【書店ルポ】“日本一の眼鏡の町”鯖江駅、シャッター商店街になりつつも健闘する2つの老舗書店

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2024年01月23日 07:01  リアルサウンド

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鯖江駅中心街にある老舗書店のひとつ「藤田書店」。教科書や事務機器を取り扱う旨を記したレトロな看板は、どこの地方都市に必ずあった地域一番の老舗書店の風格が感じられる。
■北陸新幹線開業が間近に迫るが…

  3月16日、北陸新幹線の金沢駅〜敦賀駅間が開業する。中間駅には、有名な温泉地への玄関口となる加賀温泉駅や芦原温泉駅、地域の中心駅である福井駅や敦賀駅などが含まれている。福井駅などの主要駅には開業までの日数をカウントする看板が立てられ、駅周辺では建設ラッシュにわいており、開業ムードの高まりを感じることができる。


  小松駅や福井駅など新幹線が停車する駅は利便性が高まる一方で、新幹線開業の負の部分に直面してしまう駅もある。現在、北陸本線は鉄道ファンの間では“特急街道”と呼ばれるほど特急列車が行き交う。名古屋や大阪・京都方面から1時間に2〜3本の特急がやってくる駅もある。


  ところが、新幹線開業とともに、金沢駅〜敦賀駅間は第三セクターのIRいしかわ鉄道とハピラインふくいに移管されることが決まっている。すると、一部の駅では移管とともに特急がなくなってしまうのだ。その代表格が、鯖江駅、武生駅などである。これらの駅は、現在は金沢から名古屋、京都、大阪へ乗り換えなしで直通できるが、3月16日からはそれができなくなる。利便性の急激な低下だ。


  新幹線の開業後に特急が消滅し、新幹線の停車駅にもならなかった駅では、鹿児島県の阿久根駅や長野県の小諸駅などが有名である。同様のケースは全国にあるが、いずれも駅前は衰退しており、発展した例は一例もないのではないのではと推測される。こうした例を見ると、鯖江駅、そして隣の武生駅の将来も不安になってしまうのは記者だけだろうか。


■シャッターを閉めた店が目立つ

  前置きがだいぶ長くなったが、今回は書店の実態調査を兼ねて鯖江駅を訪問した。鯖江といえば国産の眼鏡フレームの9割以上を生産する“日本一の眼鏡の町”として有名で、駅前にはフレームをかたどったモニュメントもある。まさに、唯一無二の産業を抱える町といえる。ちなみに、記者が愛用する眼鏡のうち5個は鯖江産であり、日頃からお世話になっているのだ。



  駅から中心街へと歩いていくと、巨大な伽藍を構えた寺院がいくつも見られる。しかも、鐘楼や山門の彫刻が精緻で凄まじい。職人の町として栄えた鯖江は、それだけ富を有する人も多く、栄華を誇っていたのであろう。ところが、近年は安価な外国産の流入によって鯖江の産業も深刻なダメージを受け、後継者不足に悩まされていると聞く。そうした背景があるのか、中心街にはシャッターを閉めた店ばかりが目に付いてしまう。


■駅前に残る老舗書店2店

   鯖江の市街地に残る書店は、「藤田書店」と「富士書店」の2店である。そのうち藤田書店はコアロード・コマチ(古町)というアーケード街にある老舗である。店内には書店のコーナーのほかに文房具や雑貨を販売するスペースも併設され、少々のお菓子も販売されている。かつて地方都市には、こうした書店と文具店が合体した小売店が多かった。平日の昼、商店街にシャッターを下ろした店が目立つ中、営業を続けている藤田書店の存在が頼もしく思えてしまった。


    店内には定番の雑誌から売れ筋の漫画まで、新刊が充実していた。『【推しの子】』も平積みにこそなっていないものの、店頭に全巻が2セット分揃っていたし、『葬送のフリーレン』なども最新刊がしっかり入荷している。地方の書店によっては売れ筋の単行本ほど取次の都合で店頭に並びにくい傾向があるが、藤田書店は盤石のようだ。ただ、中小規模の出版社が出す漫画は、もともとの印刷部数の少なさゆえか、入荷がないように見受けられた。



 富士書店はアーケードから少し離れた場所にある。壁に懐かしさを感じる「週刊現代」の看板が現存し、レトロ感漂う小学館の学年誌のラックに雑誌が並ぶ。そして、「本屋ですがお茶も飲めます」「おしゃべりもできます」「本も買えます」という看板が立てられている。喫茶コーナーを併設した書店は、「TSUTAYA」などの大型書店だけでなく、地方の小規模書店にも増えつつある。おそらく書店の規模は縮小したのであろうが、独自路線で営業を続けているようだ。


  駅前に書店ゼロという地方都市が増えている中、鯖江は健闘しているのではないだろうかと感じた。これまでこの連載で地方書店の実情を取材してきているが、書店の数は町の活気と比例するという法則がある。書店は地方の文化発信基地であり、市街地に人の流れを生み出す原動力であるためだ。シャッターを閉めた店も多い中、営業を続ける藤田書店と富士書店には頑張ってほしいと願わずにはいられなかった。


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  • 「中小規模の出版社が出す漫画は、もともとの印刷部数の少なさゆえか、入荷がないように見受けられた」→芳文社の漫画はあるのか?大都市圏でもないところも。
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