久保建英がスペインで飛躍できた素養とは? 「久保クンから久保になった」FC東京時代

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2024年03月04日 07:31  webスポルティーバ

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Jリーグから始まった欧州への道(1)〜久保建英

「タケ(久保建英)がスペインに来た時から、ずっと注目してきたよ。当時からラ・リーガで活躍するのに十分な才能は備わっていたが、ラ・レアル(レアル・ソシエダ)に来て以来、持っているものをすべて出しきれるようになった。すごいスピードで成熟しているし、その成長はこれからも続くだろう」

 レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)でクラブ史上最多出場歴を誇る伝説的ディフェンダー、アルベルト・ゴリスはそう語っていた。

 言い換えれば、久保建英はJリーグにいた時から「世界有数のリーグであるスペインで飛躍を遂げるだけの素養があった」ことになる。その素養とは何か? それを解析することは、久保のあとに続くJリーガーにもヒントになるかもしれない。

 2019年5月、味の素スタジアム。FC東京がジュビロ磐田を本拠地に迎えていた。0−0のままじりじりした展開が続いて、終盤、引き分けでもしょうがない、という流れで迎えた84分だった。

 FC東京の久保(当時17歳)は、ヒーローになる瞬間を待っていたかのように劇的な決勝点を決めた。

 CKからのこぼれ球だった。エリア内で待っていた久保は、バウンドに合わせて上体をかぶせ、左足ボレーでインパクトした。ボールを逆サイドのネットへ、鮮やかな軌道で飛ばしている。懸命に守っていた敵を奈落の底に突き落とす一撃だった。

「(得点場面は)あまり覚えていません。まあ、直感で」

 試合後の取材エリアで、久保はそう振り返っていた。こともなげな様子だった。17歳のルーキーとしては図太すぎる。事実、ゴール後はゲストで来場していた人気芸人のギャグを披露するだけの余裕があった。無邪気と言うよりは、計り知れない器の大きさだ。
 
 その後、久保は一気に羽ばたき、南米選手権での日本代表に招集され、レアル・マドリードとの契約もつかむわけだが――。

 実際のところ、久保がJリーグで活躍したのは半年足らずである。

【「キャンプから別人のようだった」】

 2018年シーズンの久保は「才能のある若手」のひとりにすぎなかった。横浜F・マリノスへ期限付き移籍直後、そのデビュー戦となったヴィッセル神戸戦では、ゴールを決め、天運の持ち主であることを証明した。しかし得点以外はほぼ流れから消え、ひ弱さも目立っていた。以後、ユース年代の活動が主となって、J1出場時間は(FC東京での試合も含め)、わずか218分だったのである。

 しかし、2019年にはチーム始動から人が変わった雰囲気があった。

「マリノスのレンタルから戻って来て、プレシーズンのキャンプから別人のようでした」

 FC東京のチームメイトたちもそう洩らしていた。

 実際、久保は開幕以来、日の出の勢いだった。自身の活躍だけでなく、チームを勝たせる力も持っていた。たった数試合でチームリーダーになったのだ。

「少なくとも、オランダに移籍する前の堂安律に匹敵する」

 開幕第2節の川崎フロンターレ戦後の段階で、当時、FC東京を率いていた長谷川健太監督も語っていた。

 久保は守備でも強度の高いプレスを見せ、リトリートでは完璧にフタをし、カウンターでは力強く持ち運んでいた。もはや天分だけではない、プレーヤーとしての強度が急速に上がっていた。

「"久保クン"から久保になった」

 そのシーズン、何人かのJリーガーが呆気にとられたようにそう洩らしている。どこか侮っていた存在を、「本物だ」と畏怖し始めていたのだ。

「キャンプ前から肉体を改造していた」
「横浜に移籍し、苦難も経て精神的に強くなった」
「もともと、いい選手だった」

 チーム関係者からは、いくつも変化の理由が漏れ聞こえてきた。どれも理屈は合っていたが、その変身ぶりは想像を超えていた。

 久保が"ギフテッド"だったことは間違いない。ドリブルからの仕掛け、シュートセンス、スモールスペースを支配するパスコンビネーション、どれも天才性が匂っていた。ただ、ひとりの選手としてそれらがつながっていなかった。ボールを持っていない時間や五分五分のボールを争う場面などで劣り、才能は分断されていた。

【戦局を打開できる知性と胆力】

 しかし図太いメンタルが、バラバラだった才能のかけらをひとつに結びつけたのである。16歳だった久保が、トップチームのクラブハウスに歌を歌いながら入ってきたのは有名な逸話である。日本代表歴のある選手もいたが、まるで物怖じしていなかった。いわゆるビッグマウス型ではなく、明るい剛胆さがあったのである。それは過去のJリーガーでも、三浦知良ぐらいしか見当たらない。

「ディフェンダーだった立場からタケの長所を語るなら、とにかく自分のプレーに確信がある点だろう。これは守る側にとっては脅威だよ。同時にタケはどのような状況でもプレーをキャンセルし、ベストのプレーを選べる。常に自分主導で精神的に優位に立ち、コンビネーションを使い、相手に次のアクションを読ませないんだ」

 冒頭のゴリスの証言である。

 久保はまず、個人の力に優れている。今やひとりでは止められない。多くの久保番ディフェンスが途中交代を余儀なくされている。プレーヤーとしてのキャラクターはFC東京時代と変わっていない。しかし、彼が本当に優れているのは、相手が対応した後、味方とのコンビネーションを用い、戦局を打開できる知性と胆力にある。自分の技術と味方をつなぎ合わせ、巨大な力を生み出せるのだ。

 剛胆さによる変幻自在が、欧州のトップレベルを舞台に研ぎ澄まされている。まるで漫画の主人公のように、打ちのめされるほどに成長するのだ。

「誰かが何とかしないといけない展開で、その誰かが自分だったのが嬉しい」

 件の磐田戦で、お立ち台に上がった久保は飄々と言ってのけたが、泰然と勝利をもたらす姿は今にも重なる。

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