那須川天心のボクシング3戦目を井上尚弥のいとこ・浩樹が総括「左のカウンターがうまい」「左ストレートやワンツーを当てるシーンが少ない」

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2024年02月20日 10:51  webスポルティーバ

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井上浩樹インタビュー 後編

(前編:井上尚弥の次戦が濃厚な相手ルイス・ネリは難敵「セオリー通りじゃないところが怖い」>>)

 2024年1月23日(エディオンアリーナ大阪)、那須川天心はボクシング転向後3戦目で、WBA、WBO世界バンタム級14位のルイス・ロブレス(メキシコ)と対戦した。那須川はスピードで相手を圧倒し、右ジャブや左ボディを効果的にヒット。試合は3ラウンド終了後、ロブレスが棄権したためTKO勝利を収めた。

 井上浩樹に、この試合で那須川が進化したポイント、バンタム級転向で期待される豪華な日本人対決について聞いた。

【抜群の距離感】

――天心選手の3戦目について、率直にどう見ましたか?

「ちょっと試合が短かったですが、過去2戦と比べるとすごくよくなっていますね」

――具体的にどのあたりでしょうか?

「(サウスポーである天心の)右のジャブですね。散らし方、タイミング、距離感もいいし、今回の相手のようなオーソドックスの選手にとって嫌なタイミングで打ったりもしていました。そして、踏み込みも速い。あれほどきれいに、中(ロブレスのガードの内側)から当てることはなかなか難しいんですけどね。相手がまったくついていけませんでした」

――以前、浩樹選手に伺った際、天心選手のサイドに回る動きが「ワシル・ロマチェンコ選手のようだ」と話していましたが、今回は?

「サイドへの動きは、あまりなかったですね。重心を低くしてどっしり構えていました。パンチを避けることに関しては、キック時代からギリギリの攻防の中で打っているイメージがあった。1ラウンドは、バックステップで避けるシーンが多いかなと思ったんですけど、2ラウンド目から距離を把握したのか、スウェーなどのボディーワークで避けて、すぐに打ち返してました。やはり、距離感がいいなと見ていました」

――試合が始まってすぐ、パンチがギリギリ見切れる距離を把握したと?

「そうですね。そのあたりの感覚もすばらしいと思います」

――右のジャブに加えて、左のボディもきれいに決まっていました。

「あのボディは、サウスポーの選手がオーソドックスな選手に対して多用するイメージがあります。ボディストレートや、ボディアッパーですね。相手がボディアッパーを警戒すると右ガードが下がるので、その瞬間にフックへと軌道を変えたり、顔へのアッパーに変えたり。下を意識させることで上へのパンチが当てやすくなります。左ボディを使ってパンチをうまく散らしていました」

【同じサウスポーとして「気になる点」】

――天心選手のスピードや、パンチの質はどう見えますか?

「スピードはピカイチだと思います。パンチは......相手にダメージを与えるようなパンチを打とうとしているのか、そういったパンチはあまり積極的に打とうとしてないのか、そのへんの判断はつきかねます。力を込めて打つパンチは、打つ側も当然リスクが伴います。力んだり、ガードが甘くなったりしますから。徹底してスピードで相手を翻弄して戦うほうが、被弾するリスクは抑えられるでしょう。

 そういった戦い方をするには、飛び抜けたスピードと、動き続けるスタミナが必要ですが、天心選手はスタミナもありそうですよね。倒す・倒さないが話題になったりしますが、スピードで相手を寄せつけずに圧倒するボクシングでもいいと思います。選手は、自分の特性に合った戦術を見つけることが大事です」

――ボクシング転向後3戦目で成長の途中だと思いますが、最も力を発揮できるスタイルで戦えばいいということですね。

「そうですね。勝ち方はいろいろありますから。KOするにしても、スピードで圧倒するにしても、なかなかできることではありません」

――天心選手は前戦で左拳を骨折したため、練習ではひたすらシャドーを繰り返したそうです。浩樹選手も、ケガをした際はそういった練習メニューになるのですか?

「そういった経験は山ほどあります。左手が使えなかったら、右手、右足、左足と使える部分を鍛えたり、右のパンチをレベルアップする時間にしたり。練習しないと不安になりがちなので、『できることをやろう』と。ポジティブに考えることが大切だと思いますね」

――浩樹選手も同じサウスポーですが、その視点での天心選手の印象はいかがですか?

「左のカウンターがうまいですね。相手のパンチを絶妙なタイミングで外して打っています。ひとつ気になる点を挙げるとすると、自らステップインして左ストレートやワンツーを当てるシーンが少ないことです。

 相手の右を外して左を返すシーンはよく見ますが、ワンツーで距離を詰めることができそうな時も、ジャブからボディに繋げたりと、下に打つことが多いイメージです。帝拳ジムの大先輩である山中慎介さんのような"踏み込んでのワンツー"、伸びる左ストレートを見てみたいな、と思いますね。左のパンチのキレはすごいので、さらに積極的にワンツーを打てるようになれば、より効果的な攻撃が可能になると思いますね」

【対戦が楽しみな日本人選手は?】

――天心選手は階級をひとつ下げて、バンタム級に転向することになりました。この階級は日本人選手のタレントが揃っています。楽しみなカードはありますか?

<バンタム級 各団体の主な日本人選手の世界ランキング>(2月19日現在)
◆WBA 
【王者】井上拓真
【1位】石田匠
【4位】堤聖也
【5位】比嘉大吾
【7位】那須川天心
【12位】武居由樹

◆WBC
【1位】中谷潤人
【6位】比嘉大吾
【7位】西田凌佑
【10位】石田匠
【11位】堤聖也
【13位】栗原慶太

◆WBO
【2位】西田凌佑
【3位】石田匠
【4位】比嘉大吾
【10位】武居由樹
【12位】堤聖也

◆IBF
【1位】西田凌佑
【3位】石田匠
【4位】堤聖也
【10位】比嘉大吾

「拓真と中谷選手は、頭ひとつ抜けていると思います。天心選手のスタイルからすると、日本王座を返上した堤選手のようなタイプはやりづらいかもしれませんね。28歳でキャリアもありますし、10ラウンドをフルで戦い抜くスタミナや気力もあります。オーソドックス、サウスポーにスイッチもできて、相手が嫌がるボクシングをするのがすごく得意だと思うので」

――K‐1からボクシングに転向した武居選手は、大橋ジムでは浩樹選手の後輩にあたります。生粋のボクサーと違うところ、特色はありますか?

「普通、ボクサーには基本の型があるものですが、それを全部ぶっ壊してるイメージはありますね。例えば、ジャブを突いて、そのジャブが当たったらストレートに繋げてワンツーにする、というのもセオリーのひとつ。でも武居選手は、そこから外れている。『奇想天外な動きをする選手だな』と思っていました。一度、マスボクシングをやったことあるんですけど、『なるほど、みんなこれをもらっちゃうのか』と感じましたね」

――どういったパンチ、動きなんですか?

「独特な距離感と、パンチのフェイントもそう。なんていうか......動物っぽくて面白かったです。なんとなく、チーターとかトラといった感じでしょうか。いきなりグワッと入ってくる、遠い距離から一気に詰めてくるイメージですね。ビックリ箱みたいな感じです」

――武居選手はボクシング転向後、8戦8勝8KO。全試合がKO勝利です。

「完全に、相手が"パンチが見えていない倒れ方"をしています。しっかりフェイントに引っかけて、パンチを当てている。相手の意識の外から打っているというか、"だます"パンチの打ち方というんでしょうかね。それに長けています。

 さらに武居選手はパンチ力や体の力もある。それらが重なって、あの破壊力、倒しっぷりにつながっているんだと思います」

――キックボクシングから転向した選手同士ですし、2人の試合が決まったら注目度が高まりそうですね。

「僕も見てみたいですね。同じキック出身ですが、ファイトスタイルは全然違います。僕は、キックや総合格闘技もすごく好きで、昔からずっと見てきました。武居選手のことは大橋ジムに入る前から見てましたし、もちろん天心選手の試合も見てきたので、ファン目線で見てみたいカードです。絶対に盛り上がると思いますよ」

(自身の次戦について:井上尚弥・拓真との試合後のカップラーメンも「解禁しようかと」井上浩樹が因縁の相手と統一戦へ>>)

【プロフィール】
■井上浩樹(いのうえ・こうき)


1992年5月11日生まれ、神奈川県座間市出身。身長178cm。いとこの井上尚弥・拓真と共に、2人の父である真吾さんの指導で小3からボクシングを始める。アマチュア戦績は130戦112勝(60KO)18敗で通算5冠。2015年12月に大橋ジムでプロデビュー。2019年4月に日本スーパーライト級王座、同年12月にWBOアジアパシフィック同級王座を獲得。2020年7月に日本同級タイトル戦で7回負傷TKO負けを喫し、引退を表明したが、2023年2月、約2年7カ月ぶりに復帰。8月、WBOアジアパシフィック・スーパーライト級王座決定戦に勝利。2024年2月22日に、東京・後楽園ホールで、東洋太平洋同級王者・永田大士との王座統一戦を控えている。18戦17勝(14KO)1敗。左ボクサーファイター。アニメやゲームが好きで、自他ともに認める「オタクボクサー」。

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