大谷翔平のメディア対応をロバーツ監督が重視するワケ バリー・ボンズと同僚だった現役時代の経験

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2024年02月15日 10:51  webスポルティーバ

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大谷翔平の新たな旅〜後編〜

大谷翔平が、新天地ロサンゼルス・ドジャースでのスタートを切った。近年も含めMLBでは史上最大規模の高額契約選手の存在がチームの成功にそのまま直結する例は決して多くはないが、大谷を迎え入れたドジャースは、チームとしての成功を妨げるような負の要素が極めて低い環境にある。それゆえに、大黒柱の大谷がメディア対応を含めてどのような振る舞いを見せるのか。「7億ドルの男」としての存在は、グラウンド上のパフォーマンス以外の部分も含めて評価される。

【昨季王者のレンジャーズに見る勝利へのカギ】

 戦力的な備えは十分のドジャースだが、実際に勝つためには、何が必要なのか。ドジャースのデーブ・ロバーツ監督は「チームをひとつにすること」と話す。

 2023年、ニューヨーク・メッツはオフシーズンの勝者と呼ばれ、開幕時のチームのサラリー総額がMLB史上最高の3億5000万ドル(約525億円/1ドル=150円換算 以下同)だったが、結果は公式戦75勝87敗の負け越しでポストシーズンに進めなかった。一方でレンジャーズは2年続けての高額投資で2億5000万ドル(約375億円)、公式戦は前年より勝ち星を22個増やし、ポストシーズンを勝ち上がって、初の世界一に輝いた。

 何が違ったのか? レンジャーズ担当のべテラン記者ジェフ・ウィルソンはこう分析した。

「重要なのは、チームの団結力だと思う。ドジャースも期待が大きいだけに、シーズンが始まり連敗が続いたりするとロバーツ監督の采配が悪いからクビにしろと騒ぎ立てられるだろうし、大谷がスランプに陥り、山本が打ち込まれると、金の払い過ぎだと批判される。

 そんな周囲からの雑音に潰されたのがメッツだった。前年に公式戦101勝(61敗)で大きな期待が寄せられていたが、春先のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で守護神のエドウィン・ディアスがケガをし、大エースのジャスティン・バーランダーもケガで出遅れ、マックス・シャーザーも不振。スティーブ・コーエンオーナーが編成本部長を解任するのではとの憶測も出て、チームは落ち着かないままだった。

 一方でレンジャーズは2021年に102敗(60勝)、2022年に94敗(68勝)のチームだったため、シーズン当初から大して期待されていなかった。だが、3度世界一経験がある新任のブルース・ボウチー監督は、選手を管理するのではなく、のびのびプレーさせた。そして選手たちは球場を離れてもみんなでゴルフをしたり食事会を開いたり、日々絆を強めていった。長いシーズンを戦う上で重要なことで、後半戦苦しい時期もあったが、団結力で乗り越えられたんだと思う」

 大谷も12月の入団会見で「一番大事なのは全員が同じ方向を向いていること」と話したように、チーム一丸となる重要性は認識している。キャンプ初日、「1年目のつもりで、まずは環境とチームメイトに慣れることが最優先」と語り、新しい仲間とのコミュニケーションについても「自ら行きますね、基本的には。いろんな人に挨拶するので、2回目の挨拶に行かないように、一発目で覚えられるように。もし行った時は勘弁してほしい」とユーモアを交えて説明した。

【ロバーツ監督が重視する大谷のメディア対応】

 おやっと思ったのは、キャンプ取材に来ていたMLBの重鎮記者、スポーツ専門サイト『ジ・アスレチック』のケン・ローゼンタールが大谷のメディア対応について、自身の記事の中で注文をつけていたことだ。エンゼルス時代より話す機会を増やさないと、チームメイトに迷惑がかかり、気まずい雰囲気になる心配があるという。例えば負けた試合であっても、時にチームを代表して口を開かねばならない。

「(注目度の高い)選手がメディアと話さないと、ほかの選手が代わって話さなければならなくなる。チームメイトはその選手が責任を果たしていないと憤慨し、チームの雰囲気が悪くなっていく。些細なことと思うかもしれないが、長いシーズンだと、些細ではなくなっていく」

 球界の看板選手ゆえの注文なのだろう。ロバーツ監督はこの件について訊かれると、現役時代の2007年にチームメイトだったサンフランシコ・ジャイアンツのバリー・ボンズを引き合いに出した。あの年、ボンズはハンク・アーロンの通算本塁打記録に挑戦し、全米から記者が集まったが、ボンズはクラブハウスで饒舌に喋るタイプではなかった。

「(大谷とボンズの)ふたりを比較するつもりはないけど、(当時、ボンズの代わりに)私が多くの質問に答えねばならなかった。ほかの選手はその役割に関心を示さなかったからね......」

 その年のジャイアンツは71勝91敗でナ・リーグ西地区の最下位に沈んでいる。

 2月の大谷は2月12日現在ですでに3度も喋っているが、ロバーツ監督は折を見てメディア対応について大谷と話すと答えている。

「ドジャースのユニフォームを身に着けた時に伴うスタンダード(規範)がある。ファンにサインをサービスすること、メディアに対応すること。誰にとっても学び覚えていくことだが、勝利への期待に応えると同時に、質問に応えるのも仕事の一部だ」

 ローゼンタール記者は「メディアに対応することで、人柄や考え方を知ってもらえるし、アスリートにとっても良いこと」と指摘する。

 米国の人たちは、当然大谷についてもっと知りたいと願っている。間に入るのはメディアの役割だ。とはいえ、大谷は今季もDHでのフル出場に加え、投手としてのリハビリがあって忙しい。日々のルーティンは細かく決まっている。加えてメディアに話す機会が増えれば、言葉尻をとらえられたり、誤解を招いたり、リスクもある。気が散ることもある。果たして2024年の大谷はどう対処していくのだろうか。

 アメリカ野球学会「SABR」によると1922年から1934年、球界の最高給選手はあのベーブ・ルースだった。1930年、年俸8万ドルの2年契約を勝ち取り、当時のハーバート・フーバー大統領の年俸7万5000ドルを上回った。大統領よりお金をもらうのはどうなのかと言う質問に"'Why not? I had a better year than he did.(なぜ、ダメなんだ? この1年、彼よりもいい仕事をしているよ)"と答えたのは有名なエピソードだ。ちなみにルースの当初の要求は年俸8万5千ドルの3年契約で、そこでも「大統領は4年契約だけど、自分の要求は3年だから」と大統領以上の報酬は妥当だと説明していた。

 ルースは聖人君子ではなかったし、フィールド外での飲酒や女性関係などゴシップネタも豊富で、とんでもない報道も多々あっただろう。しかしながら新聞をはじめとする当時のメディアを通して米国の国民的英雄になったことは確かで、今でも史上最も偉大な英雄のひとりとして認知されている。

 今はSNSが大きなインパクトを持つ時代だが、「7億ドルの男」大谷についての評価も、メディアの報道を軸に形作られていくのだろう。

前編〉〉〉大谷翔平の価値をドジャースは最大限プラスにできるか 23年前の高額契約のA・ロッドと比較

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