事故映像が怖くて、飛行機に乗れなくなってしまった…恐怖感を克服する方法はある?【脳科学者が解説】

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2024年02月15日 20:51  All About

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飛行機事故のニュースなどを見て、飛行機に乗れなくなってしまった、という話を聞くことがあります。墜落するのではないかという恐怖感や不安感を克服することはできるのでしょうか? 脳科学的に、わかりやすく解説します。

Q. 飛行機に乗るのが怖いです。恐怖感を克服することはできますか?

Q. 「子どもの頃に飛行機事故のドキュメンタリーを見てから、飛行機に乗るのが怖くなってしまいました。出張や旅行など、不便なことも多く悩んでいます。他のものへの恐怖感などはなく、パニック障害などの心の病気でもないと思っているのですが、飛行機の怖さを克服する方法はないでしょうか?」

A. 現局性恐怖症なら、楽しい思い出や知識の強化などの「再学習」で改善可能です

恐怖心にお悩みとのことですが、まず最初に知っておいていただきたいのは、不安や恐怖は、環境の変化に応答する正常な心(脳)の動きで、誰にでも備わっているものだということです。地震速報や火災報知機のようなもので、危険を先に知らせてくれる大切なサインなので、適切な不安感や恐怖感はいいものだとお考え下さい。

ただ、生活に支障が出るほどの状態は、大変なことと思います。特に心の病気ではないと考えておられるようですが、一般に「不安障害」と呼ばれるものの可能性も考えられます。特に恐怖が強い場合は、「恐怖症性不安障害」と言われるものです。

恐怖症性不安障害にはたくさんの種類ありますが、ご質問のように飛行機など特定の対象に対して強い不安や恐怖を感じるものは「現局性恐怖症」と言います。飛行機以外にも、高所、雷、トンネルなどに強い恐怖を感じる方もいます。現実にその場にいなくても、写真を見たり、想像したりしただけで身をすくめてしまうなど、異様な恐怖を感じやすいのも特徴です。

恐怖症性不安障害は、考え方や性格も関係しているため簡単には治らないことも少なくありませんが、現局性恐怖症の場合は、怖さを感じる対象がはっきりしているので、ちょっとした工夫で改善が期待できます。

飛行機事故の映像などを見て怖くなったということは、ある種の学習・記憶によって恐怖が形成されたわけですから、それを打ち消すためには、再学習によって新しい記憶を上書きするのが一つの方法です。

たとえば、最初はなるべく短時間の搭乗ですむ国内線を試してみたり、自分一人ではなく信頼できる家族や知人と一緒に乗ったりということを繰り返すうちに、「安全に乗れた」という体験から再学習することができ、慣れてくることも期待できます。

また、とても楽しみにできる旅行の一部に少しだけ飛行機を利用することで、楽しみな感情の方が上回って、恐怖感を抱きにくくなることもあります。

また、私たちは、分からないものに対して不安や恐れを抱きます。よく知っている人よりも、初対面の人を「怖そう」と感じたりするのはそのためですね。飛行機に対する恐怖も似ています。重い鉄の塊がどうして空を飛べるのかわからないといった点も、不安の一因になりますから、飛行機のことをもっと深く理解してみるのもいいでしょう。

話が少しそれるようですが、ある日まだ小さかった筆者の子どもが「舟がどうして水に浮かぶのか」という素朴な疑問を投げかけてきたので、一緒にお風呂の湯舟に入ったときに、「上向きにした風呂桶をそのまま水に沈めてごらん」と語りかけてみました。

子どもはチャレンジしましたが、ご想像の通り、風呂桶は簡単には沈みませんでした。いくら押しても桶が沈まないのを体感したことで、「強い浮力で押し返される」という原理を実感したようです。

それと同じように、たとえば飛行場とか科学館のようなところで、飛行機の羽の形状と気流の関係で生み出される浮力の原理を体感すると「なるほどね」と納得できることでしょう。

また、飛行機が安全に飛行しているところを繰り返し見たり、データに触れることによって、理解を深める方法もあります。そもそも飛行機は非常に高い安全性が確保されているため、飛行機事故にあう確率は、自動車事故にあう確率よりもはるかに低いといったデータなどもあります。

とは言っても、飛行機に乗るというのは誰にとっても非日常的な体験ですから、多少の不安は残るかもしれません。筆者自身も決して飛行機が苦手ではありませんが、搭乗前や離着陸の時は、やはり緊張します。しかし、いざ離陸してしまえば、飛行中は楽しめるものです。

普段だと、多くの人が往来する街を歩いたり、仕事の連絡が頻繁にあったりして、休みたくてもなかなか休めず、ストレスが続きます。しかし、飛行機に乗っている間は、誰にも気兼ねなく、シートに座って休むことができますし、寝ていても「さぼっている」と指摘されることはありません。

それにじっとしているだけで、飲み物や食べ物のサービスもしてくれますし、ときには「寒くないですか」と毛布まで用意してくれます。目の前の画面で、地上では未公開の映画を先行視聴できたり、好きな音楽を聴いたりもできます。「なんて至福の一時」と感じます。

晴れた日に窓際の席に座れたときは、窓から眺める眼下の景色を楽しむこともできます。絶対に地上からは見られない壮大な景色に感動しますし、地図どおりの形をしている海岸線などを目の当たりにして「地上にいながら正確な地図を作った人ってすごいな」と感心することもできます。

故郷の瀬戸内上空を通過するときには、「あそこで遊んだな」などと自分が過ごした少年時代の思い出がよみがえったりすることもあります。そんな景色を眺めていると、「まもなく着陸態勢に入ります」というアナウンスを聞いて、「もうちょっと飛んでいたかった」と思うことさえあります。

ちなみに子どもたちと一緒に旅行したとき、子どもたちはイヤホンで音楽を聴きながらずっとゲームをやっていました。普段だったら長時間ゲームをすると叱られるのに、飛行機の中だと何も言われないので、すごく楽しそうでした。

途中、上空で揺れが激しくなったときには怖がっていましたが、降りるときにはすっかり忘れて、楽しかった思い出の方が上回っているようでした。

飛行機で楽しい体験を重ねること、飛行機のことをよく知ることなどで、新しい情報に上書きできれば、恐怖の記憶はきっと減らせるはずです。ご自身にあった方法を、少しずつ試してみてください。

阿部 和穂プロフィール

薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。
(文:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者))

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  • マイカーとバイクと自転車の怖い事故映像を立て続けに見たら良いよ。
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