ジャーナリスト須賀川拓、戦地取材の原動力を明かす 現場主義を貫き「減るのはスニーカーの底ぐらい」

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2024年03月06日 22:06  ORICON NEWS

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戦地取材の原動力を明かした須賀川拓監督(右) (C)ORICON NewS inc.
 ジャーナリストの須賀川拓と国際政治学者の高橋和夫氏が6日、都内で行われた『TBSドキュメンタリー映画祭2024』のトークつき試写会イベントに登壇。須賀川氏がメガホンを取ったエントリー作品『BORDER 戦場記者 × イスラム国』を軸に、取材活動の原動力などについても明かした。

【写真】真剣な眼差しで語る須賀川拓監督

 同映画祭の第1回から毎年中東に関わる問題作をエントリーし続けるジャーナリスト・須賀川監督。21年『大麻と金と宗教 〜レバノンの“ドラッグ王”を追う』、22年『戦争の狂気 中東特派員が見たガザ紛争の現実』、23年『アフガン・ドラッグトレイル』と、毎年新たな映画を発表し、22年には国際報道で優れた業績をあげたジャーナリストに贈られる「ボーン・上田記念国際記者賞」を受賞。同年にはドキュメンタリー映画『戦場記者』(配給:KADOKAWA)が全国公開された。

 最新作『BORDER 戦場記者 × イスラム国』は、イスラム国家樹立のためならば、非道なテロをもためらわない過激派組織イスラム国の“いま”を追いかけた作品となる。シリア奥深くの砂漠にある難民キャンプを取材し、壊滅したと思われている過激派組織イスラム国、その極めて危険な思想にいまだ共鳴する人々がいる現実を映し出した。

 はじめに取材経緯を聞かれると、「ずっと行きたかった国がシリアだったんです。で、シリアという国はご存じの通り、今も内戦が続いていて非常に入りづらい国なんです。中央政府…アサド政権の許可を持って入れば、当然アサド政権が見せたいものしか見ることができない。それでは入ってもあんまり意味がなかった」とし、結果「クルド勢力の人たちの力を借りて入るしかない」と思い立ったという。

 取材時は2019年。「当時はもうイスラム国…ISの活動もだいぶ下火になっていて、支配地域もだいぶ縮小していたので、話題になりづらかった」と振り返るが、「僕はいつもお話しているんですけど、戦争って終わった後が地獄なんです。でも、戦争が終わったとなると、途端に報道がなくなるんですよね。ISに関しても同様で、報道がガクンと減った中でこんな地獄のような場所があるんだと、どうしても行かなくちゃいけないと思っていました」と思いを語った。

 劇中では現地の子どもたちから衝撃的な言葉を投げかけられるシーンもあるが、須賀川監督は「ある程度のことは予想していました。それこそ石を投げられたり、『嫌いだ』とか『出ていけ』と言われたりするんじゃないかと。ただ、まさか子どもから『首を切ってやる』と言われるとは正直思っていなかった。映像でも僕が動転していることがわかるかと思いますが、消化するのに時間がかかりました」と当時の心境も明かす。

 その後、高橋氏とともに戦地での取材の難しさや苦悩、生命の危機を感じた瞬間などをときにジョークも交えながら語り、足を運んだ観客たちはそれらの言葉を真剣に受け止める。そして質疑応答では、観客たちからの質問に監督らも真摯に応えた。

 「カメラマンに止めろと言ってもカメラが止まらないのはなぜか」という質問には「よく見てくださっていますね」と感謝し、「1回目の『止めて』では止めるなと。2回目を言ったら必ず止めるという約束をしているんです。通訳の人は安全面でマージンを取って伝えてくるので、変な言い方をすれば、そこで止めてしまうと重要な画が撮れないわけです。カメラマンが反旗を翻しているわけではありません(笑)」と告白。

 さらに行き先は常に最前線ではないとし、「僕がやっていることって全然危なくないんです。しっかりと安全も担保していますし、どこまで行くかは線引きを必ずつけている」と断言。それでも「僕は周りが見えなくなってしまうタイプで、自分でその性格がわかっている。だから、帯同するカメラマンや通訳、セキュリティーアドバイザーには、無理を言いだしたら襟首を掴んで止めてくれと言っています。結果、現地で大ゲンカになることもありますね」とリアルな状況も伝えた。

 現場では多くの人に触れ、ピュアな目で「いつ殺していいのか」と聞かれるという場面もあった。監督は「そういった教育を受けてきているわけですから、すごく純粋なんです。目の前の異教徒を殺すことに対して。この映画を『BORDER』と題しましたが、手をつないで食卓を囲めば共存できるという話ではない」と力を込める。同作について「突き刺さった」と感想を述べた高橋氏も、その理由の1つとしてISの思想下で育った子どもたちの存在を挙げていた。

 こうした過酷な状況でも取材活動を止めない理由を聞かれると、「僕は高橋先生の理由のほうが気になります」と水を向け、高橋氏は「最初は知的好奇心でしたが、最近ではテレビなどであまりにも内情を理解していない人が知った顔で解説をしている。それを見て、僕が頑張らないと…と。そういう“思い込み”と“思い入れ”ですね」と語った。

 すると監督は「僕も似ています」と同意し、「今回行ったアルホールキャンプって、実は世界的な超大手メディアの人たちも行っているんですが、日本だとほとんどニュースにならない。でも、日本人の僕が行くと一気に共感をしてもらえる。いい意味でも悪い意味でも、日本ってきっかけがあるとものすごく共感をしてくれる人が増える、共感力が高い国民性なんですね。そういう意味で、自分が行くだけでそのきっかけになるんだったら。別に減るもんでもない…減るのはスニーカーの底ぐらいですよね。だったらもう現場に行きまくって、どんどんきっかけになりたいなっていうのが原動力になっています」と明かした。

 そして、「この私の作品がどこまで価値があったか、僕はいまだに測りかねている」としつつ「4年間で映画を5本作ったんですけれども、これからもこういった取材をずっと続けて、1年1本のペースでやりたいなと思っています」と意気込み。「会社がそれを了承してくれるか、その場を提供してくれるかどうかはわからないけれど…」と苦笑いも浮かべながら、「半分意地のつもりでやっていきたいなと思っております」と伝え、観客たちに積極的な意見も求めていた。

 『TBSドキュメンタリー映画祭』は、テレビやSNSでは伝えきれない事実や、声なき心の声を届ける本気のドキュメンタリー作品をまとめて上映する映画祭。2021年の初開催から4回目となる今年は、全国6都市(東京・大阪・京都・名古屋・福岡・札幌)で3月15日より順次開催される。

 今回は人種や戦争、社会問題など現代を取り巻く重要なテーマを考える今だから見るべき作品を選んだ「ソーシャル・セレクション」、家族の形や身体的な障害など、多様な生き方や新たな価値観を見出せる作品を選んだ「ライフ・セレクション」、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚など、感覚を司る表現者たちやテーマを通して新たな感性に出会える作品を選んだ「カルチャー・セレクション」という、3つのテーマに沿って選出された15作品を上映する。

■『TBSドキュメンタリー映画祭 2024』開催概要
・東京会場:ヒューマントラストシネマ渋谷(3月15日〜28日)
・大阪会場:シネ・リーブル梅田(3月22日〜4月4日)
・名古屋会場:センチュリーシネマ(3月22日〜4月4日)
・京都会場:アップリンク京都(3月22日〜4月4日)
・福岡会場:キノシネマ天神(3月29日〜4月11日)
・札幌会場:シアターキノ(3月30日〜4月11日)
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