日本でも衛星とスマホの直接通信に対する期待が高まってきている。2023年8月に米SpaceXとの業務提携を発表したKDDIは、Starlinkの最新衛星とスマホとの直接通信サービスを、2024年内をめどに提供するという。
【画像はこちら】スマホと直接通信できるスペースXの新型衛星(計6枚)
まずはSMSなどのメッセージ送受信から始め、データ通信や音声通話も順次対応予定としている。このサービスでは既存の携帯電話の周波数帯を使用するため、今現在利用されているau(UQ mobile、povoも含む)スマホのまま衛星と通信が可能だという。
KDDIの4G LTEの人口カバー率は99.9%を超えている。しかし、日本は1万6000以上の山々と1万4000以上の島々を有しており、光ファイバー回線の敷設が必要な基地局の設置が、地理的条件により困難な場所が存在する。そうした地域では、Starlinkをバックホール回線とした基地局を順次展開しているが、国土における4G LTE面積カバー率は約60%にとどまっている。
衛星との直接通信が実現されれば、地上の基地局がない海でも山でも、基地局がダウンするような災害時でもつながる。Starlink自体は2024年1月に発生した能登半島地震でも利用されており、避難所のWi-Fiであったり、ドコモとKDDIが共同で派遣した船上基地局のバックホール回線としても使われていた。
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ただし、屋内では通信できず、雨が降っていたり分厚い雲が覆いかぶさっていると、現状通信が不安定になってしまう。とはいえ「空が見えれば、どこでもつながる。日本のどこにいても、つながらないがなくなるように。これをわれわれがかなえていきたい」とKDDIの高橋誠社長が語ったように、提供エリアにおいてブレイクスルーをもたらすのは間違いない。
●MNO4キャリアとも低軌道衛星を利用へ
衛星を使った通信サービスはNTN(Non-Terrestrial Network:非地上系ネットワーク)と呼ばれ、Beyond 5Gも見据えながら世界的に整備が進んでいる。高度約3万6000kmにある静止衛星よりもかなり低い、高度2000km以下の低軌道に多数の通信衛星を打ち上げ、協調して動作させる「低軌道衛星コンステレーション」を構築することで、高速、低遅延な通信を実現している。
静止衛星を使った通信サービスには、「インマルサット」やNTTドコモが提供している「ワイドスターIII」などがある。1つの衛星で広範囲なエリアをカバーできるが、衛星まで距離があるため端末側には通信用の大きなアンテナを用意する必要がある。
低軌道衛星は、多数の衛星で「面」を作る必要があるものの、静止衛星と比べて地表までの距離が短く、非常に大きなアンテナを使うことで、スマホに強い出力で電波を発射。一方で、スマホから出力される微弱な電波も巨大アンテナでキャッチし、信号を増幅処理することで、スマホとの直接通信を可能にする。
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SpaceXでは、スマホと直接接続する「Direct to Cell」を実現すべく、カスタムチップと巨大フェーズドアレイアンテナを搭載した直接通信対応の衛星を開発。高性能な無線受信と高出力送信を実現し、スマホと直接LTE通信が可能になるという。
SpaceXのStarlink以外にも、スマホとの直接通信を提供すると宣言している米AST SpaceMobileには楽天が出資。2026年にスマホとの直接通信を始めるとしている。米Amazonが取り組んでいるProject Kuiperは、23年11月にNTTとNTTドコモ、NTTコミュニケーションズ、スカパーJSATと戦略的協業に合意。英OneWebはソフトバンクが出資しており、4社とも低軌道の衛星を利用することになる。
ソフトバンクはOneWebの他、成層圏に無人機を飛ばして基地局とするHAPSにも取り組んでいる。HAPSについてはAirbusも取り組んでおり、NTT、ドコモ、スカパーJSATの4社で早期実用化に向けて研究開発の推進を検討する覚書を22年1月に締結している。
スマートフォンメーカー単独で衛星通信企業と手を組むこともある。米Appleは、米Globalstarの衛星と直接通信することで緊急SOSが送れる機能をiPhone 14シリーズから北米向けに提供している。
総務省の資料を見ていると、Starlinkの衛星の総数が他を圧倒しているのが目立つ。衛星が多いということは基地局が多いということ。地上の基地局でも基地局が多ければカバーできるエリアが広く、より多くのデータを分散してさばける。現状、Starlinkが衛星ブロードバンド通信を世界中で提供できているのも、この衛星の数が支えているものと考えられる。これだけの数の衛星を打ち上げられるのは、スペースXの本業がロケット開発と宇宙空間へのペイロードの輸送だからだ。
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●まだ残されている課題
現在はStarlinkが他社を一歩リードしている印象だが、スマホと直接接続してデータ通信や音声通話をするためには、従来の衛星よりも巨大なアンテナを搭載した、先ほどの直接通信対応の衛星が必要になる。ただ、スペースXのコマーシャルビジネス担当上級副社長 トム・オシネロ氏によると、現時点で打ち上げに成功している「Starlink V2 mini」でも、SMSなどメッセージ送受信の提供は可能という。
SMSならiPhone 14シリーズですでに直接通信が一応実現している。やはり期待されるのは直接通信によるデータ通信と音声通話だろう。楽天モバイルとAST SpaceMobileが23年4月に市販のスマホを使った直接通信試験による音声通話に成功しているが、本サービスとして開始されるまでにはまだ2年ほど掛かる。
Starlinkの新型衛星の打ち上げは24年1月に成功したばかり。24年内のサービス開始時はSMSなどメッセージの送受信からスタートするという。順次対応予定としている音声・データ通信をいつカバーするかについては、この新型衛星の打ち上げ状況次第といえる。
どちらも現在割り当てられている周波数を使うため、地上の基地局との干渉も気になるところだ。KDDI取締役執行役員の松田浩路氏は「これからの実証実験や衛星側の能力による。干渉しないようにするのがポイント」と語っていた。
ちなみに、国際電気通信連合(ITU)の2023年世界無線通信会議では、NTN実現のための周波数が検討され、HAPS用の周波数として1.7GHz帯、2GHz帯、2.6GHz帯の3つが全世界で、700MHz帯については日本を含めた多数の国で利用することが決定された。特に、スマホと衛星の直接通信のための周波数については、2GHz帯を使用することで現在総務省で検討が始まっている。
電波の話になれば法律面の環境を整えることも必要だ。5Gビジネスデザインワーキンググループの報告書では、「衛星と携帯電話との直接通信などの新たなサービスの導入に当たり、適切な免許制度の在り方等に関する検討が必要」としており、今まさにその検討を進めていくのだろう。
スマホとの直接通信まで、まだ超えるべきハードルは残っているが、実現が見えてきているのは確かだ。
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