ベルリン国際映画祭が2月15日から25日まで開催。受賞者たちの発言を含め“反ユダヤ主義的”な内容だったと独政治家らを中心に批判されています。同映画祭は26日、関連するSNSアカウントもハックされたことを問題視し刑事告訴する旨を表明したうえで、受賞者たちによる発言は「ベルリン国際映画祭の立場を表すものではない」と声明を発表しました。しかし今度はこの対応がクリエイターに寄り添うものではないとして、別の角度から非難される事態となっています。
●受賞者たちが公の場で示したパレスチナへの連帯
世界三大映画祭のうち、特に政治色が強く大衆主義的ではないと位置付けられているベルリン国際映画祭。第74回目となった今回の授賞式では、受賞者たちによる10月7日から始まったイスラエルとハマスの紛争についての発言が目立ちました。
まず、ドキュメンタリー「Dahomey(原題)」で金熊賞を受賞したセネガル系フランス人のマティ・ディオップ監督は、壇上で「私はパレスチナを支持します」と明確に発言。同作は1892年にフランスの植民地軍が略奪した数千点のうち、26点の宝物を2021年11月に現在のベナン共和国へ返還する物語を描いた作品です。
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また、イスラエル人とパレスチナ人の集団によるドキュメンタリー「No Other Land(原題)」は最優秀ドキュメンタリー賞に加え、観客賞も受賞。イスラエルが占領するヨルダン川西岸で、追放されようとしているパレスチナ人を描いた内容で、受賞に際し壇上へはパレスチナ人の活動家バーゼル・アドラと、イスラエル人ジャーナリストのユヴァル・アブラハムがあがりました。そしてイスラエル人がパレスチナ人を虐殺していると述べ、またドイツによるイスラエルへの武器売却も非難、ガザでの停戦やヨルダン川西岸の占領停止を呼びかけました。
さらに米監督のベン・ラッセルは、パレスチナの民族主義を象徴する伝統的なスカーフ「ケフィエ」をまとって壇上へ。パレスチナとの連帯を示しました。
●政治家は批判 “偏り”を指摘
こういった、多くのパレスチナへの連帯、またガザでの停戦を訴えるスピーチは、会場では大きな拍手を持って肯定的な雰囲気とともに受け入れられていました。しかし一歩会場の外へ出ると、“反ユダヤ主義的である”として特に政治家からの強い批判を受ける事態に。
ベルリン市長のカイ・ウェグナーはX(Twitter)で「昨日ベルリン国際映画祭で起こったことは耐え難い相対化を形成するものだ」「ベルリンに反ユダヤ主義の居場所は存在しない。それはアーティストたちにとっても同様である」として、運営側への対処を求めました。
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また続く投稿では、「ベルリンには自由にして明確な立場がある。ベルリンはイスラエルの味方であることは間違いない」として、現在のイスラエルとガザ地区の苦しみは全てハマスに責任があるとはっきり述べました。
さらに独クリスティアン・ホフマン政治報道官は26日に記者団へ向け、「10月7日のハマスによるテロ攻撃について言及されなかったことは容認できない」とスピーチの“偏り”を指摘。オラフ・ショルツ首相は「このような一方的な態度は許容されていないということに同意する」との立場を取っていると代弁しました。
●映画祭運営者の対応は
このほかにも多くの政治家から批判され、映画祭側のコメントが期待される中、パノラマ部門の公式Instagramアカウントを何者かが乗っ取り、親パレスチナ的な投稿をするという事件が発生。「Free Palestine - From the River to the Sea(パレスチナを解放しろ)」との言葉や、ハッシュタグ「#ceasefirenow(停戦しろ)」とともに、同映画祭の公式ロゴが確認できるテキスト画像が投稿されたのち、すぐに削除されました。
事態を重く見た同映画祭は、公式サイト上で発表した声明の冒頭で、「映画祭のロゴとともに中東で起こっている戦争に関する反ユダヤ的なテキスト画像が投稿された」として「これらの声明は映画祭が発信したものでも、映画祭の立場を表すものでもありません」として強く非難。事態は調査中として対象人物は不明ながら刑事告発し、州警察は捜査を開始したと発表しました。
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続いて、議論を呼んでいる授賞式についても言及し、「時に一方的でもある活動家的発言は、受賞者個人による意見の表明です。決して映画祭の立場を反映するものではありません」と明確にしました。
続けて現ベルリン国際映画祭エクゼクティヴ・ディレクターの1人であるマリエット・リッセンベーグによる「一部の受賞者の発言が、あまりにも一方的で場合によっては不適切と捉えられたことへの憤りは理解している」との見解も掲載。映画祭としてはハマスの攻撃を非難し、イスラエルとガザ、双方の犠牲者への弔意を表明してきたと主張し、「一方的なスタンスを共有しない」との立場を明確にしてきたと述べています。
一方で、同映画祭は「文化や国を超えた開かれた対話の場」であるとし、差別や法に触れるようなことがない限り「私たちの意見と相反する発言も許容しなければならない」としました。もし受賞者たちのスピーチが差別的なものであれば不適切と判断しただろうと述べつつ、「個々の発言が反ユダヤ的、反パレスチナ的とは捉えられないようにしたい」とあらゆる意見を交換しながらこの主題に向き合っていきたいとの姿勢を示しました。
しかし今度はこれら同映画祭の発言について、別の角度からの批判が集中。特に乗っ取られたInstagramアカウントへ投稿された停戦を求める内容が「反ユダヤ的」と見なされたことへ落胆を示す声が多く投稿されています。「これらの投稿がユダヤ人への憎悪に突き動かされて行われていると断定するのはショッキングを通り越している」「臆病だし哀れでもある。現在進行中の大虐殺に反対する映画作家たちのため、声を大にして立ち上がることもできないとすれば、ベルリン国際映画祭の存在意義とは何なのだろうか?」などの声が寄せられています。
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