Windowsの大型アップデート周期が1年に1回になったが、Windows 11には2024年の後半に次の「24H2」がやってくる。前回も含めたびたび触れているが、このアップデートは内部開発コードで「Hudson Valley」と呼ばれており、かつて「Sun Valley」の名称で呼ばれていたWindows 11が登場して以来の大規模な変化となる。
・2024年のWindows、AI時代を迎えた2つの方向性 “Windows 12”はハードウェアで進化する
●次期Windows(大型アップデート)に備える
“大規模な変化”というとユーザーインタフェースが大きく変わる印象があるが、おそらくはWindows 11からの大きな変化はない。Microsoft自身が「30年来の大きな変化」としているが、「Coplilot」キーの採用に見られるように、Windows上で動作するCopilotの各種機能がユーザーインタフェースの変化に大きくかかわってくる。
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一方で、Copilotの仕組みそのものは現行のWindows 11で既に搭載が始まっているため、24H2が適用された段階でルック&フィールが既存のものから大きく変化することはないだろう。むしろ前回の記事でも触れたように、Windows OSのベースそのものが内部的に変化しており、目に見えない部分で変化していると考えた方が正しい。
実際、24H2は従来の大型アップデートとは異なるものになるとみられる。“大規模な変化”を象徴するものの1つがアップデートの仕組みだ。
例えば、Windows Centralのザック・ボーデン氏は24H2のアップデート方式を「OS Swap Update」と呼んでいるが、実質的にWindows 11の従来のファイルの多くを比較的丸ごと入れ替えるレベルのアップデートになるとみられる。
理由の1つとしては前回も解説した通り、現行で「Nickel(ニッケル)」と呼ばれるOSコアをベースにしているWindows 11が、24H2の世代では「Germanium(ゲルマニウム)」ベースのものになるとみられている。つまり、OSのベースが丸ごと新しい世代へと引き継がれる。
ボーデン氏が自身の情報源からの話題として伝えるところによれば、Germaniumの開発は2024年4月のタイミングで“サインオフ”、つまり実質的な完成状態となり、これをベースにした24H2の提供開始に向けた開発がさらに進んでいく。
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24H2の提供は2024年後半となるが、いわゆる「AI PC」と呼ばれる前述のCopilotキーや、NPUを含む最新のAI機能に対応したPC群にはプリインストールの形で搭載され、6月にも提供が行われる見込みだという。
前回のレポートでも触れたように、24H2の“General Availability(GA/一般提供)”のターゲットは9月が見込まれているが、実質的にAI PC向けの提供は一般提供タイミングであるGAに先行する形となる。
興味深いのは、24H2の提供に向けたMicrosoft内での開発が活発化しつつある様子がWindows Insider Programからうかがえる点だ。
前回、Germaniumの開発が行われているのはCanary Channelの「Build 26xxx」で示されるビルド番号であり、1月26日(米国時間)には「Build 26040」がCanary Channelに対して配布されている。
ところが、Build 26040の配信が開始されてから少し後にNeowinが報告しているが、一般参加のあるCanary Channelとは異なるMicrosoft内部向けのCanary Channelにおいて「Build 27547」と呼ばれるビルドが出現したことを報告する投稿がX(Twitter)に行われて話題となった。
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これについて、ボーデン氏が自身のアカウントでフォローしているが、Microsoft内部の最新開発ビルドが“フォーク”、つまり分岐したことを意味する。
この分岐した「Build 27xxx」は今後も最新技術を検証し、OSコアの開発を継続するためのビルドとして“カウント”を増加させていくが、「Build 26xxx」は正式に24H2の開発ビルドとして独立したということだ。
今後、26xxxのビルド番号の付与された開発中ビルドは、そう遠くないタイミングでDev ChannelやBeta Channelへと配信されるようになり、24H2の早期体験が可能なChannelとして機能するようになる。
なおBetaWikiでも触れられているが、「Build 27xxx」で開発されるOSのコアは新しいコード名「Dilithium(ダイリチウム)」が付与されている。
こんな“トレッキー”な名称は最初何のことか意味が分からなかったが、ボーデン氏によればStar Trek(スタートレック)に登場する架空の物質のことだ。現在Windows OSコアの開発コード名は元素周期表に則って命名されているが、順当にいけば「Germanium(Ge:ゲルマニウム)」の次は「Arsenic(As:ヒ素)」となるはず。なぜ「As」が選択されなかったかについて同氏は「毒物は印象が悪い」という理由によるという。
「ところで、“Windows 12”はどこにいったの?」という方がいるかもしれない。これも前回触れた通り、現状でMicrosoftが24H2を「Windows 12」と呼ぶ可能性は低く、おそらくは「AI時代の(少し)大きなアップデート」みたいなアピールをしてくるとみられる。
一方で、問題となるのはMicrosoftがこれを本当に「Windows 11向けの定期アップデート」のような形のアピールだけで終わらせるかどうかだ。Windows 12というキーワードは刷新をイメージするにはちょうどいいが、これを使わないとなると別の形でのマーケティング的メッセージが必要になる。AI PCの話題も含め、このあたりを少し分析していこう。
●「AI PC」はセールスポイントになるのか
そもそも、AI PCの定義とは何なのか。
GPTのようなクラウド連携をある程度想定したCopilotのみならず、今後Windowsでは学習済みの“推論エンジン”がさまざまな形で搭載されるようになり、より効率的で“賢い”動作が可能になった機能やサービスが提供されることになる。
既にスマートフォンなどではおなじみになりつつあるが、音声のテキスト書き起こしやビデオ通話での高画質化、ノイズ除去、より高度で利用実態に基づいた検索機能など、地味ではあるが補助機能の数々が“使える”レベルで利用できることを想像すればいい。
推論エンジンの実行そのものは、機械学習にかかる負荷よりは少なくなるものの、汎用(はんよう)的なCPUコアで実行させるには、パフォーマンスと電力消費の両面でいささか効率が悪い。そこで推論エンジンをより効率的に実行できるよう、専用の演算回路を提供するのがNPU(Neural-network Processing Unit)の役割だ。
基本的に現在のコンピューティングの世界では、推論エンジンの実行はNPUやGPUが主に活用されることが多い。前回で触れた通り、NPUに関してIntelはMeteor Lakeこと最新のCore Ultraプロセッサで対応を果たしたが、この分野ではAMDの他に、スマートフォンの世界でいち早く対応を行ったQualcommのSnapdragonなどが先行する。
Windows PC向けに提供されているSnapdragonについては、全SoCにNPU相当の機能が標準搭載されているものの、AMDは2023年から順次ラインアップに展開中、IntelについてはMeteor LakeのターゲットがモバイルPC限定の上、現状でCore Ultraというハイエンド相当の製品に限定される。
Intelのデスクトップ向けプロセッサは2024年後半の登場が見込まれるArrow Lake(開発コード名)まで、現行のRaptor Lake(Refresh)が代行することになるなど、戦略的にNPUの存在を積極的にアピールしづらい。
また、仮にこれらプロセッサが市場に登場しても、実際に多くのPCがNPU搭載モデルに置き換わるまでにはさらに数年を要することになるため、Windows 11が24H2以降にAI対応機能を大幅に強化したとしても、その特徴は多くの環境で必ずしも生かされるわけではない。
加えて、いくらNPUで効率よく推論エンジンを実行できるようになったとして、これそのものはPCの買い換えを促す大きな原動力にはなりにくい。今後「AI PC」というキーワードはたびたび登場することになると思われるが、当面はこれで何かが大きく変わるというよりは、Microsoftや業界関係者がPCの次の方向性を示すためのキャッチフレーズ的なものだと捉えておくのが正しいのかもしれない。
「AI PC」が短期間で認められることについては懐疑的だが、Microsoft自身はCopilotを皮切りにWindowsがAIによってさらに進化し続けることを示しつつ、推論エンジンを含む周辺環境を整備して実際にそのアイデアが有効であることを示さなければならない。
AI処理性能が今後さらに求められ、AI PCにおけるメインメモリは最低でも16GBを要求するようになり、これがコンポーネント供給側もユーザーのさらなるニーズも喚起すると予測するレポートもあるが、実際にはMicrosoftは現状の最低システム要件にほとんど手を入れることはなく、AI PCに求めるスペックはあくまで(快適に利用するための)推奨要件に留めると筆者は考えている。
いわゆるx86 PCの動きが市場状況もあってまだ弱含みな中、AI PC方面ではむしろArmプロセッサの方が興味深い動きをしているかもしれない。
Google ChromeがWindows on Armにネイティブ対応を進めている話が出ており、2024年の夏にOryonベースのCPUコアを採用したSnapdragon X Elite搭載Windowsマシンが市場投入される見込みなど、市場が盛り上がりそうな気配が出ている。
AI PCというカテゴリーで見たとき、Windows on Armの世界では初期のモデルからNPU対応が進んでいるなど、x86 PCと比較すると移行のハードルが低い。普及率でいえば、まだx86ベースのPCには遠く及ばないものの、これだけArmにMicrosoftがコミットし、さらに同社が展開するSurface PC製品ラインアップ全てにArmモデルを用意しようとしている現状を鑑みれば、2024年のPC業界におけるダークホースは、Arm PCにあるのではないかという考えも出てくる。
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