「商業カメラマンが育っていないんです」ベテラン雑誌編集者が嘆く、出版業界の構造的な問題点

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2024年03月18日 07:00  リアルサウンド

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写真
■素人フォトグラファーに仕事を発注?

 イツバネットの代表取締役・河戸弘太氏が、小・中学校の入学式を撮影するフォトグラファーをあろうことかXで募集したとして、炎上した。同氏はXを更新、謝罪に追い込まれてしまったニュースが話題となった。撮影は中止することに決めたという。



この度は小中学校の入学式の撮影案件につきまして多くの方にご心配・ご迷惑をお掛けしましたこと誠に申し訳ありません。
詳細につきまして文字数の関係で下記にて記載させていただきます。 pic.twitter.com/PUionKpRzd


— 河戸 弘太 | itsuba.net LLC (@itsuba2) March 3, 2024




 募集要項は「一眼レフで人を撮った事がある方」というもので、報酬は3万5000円というものだった。この募集要項を読んだ限りでは、趣味レベル、素人レベルのフォトグラファーが応募してくる可能性があり、しかも教育現場に立ち入る仕事がそんなものでいいのかと、X上で議論が巻きおこった。


  最近、アニメーター志望の中学生にアニメの原画を発注したというニュースが騒動になっていた。この事件の真偽は不明である。しかし、今回のフォトグラファー募集の事例を目にすると、あながち嘘ではないのではないか、実際起こってもおかしくないのではないか、と思わざるを得ない。


  あらゆる業界で起きていることだが、納期ばかり厳守する一方で、専門職をないがしろにする発注者が続出している印象だ。写真の場合は「撮れていればいい」、アニメの原画は「描けていればいい」という感覚が蔓延してきており、専門性の高い技術が求められなくなりつつある。


■若いフォトグラファーが育っていない?

  筆者は長年、紙媒体で記者の仕事をしているのだが、一緒に仕事をする編集者は「若い商業カメラマンが育っていない」と嘆くことが多い。編集者はこう話す。


 「若いカメラマンの写真を見ると、ポートフォリオの段階で首をかしげるクオリティのものが少なくない。アイドルの写真集などを見ると、一昔前では考えられなかった写真が多く掲載されており、唖然とすることがあります。確かに、ポートレート、風景など、特定のジャンルに特化して写真を撮れる人は健在です。ただ、商業カメラマンに求められる、なんでも撮影できるスキルを持つ人材が育っていません」


  編集者が言うには、昭和の時代は、なんでも撮影できるフォトグラファーがたくさんいたという。それは、当時は師匠のもとで修業して一通り技術を覚え、経験を積んでから独立するのが代表的な流れであったためである。


  というのも、かつてはカメラを使いこなすだけでも難しく、素人ではきれいな写真を撮るのが難しかった。ゆえにフォトグラファーは専門職というイメージが強く、専門の道具を一から覚える必要があったし、万能のスキルが求められたのである。


■素人でもプロを名乗れる時代に

 ところが、1990年代にカメラのオートフォーカスの技術が進化し、2000年代にデジタル化が一気に進むと、シャッターを押すだけで誰でもそれなりに見栄えのいい写真を撮れるようになってしまった。そして、平成不況の影響でフォトグラファーに弟子をとる余裕がなくなり、いきなり独立する若手が増加した。


 「最近では写真のフリー素材サイトが広まり、出版社も、ニュースサイトも、WEB媒体も、素人の写真を使って誌面や記事を構成するようになりました。今ではライターや記者が撮影を行うケースも増えています。写真一枚の価値、そしてフォトグラファーの専門職としての地位が、30年ほどの間に急激に下落したといえます」


  こう編集者が指摘するように、現代のフォトグラファーは、修業を経験しないままいきなりプロになった人が少なくない。ネットに写真を上げていたら編集者から声をかけられ、そのまま仕事を続けている人もいるのだ。


■上位のプロはいつの時代も技術が高いが……

 誤解を招かないように言えば、第一線で活躍している若手フォトグラファーは自ら技術を研鑽し、学習し、技術力を高めている人がほとんどである。そういった人の作品を見ると、決して技術的なレベルも、芸術的なレベルも落ちていないように感じる。しかし、編集者はそれが問題なのではないと話す。


 「いつの時代も高いレベルの人は自分で勉強するし、黙っていても成長していくので問題ないんですよ。問題は、中間層のレベルが下がっていること。雑誌を作るためにはアーティスト的なカメラマンよりも、平均より少し上の技術をもち、なんでも撮れる人が必要不可欠なのです。とにかく、先輩のカメラマンなら誰でもできていたようなライティングとか、基礎的な技術が受け継がれていないのを見ると、危機的な状況と感じます」


  あらゆる業界で人手不足が叫ばれているが、その一方で、悪い方向に合理化を推し進め、人材育成をないがしろにしてきた面は否定できないのではないか。そのツケが今になって露呈してきているのだ。技術の継承は一度断ち切られると、二度とできなくなることが多い。2020年代、若手の人材育成は急務といえる。


 


このニュースに関するつぶやき

  • どんな業種もコスパコスパ喚いて仕事減らしておいて、素人に出来ない部分は、協力(タダ働き)を求めてくる。ホント糞みたいな世の中だよ、
    • イイネ!63
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