笑って済ませちゃう? バイク乗り「思い出エピソード」 第46回 「バイアス」と「ラジアル」、何が違う? 【タイヤ選び:後編】

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2024年02月24日 17:21  マイナビニュース

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バイクのタイヤをリプレースする際、小・中型車では純正指定のサイズで「バイアス」と「ラジアル」の二つが設定されていることがあります。ラジアルの方が価格は高く、同じバイクの純正タイヤでも上級グレードに設定されることがあるため、バイアスよりランクが上のスペシャルタイヤだと思うかもしれません。



確かにバイアスより新しい技術のラジアルは高性能タイヤですが、すべての面でバイアスが劣っているわけではなく、それぞれに特性があります。今回はこの二つのタイヤについて解説します。

■内部構造に違いがある「バイアス」と「ラジアル」



タイヤは一見するとゴムの輪っかに見えますが、ゴムだけでは中に入れる空気の圧力や高速回転するタイヤの遠心力、車体や路面から受ける高荷重に耐えることはできません。風船のように膨らんでしまったり、変形してホイールから外れてしまうでしょう。



そのため、タイヤは最適な形状を維持するため、ゴム以外にもさまざまな補強材が使われています。その中のひとつが表面のゴムの下にある「カーカス」と呼ばれるもので、タイヤの芯や骨格とも言える重要な部材です。



「カーカス」はナイロンやアラミド、スチールなどの強靭な繊維で織られたコード布で、衣服で使われる布のように、引っ張る方向によって伸び方や強度が異なります。この「カーカス」の配置が「バイアス(BIAS・斜め・偏向)」なのが「バイアスタイヤ」、「ラジアル(RADIAL・放射状)」なら「ラジアルタイヤ」というわけです。


■「バイアス」と「ラジアル」、それぞれのメリット・デメリット



バイアスタイヤは斜めのカーカスを互い違いに重ねた構造で、トレッド、ショルダー、サイドウオールのタイヤ全体で剛性を出しています。大きな力を受けた時はタイヤ全体がたわむため、悪路や低速では乗り心地が良く、高荷重に耐えることができます。また、価格が安いのも大きなメリットです。しかし、強い遠心力が発生する超高速ではトレッドが膨らむように変形し、グリップ力や燃費の低下、発熱による摩耗を招くという弱点があります。



対してラジアルタイヤはカーカスが放射状に配置され、その外周をベルトで締め上げる構造で、路面と接地するトレッドは剛性が高く、タイヤ側面のサイドウオールは柔軟というように、部位で異なる特性を与えられています。これにより高速走行でも安定した接地面を確保し、しなやかなサイドウオールが高い路面追従性を発揮します。今やパワフルでスピードの出る中型以上のスポーツバイクでは必須の装備です。



ラジアルタイヤの登場によってバイアスタイヤの課題だった高速性能は克服されました。高速道路の長時間走行を難なくこなし、耐摩耗性や燃費性能も向上しています。300km/hオーバーの最高速度と超高速コーナリングが可能な市販車が誕生したのもラジアルタイヤのおかげというわけです。



しかし、すべてのバイクが高速性能を必要としているわけではありません。一般道の走行が主体の原付や小・中型車、オフロード車ならバイアスタイヤの方が乗り心地もよく、価格もリーズナブルです。スーパースポーツや高速ツアラーより巡航速度は低いものの、高速道路のクルージングが想定される大型アメリカンやクルーザー用には、バイアスを強化してラジアルに近づけた「ベルテッドバイアス(セミラジアル)」というタイヤもあります。



ラジアルもバイアスも進化は続いており、小・中型車のサーキット走行を想定したハイグリップ・バイアスや、ロングツーリングに特化したラジアルなど、さまざまな用途に対応するタイヤが販売されています。


■バイク用ラジアルの登場が遅かった理由

クルマ用のラジアルタイヤが登場したのは1949年で、日本でも1960年代には国産メーカーが市販したため急速に普及しました。対してバイク用ラジアルタイヤの登場はこれよりも遅く、本格的にさまざまなサイズのリプレース用ラジアルが市販されたのは1987年になってからです。



バイク用ラジアルタイヤの登場が遅れた理由は、当初は車体を傾けて走るバイクの場合、サイドウオールの柔らかいラジアルは適していないと考えられていたからです。しかし、バイクのパワーが上がって高速化すると従来のバイアスでは厳しくなります。カーカスをさらに重ねて剛性を上げれば硬くて重いタイヤになってしまうため、やはりバイク専用のラジアルが必要になったというわけです。



初めてバイク用ラジアルタイヤが登場したのは1980年代の初めで、トライアルやロードレースというコンペティションで成績を残した後、1983年にはヤマハの市販車で純正採用されています。(XJ750D-II)同時期には国内外のタイヤメーカーからもラジアルがリリースされ、バイク雑誌でも取り上げられて話題となりますが、これで一気にラジアルに切り替わることはありませんでした。



当時はバブル景気に後押しされた空前のバイクブームで、毎月のように新型のバイクが登場しては飛ぶように売れていた時代です。多くの人が高性能で新しいモノに飛びついていたのに、なぜラジアルタイヤは普及しなかったのでしょうか。

■激動の80年代はバイアス全盛、90年代の大型車ブームでラジアルが本領発揮



これは80年代初期のバイク用ラジアル黎明期をよく知るタイヤショップで聞いた話ですが、大半のライダーはバイク本体やカスタムパーツ、ヘルメットやウエアにこだわっても、タイヤに対しては“地味な消耗品”とばかりに無頓着で、タイヤの重要性が分かっている走り屋系のライダーでも、出たばかりのラジアルには懐疑的な意見が多かったそうです。



クルマでもラジアルの普及初期は多くのドライバーが違和感を訴えたので、よりフィーリングが重要なバイクの場合、従来のバイアスに慣れたライダーはラジアルの軽快なハンドリングを異質なものに感じたはずです。クルマと違ってバイクは滑ると転倒するリスクがあるため、未知の部分が多いラジアルより、長い実績を持つバイアスの方が安心だと思っても不思議ではありません。



また、1980年代は国内で中型スポーツの開発競争が激化し、毎月のように新機構のエンジンやフレーム、サスペンションなどが登場してバイクの基本設計が目まぐるしく変化しました。ホイールも従来の19〜18インチから16インチの小径極太サイズが主流となったため、タイヤメーカーはバイアスの開発だけでも苦労したはずです。また、初期のラジアルはバイアスを履くバイクの細いリム幅では実力を発揮できませんでした。



激しい開発競争の末、1980年代後半に入るとスポーツバイクの最適解はアルミフレームとリンク式リア・モノショック、ホイールは17インチで落ち着きます。リム幅もワイドになったことでラジアルも本来の性能を引き出す扁平化が可能になりました。90年代に入ると中型スポーツのブームは終焉を迎えますが、高性能スポーツバイクの基本設計は大型にも継承されてラジアルの開発も進み、以後のビッグバイクブームでは最高速度が300km/hに届く市販車が次々に誕生することになります。


■古いタイヤのままでは損! フレッシュタイヤでさらに広がるバイクの楽しさ



タイヤはハンドリングに大きく影響し、そのバイクのキャラクターを大きく変えるパーツです。フレッシュなタイヤに交換しただけでライディングがスムーズになり、まるで自分が上手になったと錯覚するほどの効果があります。



今バイクに装着されているタイヤとは違うメーカーやカテゴリーの製品に履き替えれば大きな違いを感じ取ることができるはずですが、あまり冒険したくなければタイヤメーカーがそのバイクに合わせてチューニングした「純正タイヤ」を選ぶという方法もあります。ただ、車体設計が目まぐるしく変わっていた80年代とは違い、現在のバイクとタイヤはサイズが合っていれば純正以外でも相性はよく、大きくハンドリングが崩れることはありません。



タイヤの状態が悪ければバイクのポテンシャルも大きく落ちてしまいます。愛車とのバイクライフを安全で楽しいものにするため、ぜひシーズン前のタイヤ交換を検討してみてください。



津原リョウ 二輪・四輪、IT、家電などの商品企画や広告・デザイン全般に従事するクリエイター。エンジンOHからON/OFFサーキット走行、長距離キャンプツーリングまでバイク遊びは一通り経験し、1950年代のBMWから最新スポーツまで数多く試乗。印象的だったバイクは「MVアグスタ F4」と「Kawasaki KX500」。 この著者の記事一覧はこちら(津原リョウ)

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