久保建英は躍動もスペイン初戴冠ならず レアル・ソシエダはなぜ勝てなくなったのか

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2024年02月28日 17:41  webスポルティーバ

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 2月27日、スペイン国王杯準決勝セカンドレグ、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)は本拠地にマジョルカを迎え撃った。ファーストレグはスコアレスドロー、この日も1−1で決着をつけることができず、PK戦で4−5と敗退している。

 右アタッカーで先発した久保建英は、攻撃のエースとして健闘した。相手のハンドを誘発し、PKを奪ったが、味方があえなく失敗。必死にマークに来たホセ・マヌエル・コペテのイエローカードも誘った。後半、ミケル・オヤルサバルの貴重な同点弾の起点にもなっている。延長戦に入っても躍動し、ハウメ・コスタを途中交代に追い込むなど、オフェンスをけん引していた。

「個の局面からバランスを崩そうとし、引っ張ってきたコペテのイエローを誘うなどしたが、最後のペダルを踏めなかった。終盤になっても力を漲らせてプレーしていたが......」

 スペイン大手スポーツ紙『アス』は、チームの敗北のなかで久保には及第点を与えていた。

 元日本代表監督であるマジョルカの指揮官ハビエル・アギーレが作り出した守備戦術は、実に老獪だった。面白味には欠けたが、現実的で「久保対策」を講じていただけでなく、他のアタッカーの持ち味も完全に封じていた。「三笘の1ミリ」を思い出させるようなゴールライン上のクリアもあり、物議を醸すことになったが、勝てば官軍だ。

 久保はスペインで初の戴冠への夢を、かつての古巣に阻まれることになった――。

 ラ・レアルに生まれた失速感は、何もこの1試合の話ではない。直近8試合は、わずか4得点。1勝3敗4分け(国王杯セカンドレグを記録上の引き分けとした場合)で、勝ち星から見放されているのだ。

 昨年9月、サンセバスチャンを現地取材した際のひとコマだった。

 クラブハウスのカフェテリアで、スカウティングに関わるクラブ関係者と話す機会があった。あくまで世間話で、踏み込んだ話はしていない。ラ・レアルと久保の相性のよさをお互いに賛美し、明るい未来を期待するようなゆるく甘い会話だった。

【久保以外は補強に失敗】

 しかし筆者は一滴、毒をたらしたくなった。

「なぜ、(モハメド・)アリ・ショや(アルセン・)ザハリャンを獲得したのか?」

 その場は一瞬にして剣呑となった。

「なぜって? いい選手だろ?」

 当時、アンドニ・ゴロサベル、アレックス・ソラという下部組織スビエタの右サイドバックをともに放出し、新たにこのふたりを獲得した補強が「下策」と批判を浴びていた。そのため、センシティブになっていたのだろう。

「これから活躍するといいね」

 その場で議論をかわすよりも、その後の取材を円滑に進めたかったので、努めて明るく言ったものだ。

 ただしその後、アリ・ショは半ば戦力外となりフランスのニースに放出されることになった。ザハリャンも期待に応えるプレーには程遠く、先発したマジョルカ戦もケガでメンバー外となったアンデル・バレネチェアの"不在の在"を露呈させていた。それぞれフィジカルに優れていたり、止まったボールのキックがすばらしいなど、特長はあったが、サッカー選手としての成熟度が低すぎた。

 ここ2シーズン、久保の獲得こそ大ヒットだったが、ラ・レアルの補強は難しい局面を迎えている。なかでも昨シーズンのエースストライカーであるアレクサンダー・セルロートを引きとめられず、FW陣の強化はマイナス材料だ。

 カルロス・フェルナンデス、ウマル・サディク、アンドレ・シウバという3人のFWは"帯に短し、たすきに長し"。カルロス・フェルナンデスは単純にトップレベルで戦うほどの力を持っていなかった。サディクはパワーやスピードを生かした一発は規格外だが、ポストプレーなど連係面はユースレベル。アンドレ・シウバは現地で「ミステリー」と言われており、センス抜群で最適格のFWのはずだが、ケガもあって継続的に持ち味を出せていない。

 この緊急事態に、クラブも新たに動いてはいる。今年1月、ウニオン・ベルリンからシェラルド・ベッカーを獲得。国王杯準々決勝、セルタ戦でさっそくデビューゴールを決めている。スピードを用いる技術にも優れ、期待感は高まった。今回のマジョルカ戦でも交代出場で存在感を放っていた。だが......。

 はっきりと言えば、今シーズンのラ・レアルという船をどうにか航行させてきたのは久保だった。ダビド・シルバが開幕直前に大ケガを負って電撃的に引退することになって、攻撃面の不安が高まるなか、久保は新エースとしてチームを引っ張った。昨年9月にはレアル・マドリードのジュード・ベリンガムを抑え、月間MVPを受賞。チームに勢いをつけ、チャンピオンズリーグ(CL)でも、グループリーグでインテルを抑えての首位通過に大きく貢献した。

 しかし、久保が1月にアジアカップで不在になって以降、チームは明らかにペースダウンしている。ラ・リーガでは勝ち点の取りこぼしが続き、ヨーロッパカップ出場圏外に押し出された(直近の8試合で唯一、勝利したリーグ戦のマジョルカ戦も、久保がシーズン7得点目を記録した)。CLラウンド16も、ファーストレグでパリ・サンジェルマン(PSG)に2−0と追い込まれている。そして国王杯での敗退......。

 今後、ラ・レアルは3月2日にラ・リーガのセビージャと戦い、5日にはPSGとのリターンマッチを控える。

 久保はアジアカップからの連戦で、満身創痍に近いだろう。まずは万全の状態で挑めるかどうか。さもなければ、この苦境を逆転させることはできない。

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