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前回からの続き。俺は35歳のリョウマ。先日妻チハルが双子のアカリとマヒルを出産し、父親になったばかりだ。しかしちょうど同じころ、実家の母さんに大きな病気がわかった。残念ながら手の施しようがなく「余命半年」とのこと。これまで育ててくれた母さんにはできる限り恩返しがしたい。最後に望むことがあるなら何でもしてあげたい……。俺は強くそう思ったのだった。
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病状の説明を受けて、俺と父さんはうろたえるばかりだった。ただ驚くことに、母さんは意外とすんなり自身の状態を受け入れたのだった。検査の前から最悪の事態を覚悟していたのかもしれないし、残りわずかな人生に悲しんでいるヒマなどないと思ったのかもしれない。
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俺と父さんは「生きているうちに叶えておきたいこと」を母さんにリストアップしてもらうことにした。もちろん俺はすべての希望を叶えるつもりでいた。けれど母さんの望みはたったひとつ。「身体が動くうちに夫や息子、孫たちと2泊3日で北海道旅行をしたい」というものだった。しかし俺はふと疑問に思った。あれほど双子妊娠を嫌がっていたのに、どうして一緒に旅行をしたいという心境になったのだろう……?
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アカリとマヒルが産まれる3か月くらい前、両親はバスツアーに参加したそうだ。そして一緒になった年上の老夫婦と話しているうち、孫の話題になってこう言われたらしい。「ウチの孫もね、双子なんですよ! もう小学生ですけれど。男の子と女の子の双子! お嫁さんは子育て大変そうだけれどねぇ、うーんと賑やかになってとっても楽しいですよ〜!」
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「双子っていうのは縁起が悪い、なんて忌み嫌われて……」「んもうっ! そんなのいつの時代のお話よぉ〜!」両親はどう見ても自分たちより年代が上の人に、「いつの時代の話」と笑いとばされてショックを受けたそうだ。
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父さんも母さんもただ「多胎妊娠は縁起が悪い」という迷信を真に受けていただけ。本当は孫たちに惜しみない愛情をそそいでくれる素晴らしい両親なのだ。絶対にアカリやマヒルと幸せな思い出を作ってもらわなければ……。俺はそう心に誓った。
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母さんの最後の願いはたったひとつ。「みんなで2泊3日の北海道旅行に行きたい」というそれだけのものだった。俺はずっと、あんなに忌み嫌っていた双子をなぜ今はかわいがっているのか不思議に思っていた。けれどバスツアーで一緒になった老夫婦に諭されたという話を聞かされて納得がいった。父さんや母さんは何も、わけもなく子どもたちを嫌っていたわけじゃない。ちゃんと大切に思って愛してくれているんだ……。それならなおのこと、俺は「子どもたちと旅行」という母さんの願いを叶えてあげなければと思ったのだった。
【第9話】へ続く。
原案・ママスタコミュニティ 脚本・煮たまご 作画・猫田カヨ 編集・井伊テレ子