『ドラゴンボール』連載当時の裏話……人気爆発のきっかけ、超サイヤ人が金髪にした理由は?

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2024年03月15日 07:10  リアルサウンド

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 『週刊少年ジャンプ』(集英社)の人気を牽引した少年マンガ界のトップランナーであることは言うに及ばず、『ドラゴンクエスト』のキャラクターデザインなどを通してゲームやファンタジーの分野にも影響を与えた漫画家・鳥山明氏。その画業はどれも偉大で、語り尽くすことは到底できないが、今回は最大のヒット作である『ドラゴンボール』を取り上げていきたい。


(参考:【写真】鳥山明が描き下ろした悟空、クリリンや、ミスターサタン、チチなど新作主要キャラ


  同作にまつわるさまざまな裏話を振り返ることで、連載当時にどんなことが起きていたのか、あらためて想いを馳せるとしよう。


 『ドラゴンボール』が連載されたのは、1984年から1995年のこと。『週刊少年ジャンプ』の発行部数が右肩上がりに伸び、“黄金時代”と呼ばれていた頃と重なっている。ちなみに同誌が653万部という伝説の発行部数を記録した1995年新年3・4合併号は、『ドラゴンボール』の魔人ブウ編が掲載されており、連載500回を記念したカレンダーポスターが付録となっていた。


  そうした輝かしい実績を見るに、『週刊少年ジャンプ』誌上の人気もつねにトップクラスだったものと想像してしまいがちだが、実は苦戦していた時期もあったという。連載が始まった当初の鳥山氏といえば、その前に手掛けた『Dr.スランプ』を大ヒットさせた作家であり、大きな期待を背負った状態でのスタートだった。しかし読者人気の指標とされている掲載順で見ると、初期の頃は伸び悩んでおり、20話〜30話あたりでは10位前後で2ケタになることもあったほどだ。


  実際に当時の担当編集者である“Dr.マシリト”こと鳥嶋和彦氏は、初期の読者アンケートが芳しくなかったことをインタビューなどで明かしている。危機感を抱いた鳥嶋氏と鳥山氏があらためて方向性を話し合うなかで、主人公の孫悟空が強さを求めるキャラクターとして明確化され、その後の天下一武道会などの熱いバトルマンガ的な展開につながっていったそうだ。この方向転換によって『ドラゴンボール』は爆発的な人気を獲得することとなり、最初の天下一武道会が描かれたエピソードあたりから掲載順が一気に安定するようになっている。


  その後、同作は読者アンケートで圧倒的な得票数を誇るようになり、フリーザ編では今でも語り継がれているほどの伝説を残すことに。1,000通の無作為抽出による読者アンケートにて815通で「おもしろかった作品」に選ばれたのだ。単純計算で8割以上の読者に支持されていたと考えると、想像を絶するほどの盛り上がりではないだろうか。


意外と知られていない『ドラゴンボール』の舞台裏


  数字に関する部分以外にも、『ドラゴンボール』にはさまざまな裏話がある。たとえば超サイヤ人になった時にキャラクターの髪の色が変わることには、作画コスト的な事情があった。


  というのも鳥山氏はアシスタントを1人だけ使って作画するスタイルだったが、その人物が孫悟空の髪の毛をベタ塗りすることに手間取っていたため、時間を削減するために髪色を変更したのだという。たしかに超サイヤ人の髪色はアニメでは金髪だが、原作では白い余白のような状態なので、作画コストの削減という利点は大きそうだ。


  もちろんそれだけでなく、強くなったことをぱっと見で分かりやすく表現する意図もあったようだが、コスト削減と演出を兼ねた“一石二鳥”のアイデアはさすがと言うしかない。


  また、『ドラゴンボール』といえばピッコロ大魔王に始まり、フリーザやセルなどの特徴的な見た目の敵キャラクターたちが登場することでお馴染み。そのデザインについて、鳥嶋氏は歴代編集者がモデルになっていることを明かしている。


  ただフリーザに関しては、バブルの頃に社会問題になっていた「地上げ屋」がモチーフになっていたという有名な話もある。次々と惑星に乗り込み、住民たちを絶滅させてからほかの宇宙人に高く売り払っていく……というフリーザの凶悪きわまりない行為は、まさに“宇宙の地上げ屋”そのものだが、『ドラゴンボール』に意外と社会派的な要素があったことに驚く人もいるかもしれない。


 『ドラゴンボール』の内容を振り返ると、そこにさまざまな創意工夫があったことに気づかされる。2024年秋には完全新作アニメシリーズ『ドラゴンボールDAIMA』が公開される予定なので、今こそ“鳥山ワールド”の魅力を見つめなおしてみてはいかがだろうか。


  本稿では心ばかりの追悼として、なぜ鳥山氏が多くの人から「天才」と称賛されてやまないのか、その偉大な才能について振り返ってみたい。


 『ONE PIECE』の作者・尾田栄一郎はかつて対談のなかで鳥山氏を「神様」と呼び、その理由として絵が上手すぎることを挙げていた。ほかにも多くのクリエイターが画力を賞賛しているが、“絵が上手い”とは一体どういうことだろうか。


  同時代に頭角を現した漫画家としては、『AKIRA』の大友克洋も画力の高さに定評があったが、その作風には大きな違いがある。大友がリアル志向で緻密な描き込みの絵を突き詰めたのに対して、鳥山氏の絵はリアルとファンタジーを行ったり来たりするような魅力をもつ。それを可能にしたのが、卓越したデフォルメの技術だった。


  作中に登場するキャラクターたちは、いずれも漫画的なキャラクターとして描かれているものの、リアリティを失ってはいない。そこに実在するかのように読者が感情移入できる上、コマのなかで誰かが殴られれば痛みがこちらにまで伝わってくる……。そんな絶妙なデフォルメによって成立する世界観は、鳥山氏が大きな影響を受けたことを公言している手塚治虫の作品やディズニーのアニメに近い。


  さらにデフォルメについて言うなら、唯一無二のメカデザインについても無視することはできない。戦車やバイク、車などの描き方を見てみると、リアリティたっぷりでありながら驚くほどに線が少なく、簡略化された見た目となっていることに気づくだろう。キャラクターを描くのと同じように、巧妙にデフォルメされたデザインとなっているのだ。


  またメカ描写のバックボーンとしては、父親が元オートバイレーサーで、自動車修理屋を営んでいたという家庭環境の影響も考えられる。さまざまなメカを徹底的に観察する分析眼と、手塚・ディズニー的なデフォルメのセンスが融合したことで、あの独特な“鳥山ワールド”が成立したのかもしれない。


誰でも楽しく読める少年漫画の理想形


  他方で鳥山氏の絵の上手さについては、アクションシーンの迫力についても唯一無二のものがある。


 『ドラゴンボール』ではスクリーントーンの使用が極端に少なく、キャラクターの描き込みもそこまで多いわけではなかった。しかしそれでありながら、なぜかド迫力のアクションシーンが実現できている。キャラクターの動きの描き方や視線誘導、ページ全体の構図などが考え抜かれているからこその成果だ。


  この“バトルシーンを構図で魅せる”という発明こそが、鳥山氏の作品のすごいところではないだろうか。迫力満点でありながら画面がすっきりしていて見やすいため、大人から子どもまで楽しく読めるからだ。まさに少年漫画の1つの理想形と言っていいように思われる。


  なお鳥山氏は元々漫画家になる前に広告関係の会社でデザイナーとして働いており、その後も『ドラゴンクエスト』シリーズのキャラクターデザインやパッケージイラストなどに長年携わってきた。空間把握能力や画面の構成力、デフォルメの技術が活かされていたのは、漫画家としての仕事だけではないのだろう。


  2024年秋には、鳥山氏が原作・ストーリー・キャラクターデザインに関わった完全新作アニメシリーズ『ドラゴンボールDAIMA』が公開される予定。そして3月20日には、Disney+にて『SAND LAND: THE SERIES』の配信も控えている。魅力的な世界を堪能する機会がまだたくさん残されているので、この機会に鳥山氏の才能にあらためて想いを馳せてみてほしい。


  最後に、鳥山氏のご冥福を心よりお祈り申し上げます。


(文=キットゥン希美)


このニュースに関するつぶやき

  • 最近、「ブルマの由来は穿くほうじゃなくてブルーマウンテンだ」って主張を目にするね。ソースもあるのにこういったトンデモ説をぶち上げる人っているんだなあ…
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