和歌表現の相談もさせてもらっています。


――『子供が欲しかった遊女の話』で特に描きたかった場面やメッセージはありますか。


安達:商いのために子を成せなかったとすると、遊女によっては猫に対してより特別な想いを抱いただろうと思うんです。その切実さを描きたいと思いました。


――本作に限らず『あおのたつき』では、さまざまな遊女が登場します。安達さんは彼女たちにシンパシーを感じることはありますか?


安達:搾取される立場にある遊女たちでしたが、近世のエッセイを読んでいると最も辛かったことは「親に捨てられたこと」や「帰る場所がないこと」にフォーカスが当たっているように思いました。なので遊女屋は「お父さん」や「お母さん」と呼ばせて余計に離れられないようにします。彼女たちに本当に必要だったものは何か……というのは、自分がずっと考えていることではあります。そして、それは現代の繁華街の問題にも通ずるものがあるように感じます。


――現代の我々の感覚からすると、作中に登場する女性たちを「男尊女卑の辛い時代に蔑まれていた人々」と捉える方もいるかと思いますが、安達さんはどのようにお考えですか?


安達:性差(別)というより性的役割分担が明確化している社会なので、男女ともにそうした社会のなかでそれぞれの生きざまや悲劇が生起するのだと考えています。なので、どちらかの性がことさらしいたげられていたと断罪すべきではないと個人的には考えています。


 過去を現代の人権意識でジャッジすることは簡単ですが、信仰や死生観、病気への意識の違いなど、江戸の感覚に寄り添って描くことで見えてくる世界もあるのではないでしょうか。それをわかりやすい表現で少しでも伝えられたらと思います。


――連載の今後も踏まえ、これからどんな漫画を描いていきたいか展望などがあれば教えてください。


安達:あまり難しい話にはせず、人の心は時代が変わっても地続きなのだなと身近に思っていただける、落語みたいな漫画を目指しています。


(取材・文=小池直也)


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