サガン鳥栖・川井健太の指導者論「選手をうまくさせたい」「新しいことは好き、流行りは嫌い」

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2024年02月23日 11:01  webスポルティーバ

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川井健太監督(サガン鳥栖)インタビュー(後編)

 サガン鳥栖を率いて3年目になる川井健太監督(42歳)は、現在のJ1リーグで最年少監督である。

 川井監督は2008年から17年まで愛媛女子短期大学、環太平洋大学短期大学部、愛媛FCレディースなど女子サッカーの監督として研鑽を積み、頭角を現している。日本国内では稀有な例と言える。2018年、36歳でJ2愛媛FCを率いて3シーズン、カテゴリーを維持。2021年はJ2モンテディオ山形でコーチを務めた。

「健太さんのおかげで、サッカー選手として啓発された」

 選手の評判はすこぶるいい。鳥栖に集った長沼洋一、堀米勇輝、森谷賢太郎、山崎浩介はいずれも、過去に川井監督の薫陶を受けてきた選手たちだ。他に半田陸(ガンバ大阪)、川村拓夢(サンフレッチェ広島)も"チルドレン"と言えるかもしれない。

 新時代の指導者として注目される男の監督論とは?
 
――レバークーゼンを率いて「新時代の名将」となっているシャビ・アロンソに質問したことがあります。「あなたは現役引退後すぐの監督1年目でレアル・マドリードU−14を無敗優勝させ、2年目でレアル・ソシエダBを2部昇格のプレーオフに導きました(3年目で2部へ昇格)。監督 1年目で、なぜそれほど指揮官として活躍できるのか?」と。彼の答えは、「自分は選手時代から監督になる準備をしてきた。それができていないなら、監督などできない」と明快でした。日本ではいきなり監督道を突き進むよりも、丁稚奉公のように監督になるケースが多い(コーチをやりながらライセンスを10年がかりで取る)ですが、「サッカー監督」をどう捉えていますか?

「歴史上、日本でも両方ともいますよね。ただ、後者が圧倒的に多いのは確かで。これからは前者が出てくると思いますけど、シャビ・アロンソは現役時代のプレーヤーの経験から、すべてを操る感覚で、その発言に至ったのだと思います。ひとつ言えるのは、日常から決断をしているのでしょうね。これはフットボールの監督だけじゃなくて、決断をしている人はリーダーに、すっとなれる」

【クビになる確率は低くなるけど...】

――シャビ・アロンソは「監督は資質があるか、なしか」だとも言っていました。

「極論で言えば、そうですね。自分は何か新しいことを求めていきたい。それで、みんなが喜んでくれるのが1番です。これは賛否両論あるんでしょうけど、『みんなが求めるから、それをやる』ではない。僕がやろうとしていることに、後からリンクしてほしいんです。言ってみれば、それが『結果が出る』ということになるんでしょうけど。究極の答えは絶対に交わるはずで、いいものを作れば、そこに辿り着くと思っています」

――監督は作品を展開し合うわけで、パーソナリティのぶつけ合いになります。

「パーソナリティは大事ですね。この職業、前提としてクビになることがあるわけじゃないですか。クビにならないようにする方法って、その決定をする人が求めていることを、その人の言うとおりにすることで、それで(クビになる)確率は低くなる。でも、監督は決断をするのは自分であるべきです。

 フットボールって、得点と失点、究極の二択。だから最近、選手によく言うんですが、『そのプレーが得点(の確率)は51%、失点が49%だったら、絶対、得点のほうを選びなさい』と。『失点(の確率)が7割以上、じゃあクリア』とか。それをやり続けることがチームを強くするには大事で、『今どっち?』という究極論を戦わせているだけなんです。そう考えると、『瞬時に決断をしていく』というところがあるなら、監督にはなれるものだと思っています。実際、そういう時代が来るんじゃないですかね」

――監督が誰かの評価を気にして決断していたら、チームはふわふわしますね。

「ふわふわしてしまうと、選手にも伝わってしまう。自分は、決断をしたことを正解にする仕事にすごくやりがいを感じています。AかBかを選ぶというよりも、選んだほうを正解することにパワーを注ぎたいですね」

――J1リーグでは最年少監督です。ただ、世界ではシャビ・アロンソ、ミケル・アルテタ(アーセナル)、アンドニ・イラオラ(ボーンマス)、シャビ・エルナンデス(バルセロナ)、ルベン・アモリム(スポルティング)など40歳前後の名将がどんどん出ています。

「そうですね、アルテタが同い年ですが、J1ではまた一番下になっちゃった。今から出てくるでしょうけどね。36歳からJリーグの監督を始めて、年下の監督と対戦するのは楽しみです。それまで続けているか、わからないですけど(笑)」

――自分のパーソナリティを分析してください、と言われたら?

「『無口で、喋りたいかというと、喋りたくない。人前に出たいかと言われると、出たくない』ですね。近頃はイベントが続いたのですが、人前で話すと声が小さくなって(笑)。ミーティングでは伝えたいことがあるから、パンパンパンと言葉が出てくるんですが。だから、好きなことしかやっていない、という人間ですね。チームの挨拶はスーツですが、『ジャージで行っていい?』って試しに聞いたら、『参拝があるので』と諭されました(笑)」

――オリジナルで監督像を作ってきた印象です。

「過去を振り返ると、環境に恵まれていたんでしょうね。自分でやらないといけない、考えないといけない環境でした。それも、答え合わせができず、答えがないなかでやり続けないといけなかった。ライセンスを取りに行って、『案外と合っているんだな、じゃあ、この考えでいいんだ』となりました」

――答えなしでも探し求められたのは、サッカーが好きという熱量が巨大だったから?

「好きだからこそ、探究心があったんでしょうね。監督を始めたころ、負けた後の選手の悔しそうな表情を見て、『うまくさせたい』とシンプルに思いました。『自分が何かやりたい、知りたい』は後に来たもので、試合結果どうこうではなくて、プレーがうまくいかない選手が、どうやったらうまくいって、変えられるのか。そこは今でも大事にしています」

――仮説を立てて、実証するという実験が続きますね。

「新しいことは好きですが、流行りは嫌いなんです。マイノリティ(の志向)なんですかね。新しいものってゼロじゃないですか? 人より先に何か見つけていきたい。これは性(さが)かもしれません。みんなが知らない曲をひとりだけ知っていて、売れたら興味がなくなる、みたいな(笑)」

Profile
川井健太(かわい・けんた)
1981年6月7日、愛媛県生まれ。現役時代は愛媛FCでプレー。指導者としては環太平洋短期大学部サッカー部監督を皮切りに、愛媛FCレディースヘッドコーチ、日本サッカー協会ナショナルトレセンコーチ、愛媛FCレディース監督、愛媛FC U‐18監督、愛媛FC監督、モンテディオ山形コーチを経て、2022シーズンからサガン鳥栖監督に就任した。

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