山中慎介が絶賛する、那須川天心の「距離感」と「パンチの技術」 バンタム級日本人対決の可能性にも言及

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2024年03月12日 17:31  webスポルティーバ

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山中慎介インタビュー 前編

 2024年1月23日(エディオンアリーナ大阪)、那須川天心はボクシング転向後3戦目で、WBA、WBO世界バンタム級14位のルイス・ロブレスと対戦。立ち上がりからスピードで圧倒し、右のジャブや左のボディを効果的にヒットさせると、3ラウンド終了後にロブレスが棄権し、TKO勝利を収めた。

 この試合で見えた天心が進化した点、日本人選手の"群雄割拠"状態になっているバンタム級について、元WBC世界バンタム級王者で、帝拳ジムの先輩にあたる山中慎介氏に聞いた。

【世界上位の選手相手でも「いける」と周囲に思わせた】

――山中さんは天心選手の試合をリングサイドでご覧になったそうですが、率直な感想からお願いします。

「2戦目の時も成長を感じましたが、今回はさらに成長したと思います。相手が棄権したことでのTKO勝利でしたが、あのまま試合が進んでいたらKO決着も十分にあり得たと思います」

――具体的にどのあたりが印象的でしたか?

「特に、積極的に前に出て距離を詰めていく姿勢です。被弾するリスクは上がりますが、天心は少し距離を詰めたからといって、パンチをもらわない。目のよさもあるし、距離や位置取りでパンチをかわす能力が高いです」

――ディフェンスのよさは、天性のものでしょうか。それともキック時代の経験によるものでしょうか。

「両方でしょうね。小さいころから経験を積んだ選手全員が、同じレベルのディフェンス能力を得るとは限らないですから。目と、勘のよさも感じますね」

――今回の試合は、これまで見せていたフットワークを抑えて、べた足のような足の運びで前に出ていく印象がありました。

「スパーリングを見る機会が何度かありましたが、その時も足を使わずに距離を詰める練習をしていました。試合でその成果が表れていましたね。一戦一戦、結果を出すのは本当に難しいことなんです。プレッシャーを乗り越えるメンタルの強さ、プレッシャーを楽しんでいるかのような大物感がありますね」

――天心選手の試合内容に対しては厳しい意見もありますが、天心選手自身はそこも承知の上で戦っているようにも見えます。

「周囲の声は耳に入るでしょうし、気になることもあるとは思うんです。でも、その中で着実に成長していますからね。ボクシング転向3戦目は、終わり方は不完全燃焼でしたが、世界ランカーを圧倒していました。日本人も含めた世界ランキング上位の選手と戦っても『いけるんじゃないか』と周囲に思わせた試合だと思います」

【技術の高さが光る、左ボディや右ジャブ】

――左のボディの効果はいかがでしたか?

「的確に入っていましたね。相手がまったく反応出来ていませんでした。左の上下の打ち分けが巧みで、相手のパンチはもらわず、自身のパンチはしっかりとボディに入れていましたね」

――あの左ボディは、アッパーなのかストレートなのか......拳を返していないようにも見えましたが?

「縦拳のような感じで、アッパーストレートとでも呼べそうな、独特の軌道のパンチでしたね。僕が現役だった時は上下、左右のストレートの打ち分けで攻めましたが、サウスポーであのボディを打てるのは大きな強みです。中谷潤人選手(WBCバンタム級王者)も同様のボディを打ちますね」

――同じサウスポーの山中さんから見て、天心選手の右のジャブはいかがですか?

「非常にうまいですね。スパーリングでは最初、ジャブを出す時にちょっと前に行き過ぎていて、『距離が近すぎるかな。相手に右を合わせられたら怖いな』と感じましたが、すぐに的確な距離に修正できていました。もしかすると、あえて距離を詰める練習をしていたのかもしれません。天心レベルがやることは、こちらがわからないこともあります(笑)」

――試すということで言えば、今回の試合で見せたブロッキングも新たな試みでしょうか。

「そんな感じに見えましたね。自分から距離を詰めて、あえてブロックして受けた感じです。パンチは見えていたのでもらう怖さはなかった。ブロックで受けて、前の手で引っかけるフックも絶妙なタイミングでした」

――前の手で引っかけるようなフックは、キック時代から使っていましたよね。

「相手のバランスを崩す絶妙なタイミングで打つことは、簡単ではありません。技術の高さをあらためて感じましたね」

――天心選手の「継続して努力する姿勢」についてはどう感じますか?

「課題をひとつひとつ丁寧にクリアしていますね。新しい試みを実践することでスムーズにいかず、自分のリズムが崩れることはよくあるんです。でも彼は、基本を大事にしながら自分のスタイルも持ち合わせて、強くなるための調整を少しずつしているイメージですね」

――課題を克服する過程が楽しい、という印象がありますね。

「そう感じますよね」

――トレーナーの粟生隆寛さんの指導はいかがですか?

「しっかり指導していますね。お互いの意思を共有しながらトレーニングを進めている印象です。スパーリングやミットの最中にも話し合っていましたね」

【対戦が楽しみな日本人選手は?】

――バンタム級といえば、山中さんが世界王座を12連続防衛された階級です。「黄金のバンタム」と呼ばれ、日本人にとっては特別な階級ですが、今まさに日本人のタレントが揃っていますね。

「そうなんですよ。井上尚弥がこの階級に君臨していた時は注目が1点に集中していましたが、今は多くの日本人が世界ランキングに名を連ねています。中谷潤人が階級をひとつ上げ、武居由樹がひとつ下げたことでより競争が激しくなりました。さらに比嘉大吾、栗原慶太、堤聖也、石田匠、西田凌佑などを含めて魅力的な選手が揃っていますよね」

<バンタム級 各団体の主な日本人選手の世界ランキング>(3月11日現在)

◆WBA 

【王者】井上拓真

【1位】石田匠

【3位】堤聖也

【5位】比嘉大吾

【7位】那須川天心

【11位】増田陸

◆WBC

【王者】中谷潤人

【6位】栗原慶太

【7位】比嘉大吾

【9位】堤聖也

【10位】武居由樹

◆WBO

【2位】西田凌佑

【3位】石田匠

【5位】比嘉大吾

【10位】武居由樹

◆IBF

【1位】西田凌佑

【3位】堤聖也

【9位】比嘉大吾

【10位】栗原慶太

――3月6日には、井上拓真選手と石田選手によるWBA世界タイトルマッチ、武居選手がWBOの世界タイトルに挑戦することなどが発表されました(どちらも試合は5月6日@東京ドーム)。大きな動きがあった中で、天心選手と日本人選手との対戦がどんなタイミングで実現するのかにも注目ですね。

「今回の試合の内容がよかったことと、WBAで7位に入ったことで、日本人の世界ランカーとの対戦に期待が高まっていますね」

――WBAのランキング7位という順位についてはいかがですか?

「ランキングについては不透明な部分があるんですけど、世界ランキング14位の選手に対する勝利、試合内容が評価されたんでしょう。天心選手はX(旧Twitter)で『世界ランキングとか関係ないっしょ気持ちっしょ』とコメントしていましたが、世界王者を目指すためのスタートという思いが強いんじゃないでしょうか」

――世界王者になることを急がず、少しずつ成長していく方針は変わらないということでしょうか。

「帝拳ジムの本田明彦会長も『10戦目まで世界戦はない』と話していました。ランキングは、15位以内であれば王座への挑戦資格が与えられます。1位になれば指名試合がありますが、それ以外は過度に反応する必要はないでしょう。注目度が高いためニュースになりやすいですが、ランキングは試合ごとに動きますからね。

 気になるのは、天心は本田会長の予想を超える速度で成長しているのではないか、ということです。だからといって世界挑戦を早めるかどうかはわかりませんが、それくらい順調に成長していると思いますね」

――先ほど挙がった日本人選手の中で、山中さんが対戦を見たい選手はいますか?

「誰とやっても面白そうですが、個人的に見たいのは堤です。前日本チャンピオンで"曲者"でもある。接戦を勝ち切る力や勝負強さがある、やりにくいファイター。そんな選手を相手に天心がどう戦うのか、興味がありますね。とにかく、バンタム級だけで興行ができそうなほど、魅力的な日本人選手が揃っていますね」

――「黄金のバンタム」の覇権争い、楽しみですね。

「この先、日本人同士による統一戦の可能性も十分あり得ますから、本当に目が離せません!」

(後編:井上尚弥vsネリ「敵討ちではなく『ひとつの試合』と思ってほしい」 フェザー級転向も「問題ない」>>)

【プロフィール】
■山中慎介(やまなか・しんすけ)

1982年滋賀県生まれ。元WBC世界バンタム級チャンピオンの辰吉丈一郎氏が巻いていたベルトに憧れ、南京都高校(現・京都廣学館高校)でボクシングを始める。専修大学卒業後、2006年プロデビュー。2010年第65代日本バンタム級、2011年第29代WBC世界バンタム級の王座を獲得。「神の左」と称されるフィニッシュブローの左ストレートを武器に、日本歴代2位の12度の防衛を果たし、2018年に引退。現在、ボクシング解説者、アスリートタレントとして各種メディアで活躍。
プロ戦績:31戦27勝(19KO)2敗2分。

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