「うるう秒」はまだ終わっていない 焦点は“新たな協定世界時”の導入時期

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2024年02月29日 22:51  ITmedia NEWS

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NICT日本標準時グループのページでは7月にうるう秒調整は行わないと告知している

 実質的な廃止が決まった「うるう秒」。過去には情報通信システムのトラブルを引き起こす要因にもなってきたが、今後IT業界はうるう秒に悩まされることはないのだろうか。日本でうるう秒調整の対応を主導する情報通信研究機構(NICT)に見通しを聞いた。


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 そもそも、うるう秒とは何か。NICTのWebサイトではこう説明している。「時間や時刻は、以前は地球の公転・自転に基づく天文時が使われていましたが、科学の進歩に応じた高精度な時刻が必要になり、 現在使われている時刻は、原子時計をもとに決められています。規則正しい原子時計と地球の自転に基づく時刻の差が±0.9秒以内になるように、原子時計の時刻に1秒だけ調整を行った時刻を協定世界時(UTC)と呼び、 現在、この時刻が世界の標準時として一般に使われています。この1秒の調整が“うるう秒”です」。


 うるう秒調整の実施を決定するのは、地球の回転を観測している国際機関「国際地球回転・基準系事業」(IERS)で、実施は不定期。地球を観測していて、UT1とUTCのズレが大きくなると予測された場合、1月1日もしくは7月1日の午前8時59分59秒と9時00分00秒の間に「8時59分60秒」を加える。理論上は1秒を引く調整の可能性もあるが、これまで発生していない。


●IT業界の受難の歴史


 しかし、この1秒は情報通信システムにとって大きな問題。例えばシステムを動かすプログラムが「60秒」というイレギュラーな時刻表示に対応できず誤作動を起こすかもしれない。分散化を取り入れているシステムでは、それぞれの時刻表記の同期がずれて不具合が起こる可能性もある。


 実際、デジタル化が進んだ2010年代には、うるう秒調整に伴うトラブルが頻発した。12年7月に実施した時は、オーストラリアのカンタス航空や米国のソーシャルニュースサイト「Reddit 」で大規模な障害が発生。カンタス航空では搭乗予約システムが使えず、フライトが2時間遅れた。Redditでは30〜40分間アクセスできなくなった。他にもLinuxで突如カーネルのCPU使用率が跳ね上がり、様々なWebサイトが影響を受けた。


 15年7月の時は、米Twitter、Instagram、Pinterest、Netflix、AmazonなどメジャーなSNSやネットサービスで障害が発生。16年の時はCDNを提供するCloudflareが影響を受けた。このように主な障害だけを挙げてもかなり多い。


 IT業界は過去20年以上にわたり、うるう秒の廃止を訴えてきた。例えば米Metaは22年に「うるう秒は1972年には受け入れられる解決策だったかもしれないが、現在では利益よりも害をもたらす危険な行為」と指摘。結局、その年の国際度量衡総会(CGPM)で35年までに新たなUTCを導入し、うるう秒調整を廃止することが決まった。


●最長11年間は油断できない?


 NICTは、情報通信を専門とする日本で唯一の国立研究機関であり、公的サービスの一環として電波やNTPサーバを介し、日本標準時(JST)を提供している。このため、うるう秒調整が行われる場合には、総務省と協力してその周知や準備を主導する立場にある。


 NICT時空標準研究室の井戸哲也室長は「22年のCGPM(国際度量衡総会)の決議4、および23年のWRC-23(ITUの無線通信部門)の決議655により、35年までに新たなUTCが導入されることは決定しました」と説明。ただし、「遅くとも35年の新たなUTC導入までは現行のUTCが用いられるため、その間にうるう秒調整が起こる可能性はあります」と指摘する。新たなUTCの導入時期はまだ決まっておらず、最長で今後11年間は、まだうるう秒調整が発生する可能性もあることになる。


 今後は「UT1に対するUTCの時刻差“UT1-UTC”の最大値の決定と供給方法についての議論、新たなUTCの導入時期についての議論などが行われるものと思われます」という。


 協議の進み方次第では、新UTCの導入が前倒しされることもあるかもしれないが、現在のUTCが導入された1972年以来、うるう秒調整は27回あった。今年の7月は調整を行わないことが既に決まっているものの、直近でうるう秒調整を実施した17年1月から7年が経過している。過去52年間で最も期間があいたのは、1999年と2006年の7年間だった。


●うるう秒調整がなくなっても大丈夫?


 導入時期はまだ見えないが、新たなUTCとなって、うるう秒調整がなくなった時、IT業界やわれわれの生活に何か変化はあるのだろうか。NICTの井戸室長は「少なくとも100年間は連続な時系となる予定ですので、その間は(うるう秒調整の)対応の必要がなくなります」という。


 「現行のUTC導入から50年余りで、うるう秒調整は27回でした。このことから100年でUT1と1分程度の差が生じる計算となりますが、一般生活の中ではこの程度の差は問題ないと思われます。ただ、衛星管制や天文、測地など宇宙や地球の相対的な位置関係が必要な分野では正確な『UT1-UTC』の値を常時入手して調整を行う必要があります」


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