日本代表リベロ西村弥菜美が語った五輪シーズンならではのポジティブ要素 Vリーグ佳境へ

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2024年02月23日 07:41  webスポルティーバ

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 リーグ優勝を懸けたV1女子ファイナルステージが2月24日から始まる。クォーターファイナルの組み合わせは久光(レギュラーシーズン3位)対トヨタ車体(同6位)、埼玉上尾(同4位)対デンソー(同5位)となる。

 その日、SAGAアリーナにはYOASOBIやAdoなど人気歌手のヒットソングが流れ、そのリズムに合わせて、大勢の観客が手拍子を鳴らしていた。モニターに映し出されたチームマスコットが振り付きで踊るのを、一生懸命に真似る幼い女の子もいた。とても賑やかでエネルギッシュで、若々しい空間だった。

 2月11日、久光スプリングスは本拠地の佐賀に埼玉上尾メディックスを迎えていた。レギュラーラウンドの最終戦で、4000人以上が集まった。

「GO SPRINGS!」と、大音量ステレオで掛け声がアナウンスされると、会場に熱気が満ちる。だが殺伐とした感じはない。家族連れや友人同士が多く、アットホームだ。

 会場と一体となる後押しを受けた久光は第1セットを先取するも、第3セットでリードを許す。しかしフルセットに持ち込み、劇的な逆転勝利を収めている。レギュラーシーズンはこれで18勝4敗の3位。2月24日から始まる上位6チームによるファイナルステージ、クォーターファイナルに進出し、2シーズンぶりの優勝を目指す。

 今年は7月にパリ五輪が開催されるため、女子V1も変則的なシーズン日程になっている。その五輪は6月、福岡で行なわれる「ネーションズリーグ」を戦った後の世界ランキングで出場権を争うことになる。

 オリンピックシーズンにVリーグを戦う女子選手たちは湧き上がる熱量をどう転換しているのか。

 過去10シーズン、久光はVリーグ6度の優勝を誇り、日本女子バレーボールを牽引してきた。

 埼玉上尾戦では、日本代表でも活躍してきたオポジット、長岡望悠の"エースの輝き"は圧巻だった。サウスポーから繰り出すスパイクは強烈。相手にペースを奪われそうになると、バックアタック、フェイントを剛柔で駆使し、流れを引き戻した。セッター栄絵里香からのバックトスを信じて跳び、渾身を左腕に伝えて振り下ろす一撃は、敵に絶望を与えていた。

【総力戦がひとりひとりの力を高めた】

 長岡は膝前十字靭帯断裂と格闘しながら、チームをリードしている。そのケガは完治後も日常的につきまとう難儀なものだといい、それに立ち向かう精神的タフさは尋常ではない。チームが信奉する「粘り強く不屈な戦い」というスタイルにも結びつく。

「ホーム最後の試合、ファンの皆さんの力をいただいて、思う存分できました。これを次につなげ、いい流れになるように持っていきたいです」

 長岡はそう言って熱戦を振り返ったが、周りの選手たちも意気に感じていたはずで、その熱を力に換えられるからこそ、彼女たちは強いのだろう。

 たとえば中川美柚はコート脇で出番を待ちながら、味方の得点が決まるたび、体を弾ませていた。喜びのダンスでハイタッチをし、小さく跳ねて投げキッスを送り、とことんチームを盛り上げる。コートに立っているのと同じ熱量だった。そしていざコートに立ったときは、ひとつに束ねた長い髪を揺らし、貴重なスパイクで得点した。

 また、ルーキーの北窓絢音はコートの隅で重りを持ち上げて肩をならし、縄跳びで体を動かし、実直な鍛錬を重ねていた。なかなか出場機会は巡ってこなかったが、リリーフサーバーとしてコートに立つと、守乱を起こすサーブを決めた。

「今シーズンは中川、深澤(めぐみ)、そして後半になって北窓も出せたのは大きな収穫です」(久光・酒井新悟監督)

 総力戦がひとりひとりの力を高めた。

「1シーズン、試合を重ねていくことでチームを作ってきた感じです」

 長岡もそう明かしている。

「(シーズン)後半になるにつれ、(主力で)出ているメンバーだけではなくて、(控えで)これからの選手の活躍でも、勝利が増えてきています。そこはプラスで。チームとして成長できているって思います」

 ひとりひとりの戦いの結晶が、その先につながる。

「個人的に今シーズンは、ディグ(強打をさばくレシーブ)に力を入れてやってきて、シーズン最初の頃よりも、"ボールの勢いを殺す"のを意識できるようになりました。試合を重ねて変わってきたなって思います」

 そう語ったのは、日本代表リベロの西村弥菜美だ。

 今シーズン、西村は全22試合フル出場で、Vリーグのサーブレシーブ賞を2年連続で受賞している。リベロとして五輪を目指す代表に選ばれ、外国人選手の高さやパワーを体感し、成長スピードが上がった。守りありきのリベロは「ミスを取り返せないポジション」とも言えるが、マインドセットが安定し、精度がアップ。埼玉上尾戦の第4セットでは苦しい場面でスパイクを連続で拾い、逆転への橋頭堡(きょうとうほ)を築いた。

――オリンピックシーズンは注目を浴びますが、自分の力を引き上げるきっかけになっていますか?

 筆者の質問に、西村はこう答えている。

「オリンピックシーズンでリーグ自体が短期間になっていて、だからこそ、というわけではないですが、1戦1戦が本当に大事で。上位6チームに入る1戦の重みは短い分、大切だった感じです」

 濃厚な時間を過ごし、成長を遂げたということか。それぞれがチームの中で役割があって、逆境に打ち克ち、何かをつかみ取るポジティブな作用を生み出している。 

「チームから代表メンバーが出るのは嬉しいです」

 そう語ったのはベテランの栄だ。

「濱松(明日香)、荒木(彩花)という若手が代表に入るのは嬉しいし、幸せです。若い選手がもっと代表に行ける手助けを少しでもできれば。彼女たちの成長につなげられるように頑張っていきたいです」

 その献身があるからこそ、強さは受け継がれる。オリンピックシーズンは、ひとつの継承の節目になるのだろう。V1リーグはこれから佳境に入る。
 
 

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