ふたり以上の恋人やパートナーを持つ「複数恋愛」とは 100人以上に取材・調査して見えてきた実態を伝えるルポルタージュ

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2024年01月24日 18:11  BOOK STAND

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『もう一人、誰かを好きになったとき:ポリアモリーのリアル』荻上 チキ 新潮社
 皆さんは「ポリアモリー」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? これはギリシア語の「ポリー=poly(複数)」とラテン語の「アモール=amor(愛)」を合わせた言葉で、「複数愛」のこと。「相手の合意を得たうえで、ふたり以上の恋人やパートナーを持つ関係」を指すそうです。

 本サイトでは以前、自身がポリアモリーである「きのコ」さんの著書『わたし、恋人が2人います。〜ポリアモリー(複数愛)という生き方〜』を紹介したことがあります。こちらは主にきのコさん自身の体験談をもとに書かれたものでした。

【関連記事】
浮気や不倫じゃない「複数恋愛」=ポリアモリーって何?
https://bookstand.webdoku.jp/news/2018/07/17/120000.html

 今回紹介する、評論家の荻上チキさんが著した『もう一人、誰かを好きになったとき:ポリアモリーのリアル』では、国内の100人以上もの多様なポリアモリーの人々に取材・調査をおこない、その実態を新たに伝えています。

 皆さんもご存じのとおり、日本の社会では一対一の恋愛を前提とする「モノガミー=単数愛/単数婚」の価値観がベースとなっています。そのため、複数恋愛はこれまであってはならないもの、秩序を乱すものとして非難の対象とされてきました。

 実際、ポリアモリー当事者たちはしばしば「浮気性」「あばずれ」「異常性格者」などの否定的な言葉を投げかけられることがあるといいます。それだけに「ポリーのほとんどが、これまで生きてきたなかで内面化してきたモノ規範と、自身の関係指向との間で葛藤を続けた経験がある」(同書より)のだそうです。

 荻上さんは「ポリアモリーやノンモノガミーそのものが有害であるのではなく、モノ規範から外れた人への偏見、ここではポリアモリーなどへの偏見が有害なのではないか」(同書より)とし、現在の日本ではこうした人々の葛藤や苦悩に対して参考になるロールモデルがあまりに少ない現状を指摘します。
 
 そんな中、今の日本社会でポリアモリーの人々がいかに多種多様な関係性を築いているかが同書からはよくわかります。結婚したら落ち着くかと思ったものの、複数愛の葛藤に悩んで鬱状態になり離婚を選んだ女性。妻と恋人と三人で暮らした経験を持つ男性。自身の子どもや夫も含めて、別の同性彼女とそのパートナーとみんなで仲良しだという女性。さらには、「夫」と「彼氏」と共に生活しながら家事、育児を分担する「ポリファミリー」というスタイルをとっている人も紹介されています。

 荻上さんは同書で、以下のように読者に投げかけます。難しいテーマだと言えますが、皆さんならどう考えるでしょうか。

「ポリアモリーとは、指向性を指すのか、関係性の状態を指すのか。セクシュアリティなのか、ライフスタイルなのか。先天的なのか、後天的なのか。変えられない属性なのか、選択された生き方なのか。そしてポリアモリーは、『性的マイノリティ』の一つとして捉えるべきなのか」(同書より)

 いずれにせよひとつ確かなことは、「ここに登場するエピソードは、この日本に確かに実在する、生ける隣人の姿でもある」(同書より)ということ。これまで従来の単数恋愛に居心地の悪さを感じていた人にとっては、同書は安らぎをもたらしてくれる一冊になるかもしれません。また、自身はモノガミーであるという人にとっても、多様性ある社会を考えるうえで、同書を通じてポリアモリーに目を向けることは、きっと自分と社会との関り方を見つめ直す大きなきっかけになるでしょう。

[文・鷺ノ宮やよい]



『もう一人、誰かを好きになったとき:ポリアモリーのリアル』
著者:荻上 チキ
出版社:新潮社
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