俳優生活20周年! 映画『罪と悪』主演の高良健吾が「絶対に演じたい」「手放したくない」役とは

1

2024年02月08日 20:31  All About

  • 限定公開( 1 )

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

All About

映画『罪と悪』の主演・高良健吾さんにインタビュー。少年時代の悲劇を抱えて大人になった男を演じた高良さんに、映画の裏側に加えて俳優業についてお話を聞きました。
映画『罪と悪』は、14歳の少年が殺された事件を機に離れ離れになった仲間が20年後、再会する物語。ある出来事によって青春を奪われた少年たちが大人になっても葛藤し続ける姿に心打たれる作品です。

高良健吾さんが演じるのは、殺された少年の友人の1人で、地元で建設会社を経営しながら裏では地元の不良たちを率いている春。よくある強面な雰囲気とは違うスタンスで生きる男を緩急つけた芝居で見せています。

高良健吾さんにインタビュー

――高良さんは映画『罪と悪』の齊藤勇起監督に、この映画がまだ企画の段階からお話を聞いていたそうですが、映画化が決定したときの気持ちを教えてください。

高良健吾さん(以下、高良):『罪と悪』の脚本が完成する数年前から、いろんなお話を聞いていました。企画から映画化を実現するのは本当に大変なことなので、撮影することが決まったときは本当にうれしかったです。

脚本を読んだときは、“考えること”が多くなりそうな内容で難しい役だと感じました。

――考えることが多くなるというのは?

高良:春というキャラクターに説得力を持たせるためには、セリフ1つひとつの演じ方が重要。説明セリフも少ないので、下手するとよく分からないままになってしまうと思いました。脚本には描かれていない春の心の中を僕が理解していく作業がとても大変だと感じましたね。

だから齊藤監督はもちろん、春の幼なじみ役の大東駿介さん(晃役)、石田卓也さん(朔役)と、疑問に思うこと、自分の思いをたくさん話し合って役に血を通わせていきました。

――大東さん、石田さんは同世代ですよね。

高良:そうですね、かつて同じオーディションを受けたこともありますし、切磋琢磨してきた役者仲間です。いつもつるんでいるようなベタベタした関係ではなくて、リラックスして仕事に集中できました。撮影が終わってからの方がよく会っています。
(C)2023「罪と悪」製作委員会 PG12

――春、晃、朔が、離れ離れになってからの長い空白の時間について、何があったのかと3人で話すことはありましたか?

高良:それを話さないのが3人のいいところ(笑)。もちろん共有すべきところは話し合うけど、それぞれの事情は演じる本人が理解していればいいと思います。

空白の時間が彼らにとって何だったのかは、2人がお芝居で表現してくれるので、それを受けながら自分はこう表現しようと芝居を作っていきました。そういうコミュニケーションができる共演者だったので良かったです。

都合の悪いことはなかったことにする人たち

(C)2023「罪と悪」製作委員会 PG12

――春というキャラクターをどう解釈して演じましたか?

高良:僕がずっと考えていたことは、あの事件の後、晃と朔は20年もの間、なんで会いにきてくれなかったんだということです。会えなかった人たちを春がずっと思い続ける理由が欲しくて考えていました。

春はあの事件を境に何かが始まったと同時に、何かが終わったのではないかと。少年時代の事件で、彼の人生は180度変わってしまったと思ったんです。

――映画では前半は少年時代。後半は事件後、大人になった3人の物語。春は、表向きは事業をやっているけれど、裏では闇の仕事もしている。でも、それらしい強面な雰囲気はないですね。

高良:春は自分と同じ境遇の若者たちに仕事を与えていて、ある意味助けている。そういうやさしい一面がある男です。だから部下も彼を慕うようになります。

そもそも僕は、春をオラオラして演じたくはありませんでした。

この映画の人間たちの怖さは、そういう“分かりやすい怖さ”ではない。それぞれが抱えているさまざまな問題をなかったことにする人たちです。表向きは穏やかだけど、心の中では罪や悪を抹殺して生きている。そこが怖いんです。
春は難役だったと語る高良さん

――なかったことにしても、パッと消えるわけはないですからね。

高良:なかったことにするという行為が、悲しいことに今の時代にマッチしてしまっていると思います。でも齊藤監督は、そうやって人が目を背けてきたもの、タブーとして語られなかったことを、そのままにしない人だと思いました。

小さい頃に大人に負わされた心の傷は、成長した後にも残りますし、それで人生が崩れてしまうこともあるんだということを齊藤監督は描いています。それはとても大切なことだと思うし、そこにこの映画の存在意義があると思います。

ロケ撮影が大好き、とことん芝居に集中できる

再会した晃(大東駿介・左)と朔(石田卓也・右) (C)2023「罪と悪」製作委員会 PG12

――撮影はいかがでしたか? 

高良:3週間、監督の故郷・福井県で撮影しました。僕はロケ撮影が大好きなので、素晴らしい環境のおかげで集中することができました。

――ロケの方が集中できるんですね。

高良:ロケ撮影だと、自分の家に帰らなくていいというのが最高ですね。撮影から戻ると部屋はきれいにクリーニングされているし、ベッドはフカフカ。部屋の後片付けなどもやらなくていい(笑)。僕は自分の部屋も好きですが、撮影のときはできるだけ集中したいので、ロケ撮影はありがたいです。

あと、この映画はキャストもスタッフも同じホテルでした。みんなで朝集まって出発し、みんな一緒に同じ場所に帰るという環境も僕は好きでした。

ロケ地の協力者が映画に出演!

――福井のみなさんの協力もあったそうですね。

高良:地元の方が撮影にすごく協力してくださいました。あの手厚いサポートの中で撮影できたことも良かったですね。

――どういうサポートがあったのでしょうか?

高良:まず、春の部下を演じた方の多くは福井の方たちなんです。
(C)2023「罪と悪」製作委員会 PG12

――そうなんですか! 俳優さんたちかと思いました。

高良:オラついていないところが本物らしかったですよね。睨みをきかせてオラつくという芝居は多いけれど、現実ではあんなにオラオラしていないと思うし、普通に周囲に溶け込んでいるのではないかと。実はその方が怖かったりすると思います。

――なるほど。

高良:春も表向きはお店に立って笑顔で「いらっしゃいませ」と仕事をすることもありますが、裏では悪いこともやっている……。そのギャップが怖い。この映画はそんなリアルな怖さを表現しています。

出演作は必ず自分で選びます

高良さんが出演作を決める際に大切にしているポイントとは

――キャリアについてお伺いしたいのですが、昨年(2023年)はさまざまなジャンルの作品に出演されて、その中でもヤンキー青春映画『Gメン』への出演はちょっと驚きました。「高良さん、こういう爆笑コメディー映画にも出るんだ」と。出演の決め手はどこにありますか?

高良:僕は本当にワガママを言わせてもらっていて、若い頃から出演作は自分で決めています。俳優業は心身共に削られる大変な仕事だから、自分で選びたいんです。

『Gメン』出演が意外だと思われたようですが、30代で高校生役のオファーが来るなんてこの先ないだろうと思い、逃したくないので出演を決めました。

――確かに意外性がありました。

高良:映画出演を決めるきっかけはご縁もあります。僕が熊本にいた頃によく通っていた映画館があるのですが、昨年、その映画館の館長役のオファーをいただき出演しました。

出演シーンが短いので「よく出てくれましたね」と言われたのですが、地元の思い出が詰まった映画館の館長の役なんて、もう出会うことはないでしょう。貴重なオファーだと思って引き受けました。

作品の内容、スタッフやキャストなども出演作を決める上で大切ですが、プラス、二度とできない役も離したくないんです。

――俳優個人の役への思い入れもある……ということを考えると、俳優さんが自分で出演作を決めるのは理解できます。

高良:それに他人を演じるのが仕事である俳優は本当にハードな職業なんです。だからこそ、演じる役は自分が納得した役を受けて、自分の責任において全力で演じたいと思っています。

ものづくりの職人たちは面白い人ばかり

(C)2023「罪と悪」製作委員会 PG12

――インタビューすると俳優さんの多くが高良さんと同じように「俳優は心身共に削られる仕事で、とても大変だし厳しい仕事」とおっしゃいます。でも、どこかに演じる醍醐味を感じていらっしゃるのではないかと思うのですが、この仕事の魅力はどこにありますか?

高良:ものづくりの世界にいる人は面白いんですよね。虚構の世界でリアル以上の真実を生み出す人たちですから、確実に面白い人しかいません。そういう人たちに出会えて、会話をするのがまず楽しいです。

そもそも普通に生きていても、みなさんもどこかで演じていると思います。それは自分をよく見せたり、気を遣ったり“自分自身”を演じている。でも俳優は他人になるわけです。

他人に目を向けて、心を預けて、その役がどういう風に生きてきたかを考えるのが俳優の仕事ですが、役が殺人犯だったり、殺されたり、愛する人を失ったり奪ったり……という場合もあるので、楽しい気持ちにはなれず、心が苦しいこともよくあります。

――確かにそうですね。

高良:でもそうやって役のキャラクターや生き様を考えているうちに、社会の矛盾に気付いたり、そのことについて調べたり、考えたりして、思考することが増えていく。それも俳優業の面白さの1つだと思います。

――将来、俳優としてどうありたいですか?

高良:俳優としてどうありたいかは、人としてどうありたいかに直結するのですが、自分のやっていることに正直でありたいです。

嘘が必要なこともあるので、それは否定しませんが、自分に対して常に正直でありたい。ずるい人になりたくない。世間とズレがあっても、僕は自分の生き方を曲げたくない。こういう生き方しかできない男なんです(笑)。

2024年は俳優生活20周年!

自分に正直に、ずるい人になりたくないと語る高良さん

――本作では、20年前に犯した罪と向き合う春ですが、高良さんは2023年にやり残したり、やってしまった!と後悔したりしていることはありますか? 

高良:やり残したことはないです。やり切った感があります。僕は2024年で俳優生活20周年なんです。普通なら「頑張りたい!」というところですが、自分を見つめ直す時間を増やしたいと考えています。

――では最後に完成した『罪と悪』の感想をお願いします。

高良:地方の小さな町の話ですが、スケールの大きな映画だと思います。監督と俳優たちが密にコミュニケーションをとり、主人公たちの空白の時間にそれぞれがどう思っていたのかをキャラクターに落とし込みながら、作品を完成させたことに感動もしました。

この映画で描かれる世界は、社会の闇を捉えている。今の時代だからこそ、ぜひ劇場でご覧ください。

高良健吾(こうら・けんご)さんのプロフィール

1987年11月12日生まれ。熊本県出身。2006年『ハリヨの夏』で映画デビュー。2011年『軽蔑』で第35回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。2021年『苦役列車』で第36回日本アカデミー賞優秀助演男優賞受賞。2013年『横道世之介』で第56回ブルーリボン賞主演男優賞、第23回日本映画プロフェッショナル大賞主演男優賞を受賞。ほか『蛇にピアス』(2008)『あのこは貴族』(2021)に出演。最新作は『レイニーブルー』(2024)、配信ドラマ『忍びの家 House of Ninjas』(2024年2月15日配信開始/Netflix)。

『罪と悪』2024年2月2日より全国ロードショー

(C)2023「罪と悪」製作委員会 PG12

何者かに殺された14歳の少年。同級生の春(高良健吾)、晃(大東駿介)、朔(石田卓也)は、犯人だと確信した人物を追い詰め、1人がその男の命を奪ってしまう。それから20年後、かつての事件と同じような殺人事件が起こり、3人は再会。そして過去の事件と向き合うことになる……。

監督・脚本:齊藤勇起
出演:高良健吾、大東駿介、石田卓也、村上淳、佐藤浩市(特別出演)、椎名桔平

撮影・取材・文:斎藤 香
(文:斎藤 香(映画ガイド))
    ニュース設定