安倍晋三元首相の銃撃事件を皮切りに、大きく注目を集めた旧統一教会（世界平和統一家庭連合）。長年にわたって独自に同教団の問題を追及してきたジャーナリスト・鈴木エイト氏（55歳）は、その功績を認められて数々の報道賞を受賞するなど、一躍時の人に。
何が彼の孤高の闘いを可能にしたのか？ 生い立ちから、バンドに熱中した青春期、教団との闘いの日々まで、激動の半生を語ってもらった。
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■ストイックな学生、バンドマンへ
鈴木氏は高校まで滋賀県甲賀市で過ごしたという。どんな少年だったのだろうか。
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「中学までは野球部。地元の公立高校に入学後は山岳部に入ったのですが1年でやめ、突然走ることに目覚めました。それからは毎日ランニングを続け、町の駅伝大会で新人賞をもらうほど走った。変なところでストイックな少年でした」
自ら言うストイックさが表れたのが校則への反対運動。高校時代、今では「ブラック校則」と呼ばれる不合理な校則に反対の声を上げたのだ。
「校則でソックスの色が決まっていて、ほかの色をはけないんです。禁止する理由もわからない。これは明らかに変だと感じて自分ひとりで校則を変えようとしました。生活指導の先生と論争もしました。このときの経験から、おかしいと思うことにはきちんと声を上げようと思うようになりました」
高校卒業後は日本大学経済学部へ進学。しかし、次第に大学からは足が遠のいていったという。
「授業にはあまり出席せずバイトばかりの日々でした。バイト先は原宿にあったコンセプトファッションビルで、コスチュームを着て受付でお客さんに応対する仕事。しばらくするとバイトをしていた男性スタッフたちにファンがつき、運営元がアイドルグループをつくることに。
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バイトを続けるために、お客さんによる投票形式のオーディションを受けたら、優勝して芸能活動をすることになりました。でも、踊るのが嫌だったのと、本当はバンド活動をやりたかったため、正式デビュー前にやめました。
その時期のことで今でも覚えているのは、ジャニーズ事務所（現スタートエンターテイメント）のことです。テレビや雑誌などでジャニーズ以外のタレントを使うと、事務所から圧力がかかるというのです。今、旧統一教会の問題と共にジャニーズ問題も追いかけているのは、このときの原体験を覚えているからです」
早々にアイドル活動をやめた鈴木氏はやりたかった音楽活動に舵を切り、バンドを組む。ジャンルは、70年代後半に英国で流行したロックミュージックの一種「ニューウエーブ」。「ファンタスマゴリア」と命名したバンドでボーカルを担当し、派手な髪型に化粧をしてステージに立った。
「一般受けしない独自の音楽を演奏していました。ライブハウスで定期的に演奏するうちファンもついたのですが、実際にやってみると何か違う。その違和感をずっとぬぐえず、25歳ぐらいでバンド活動に見切りをつけ、その後はビルの管理会社で契約社員として働き出しました。
時間があったので本を読みまくり、年間で400冊ぐらい読破しました。このときに将来、何かしら社会的な存在になりたいと思うようになり、物書きを志すようになったのです」
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■旧統一教会との遭遇、孤軍奮闘の始まり
将来を模索し働いていた2002年、統一教会との関わりが生まれる。ある日、信者が「手相の勉強」や「意識調査アンケート」といった名目で街行く人々を勧誘していく実態を伝える報道番組を見た。その翌日に、渋谷駅で偽装勧誘の現場を目撃したのだ。
「駅の改札を出ると、報道と同じ手口で勧誘をしている信者の姿が目に入ったのです。そのときは後先考えずに会話に割って入り、勧誘を阻止しました。
私の姉が統一教会の信者で、それまでは入信するのは自己責任だと思っていました。でも手口を知ると、正体を隠して勧誘をするのはフェアではないと思うようになったのです。
勧誘員は駅前にいることが多く、声をかけた人が話を聞いてくれそうな場合、地区ごとに『ビデオセンター』と呼ばれる施設があり、そこでビデオを見せて教義の刷り込みをしていきます。仕事帰りや学校帰りに通わせて、時間をかけながら少しずつ教化していくのです。
短期合宿を挟みながら約2ヵ月の期間をかけますが、その間、統一教会の名前は一切出しません。明らかにするのはマインドコントロールの仕上げとなる最後の合宿の最終日です」
鈴木氏が取った信者生産阻止のアプローチは、施設に入り込み、勧誘された人に直接話しかけるスタイルだった。
「ビデオセンターに入る許可を得てから中に入り、ブースでビデオを見ている人たちに『彼らの正体は統一教会だ』と知らせます。信者には、『勧誘するなら正体と目的をちゃんと明かすべきだ』と話しました。
大量に救出したのは北千住で活動をしたとき。ビデオを見ていた10人ほどに声をかけると、8人は『だまされていた』と理解してくれました。
トラブルになることがないよう、救出活動をするときには近くの交番にこれから統一教会の偽装施設を訪ねると話し、全国霊感商法対策弁護士連絡会の弁護士にも伝えておきました」
並行して街頭での偽装勧誘阻止活動を続けていると、次第に教団からの妨害や嫌がらせも相次ぐようになる。
「勧誘阻止をしているときには、信者がまとわりついてきて『この人は頭がおかしい人です』と言いふらされたり、小突かれたりしました。一度、私に文句をつけてきた勧誘員に言い返したら、激高して殴られたことがあります。
活動を終えて家に帰るまでの間も嫌がらせは続きました。私の自宅を突き止めるために信者が尾行してくるのです。不審者が自宅周辺で撮影行為をし、自宅の住所を調べるために宅配業者を装って電話をかけてきたこともありました」
施設管理の仕事を続ける傍ら、鈴木氏の勧誘阻止活動は10年までの8年間、ほぼ毎日続いた。都内を中心に神奈川、千葉へ向かうこともあった。
■政治家を追及するも、メディアは冷ややか
信者から嫌がらせを受けてまで、なぜ長期間活動を継続できたのだろう。
「初めの頃は、単純に嘘をついて勧誘する信者を論破するのが楽しかった。ですが、あるときから勧誘している信者たちも統一教会にマインドコントロールされた被害者だということに気づき、宗教カルトの持つ構造的な問題に目を向け始めるようになったのです。
それからは、教団の被害者をひとりでも減らす必要があると強く感じるようになり、信者ともコミュニケーションを取るようにしました。こうした統一教会の実態を広く社会に知らせようとしてブログやニュースサイト『やや日刊カルト新聞』に活動内容を書くようになりました」
勧誘阻止活動を続けるうちにわかってきたのは、教団と政治家の結びつきだ。教団は古くは安倍晋三氏の祖父・岸 信介氏とつながりを持っていたことで知られるが、現役議員にも関係を持つ人たちが少なからずいた。実態を調べるために政治家の取材を始めると、政党や議員から妨害を受けるようになった。
「最初に政治家の追及をしたのは、教団の全面支援を受けて当選した当時民主党系の足立区議。そのことをやや日刊カルト新聞に書いたら、民主党の顧問弁護士から連名で『次に書いたら訴える』という内容の催告書が送られてきました。
教団系イベントに参加した自民党の菅原一秀衆議院議員（当時）を取材した際には、事務所の応接室に通された後にいきなり警察を呼ばれて不法侵入で刑事告訴されました。
13年には、第2次安倍政権発足後の最初の国政選挙で安倍首相（当時）が統一教会に組織票の依頼をしたことを示す内部文書を入手し、菅 義偉官房長官（当時）が、安倍氏の肝いり候補者を統一教会の地区教会に派遣していたこともつかみました。
政治家は選挙に信者を利用するだけ利用し、こちらがそれを追及し出すとシラを切り、それまで協力してくれた信者たちを簡単にポイ捨てします。これはカルトよりひどい。その実態を知ってから、政治家をいっそう追及するようになったのです」
こうした問題を社会に問う必要があると感じた鈴木氏は、メディアにアプローチする。だが反応は冷ややかだった。
「いろいろな出版社に企画を持ち込んだものの、『統一教会は旬な存在じゃない』『政治家はすぐ失脚しちゃうから』などと言われて出版には至りませんでした。
それならノンフィクション賞を取ろうと思っていくつかの賞に応募しましたが、最終選考にも残りませんでした。辛うじて執筆できた媒体も消滅して書く場所がなくなりました」
■銃撃事件を受けて感じた「無力感」
旧統一教会の問題を社会に周知する困難さに直面していた頃、山上徹也被告が安倍氏に恨みの矛先を向けるきっかけとなったといわれる、統一教会の関連組織「天宙平和連合（UPF）」の集会に安倍氏がビデオメッセージを寄せるという出来事が起きる。
その翌年、山上被告は安倍氏に銃口を向けた。鈴木氏の胸に去来するのは、自分の力のなさが事件を起こしてしまったとの後悔の念だ。
「もっと早くこの問題を社会に問うことができていれば、安倍氏は亡くならず、山上被告を犯罪者にすることも防げたかもしれない。事件が起きたとき、誰もこの10年間の安倍氏と統一教会の関係を正確にとらえた発言をできず、事実が歪曲されて伝わっていました。
これ以上誤った認識が広まることに危機感を抱き、ツイッター（現・X）に『＃鈴木エイトを出せ』と記し、自分をメディアに売り込んだのです。それが功を奏していろいろなメディアで発言できるようになりましたが、同じような悲劇を繰り返さないために、自分の影響力や発言力をもっと強めたいと考えています」
23年10月に統一教会に対する解散命令請求が行なわれ、確定するまでには2、3年は必要といわれる中、懸念されるのが教団資産の散逸だ。資金難にあえぐ教団の韓国本部を支援するために、1000億円を超えるとされる資産が韓国や米国の教団や関連団体へ移されれば、被害者救済の原資がなくなってしまう。
「統一教会の韓国本部は窮状に見舞われ、頼れるのは年間数百億円に上る日本からの送金です。しかし、コロナ禍の影響や解散命令請求などから、それも滞っています。
教団は海外宣教援助費と教化費を宗教活動の支出の二大使途としているため、今後それを理由に海外へ多額の資産を持ち出してしまう恐れがあります」
統一教会問題の追及はこれからも続けるという鈴木氏だが、テーマはそれだけではない。ジャニーズ問題やHPVワクチンを巡る問題などを追いかけていきたいと話す。
「ジャニーズ問題は、ジャニー喜多川という親ではない第三者が子供たちに性加害という児童虐待をした事件。宗教カルトの二世問題も、親子の関係に第三者であるカルト団体が入り込む形で子供たちが虐待されています。
保護者が児童に対して行なう虐待を規制する児童虐待防止法ではカバーしきれない問題であり、法改正を含めて議論していかないといけません。
HPVワクチンを巡る問題では、ワクチン接種で深刻な副反応被害が出たとして原告団が結成され、国と製薬企業を訴えた裁判が続いていますが、薬害ではないとのエビデンスが積み上がっている。
被害者をどう説得して適切な治療につなげていくかはカルトからの脱会問題と似ています。カルト問題と同様の構図が根底にある。自分が取り組むべきテーマはまだまだあると感じています」
20代に社会的な存在になりたいと考え、長年にわたって統一教会問題を追い続けてきた努力が実り、その願いは実現した。
しかし、これからもストイックに活動を続けていきたいと話す鈴木氏。たったひとりで勧誘阻止活動を始めた頃とは違い、今では大きな発信力を手に入れた。今後の鈴木氏の歩みから目が離せない。
●鈴木エイト
1968年生まれ、滋賀県出身。ニュースサイト『やや日刊カルト新聞』主筆。著書に『自民党の統一教会汚染 追跡3000日』（小学館）、『「山上徹也」とは何者だったのか』（講談社）など多数。調査報道大賞優秀賞、日本ジャーナリスト会議JCJ賞大賞などを受賞（撮影／形山昌由）。
取材・文／形山昌由
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