外付けGPU「ONEXGPU」でビジネスノートPCをパワーアップしてみた オンライン会議における“もっさり”の解決策になる?

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2024年03月19日 12:31  ITmedia PC USER

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タスクマネージャーのパフォーマンスタブからGPUを見ると、CPU内蔵グラフィックス機能を使用しているPCではGPUメモリの全てがシステムと共有する「共有GPUメモリ」であることが分かる

 リモートワークで会社から貸与されたノートPCを使っている人の中には、その性能に不満を感じている人も多いのではないだろうか。例えば、作業効率アップのために外部ディスプレイを接続する場合もあるだろう。しかし、高解像度ディスプレイやマルチディスプレイの環境だと、メモリ不足などで極端に動作が重くなる場合もある。


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 とはいえ、現代のノートPCの多くは物理的にメモリの増設ができず、そもそも内部のパーツ追加や交換を会社が認めていない場合がほとんどだろう。


 しかし、本記事で紹介する外付けGPU(eGPU)「ONEXGPU」を使えば、そんな会社のPCでもパワーアップさせられるかもしれない。


●「会社のPCの動作が遅い……」


 筆者が働いている会社から貸与されているのは、典型的なビジネス向けノートPCだ。以前はデスクトップPCだったが、オフィスのフリーアドレス化に伴い、軽量で持ち運びのしやすいノートPCに変わった。そしてリモートワークが中心となったことで、小型軽量よりもインタフェースの豊富さと、性能が重視されるようになった。


 搭載しているメモリは16GBで、一般業務では十分だ。しかし、最近は自宅で使用していると動作のパフォーマンス低下に悩まされるようになった。特にオンライン会議ツール「Microsoft Teams」を使っている際のパフォーマンス低下が著しく、画面共有しながらのリモート会議では、かな漢字変換も怪しい状況が少なくない。


 複数の事業やプロジェクトに関わっていることもあり、会議を終えてすぐ作業を再開できるように開きっぱなしのファイルやメールが多いのも良くないかもしれないが、もっとも性能低下に影響を与えている原因は、2台接続している4K(3840×2160ピクセル)ディスプレイのようだ。


●高解像度の外付けディスプレイはパフォーマンスを“喰う”


 ビジネスPCのような、一般的な用途を想定したノートPCは専用のGPUを搭載しておらず、CPU内蔵のグラフィックス機能を利用することがほとんどだ。


 そのグラフィックス性能自体は年々向上しており、通常業務において直接ボトルネックになることは少ない。問題はグラフィックス用メモリだ。グラフィックスボードが専用のVRAMを搭載しているのに対し、CPU内蔵のグラフィックス機能ではメインメモリをグラフィックス用メモリとして共有する。


 高解像度ディスプレイを複数つなげば、その分のメインメモリを圧迫することになる。この状況は、ノートPC本体に搭載されているHDMIやDisplayPort、DisplayPort Alternate Mode対応のUSB Type-Cなど、接続方法によって変わることはない。表示解像度をフルHD(1920×1080ピクセル)に落とせばパフォーマンスは改善するが、作業領域が狭くなるのでなるべく4Kのままで使いたい。


 結局のところ、本体のリソースを追加できない限りはパフォーマンスの向上は難しい。本体側の処理を肩代わりするような拡張はできないものか――そこで気づいたのが外付けGPU(eGPU)ユニットの存在だ。


 ノートPCでも外付けグラフィックスを接続できるようになるeGPUは「ゲーム向けにグラフィックス性能を強化できる」という文脈で語られることが多い。しかし、高いグラフィックス機能を必要としないビジネス用途であっても、メインメモリの空きを増やせたり、GPUの高負荷発熱によるCPUクロック低下を回避できたりすれば、かなりのメリットがあるのではないだろうか。


 今回はOne-Netbook Technologyの国内正規代理店であるテックワンより、販売間近のeGPU「ONEXGPU」をお借りして試した。


●eGPUが使える条件


 その前にeGPUがどのような仕組みで実現しているのか、どのようなPCで利用できるのかをおさらいしておこう。


 もともと、GPUはPCIe(PCI Express)バスで接続することが一般的だ。PCIeの転送速度はバージョンとレーン数によって決まる。原稿執筆時点ではPCIe3.0/4.0 x16あたりが一般的だが、転送速度は片方向15.75GB/秒〜31.50GB/秒といったところだ。レーン数を抑えたPCIe 3.0 x4を採用するグラフィックスボードもあり、その場合の転送速度は3.94GB/秒となる。


 そのPCIeを内部スロットではなく、ケーブルで引き出せるようにしたものがThunderboltだ。現在広く利用されているThunderbolt 3は、PCIe 3.0とDisplayPort 1.2/1.4プロトコルに対応した規格で、USB Type-Cのコネクターを使用しながらもUSBと互換性はない(ただし、通常はUSB/Thunderbolt両対応のポートが搭載されており、USB機器を接続すればUSBとして、Thunderbolt機器を接続すればThunderboltとして機能する)。


 このThunderboltを通じてPCIeプロトコルを使う機能が「PCIe over Thunderbolt」だ。Thunderbolt 3では内部接続がPCIe3.0 x2〜4、転送速度が40Gbpsなので、通常のグラフィックスボードを外付けで利用できる。Thunderbolt 3/4ポートが搭載されているWindowsノートPCであれば、eGPUが利用できる可能性は高い。


 Thunderboltポートは前述した通り、USB Type-Cを使用しているため、USBなのかThunderboltなのか見た目では区別がつきにくい。USB Type-Cポートの横に稲妻形のマークが書かれていればThunderboltだ。UEFIの設定画面で「PCIe over Thunderbolt」に関する項目があるかどうかをチェックするとより確実だろう。


 なお、USB 3.xと異なり、USB4はThunderbolt 3をベースとして策定されているので互換性がある。ただし、ノートPCに搭載されているUSB4ポートのほとんどはThunderbolt 4にも対応している。Thunderbolt 3とThunderbolt 4の大きな違いは、規格を満たすための最低条件やケーブル長であり、最大速度はともに40Gbpsだ。


●「ONEXGPU」の実力を試す


 eGPUとしてグラフィックスボードを接続する場合、大きく分けて2つの方法がある。1つはeGPUボックスと呼ばれるケースを使用する方法だ。


 ケース内部には電源の他、通常のPCIeスロットが備えられているため、一般的なグラフィックスボードが利用できる。ビジネス用途であればそこまで高い性能は必要ないため、余っているグラフィックスボードを流用してもよいだろう。ただし、デスクトップ用のボードを収めるためにeGPUボックスは比較的大きく作られている。電源ボックスも重量があり、持ち歩くには不向きだ。据え置きにして使うことになるだろう。


 もう1つがコンパクトなボディーにグラフィックスボードを組み込んだ、一体型eGPUだ。中でも今回取り上げるONEXGPUは世界最小クラスのeGPUで、約196(幅)×120(奥行き)×32(高さ)mmのコンパクトなボディーにHDMI出力×2、DisplayPort出力×2だけでなく、USB4×1、USB 3.2×2、M.2×1、RJ45×1といった多彩なインタフェースを搭載している。内蔵のGPUはAMD Radeon RX 7600M XT(グラフィックスメモリは8GB GDDR6)で、ピーク時の単精度演算で21.4TFLOPSをたたき出す。


 PCとの接続にはThunderbolt 3/4/USB4もしくはOCuLinkを使用するが、一般的なノートPCだとThunderbolt 3/4/USB4での接続となるだろう。まず、UEFI設定画面からPCIe over Thunderboltが利用できる状態であることを確認する。今回テストで使用したXPS13 9380の場合は以下の設定になる。


 System Configuration > Thunderbolt Adapter Configuration


 Thunderbolt:チェック(Thunderboltが有効かどうか)


 その他、「Enable Thunderbolt Boot Support(BIOSプリブート中にThunderbolt接続周辺機器を利用可能にするか)」「Enable Thunderbolt Adapter Pre-boot Modules(Thunderboltで接続したPCIeデバイスのUEFIオプションROMをプリブート中に実行できるようにするか)」もあるが、Windowsでの利用には影響はなかった。これらの設定項目はPCによって異なるため、eGPUを利用するための設定については各PCの取扱説明書を確認してもらいたい。


 Thunderbolt 3/4/USB4の接続であればホットプラグに対応しており、Windows起動後に接続しても問題なく認識する。ただし、ドライバが入っていない状態だとデバイスマネージャー上で「Microsoft基本ディスプレイアダプター」と認識され、正常に動作しない。AMD Radeon RX 7600M XTに対応したドライバをAMDサイトからダウンロード、インストールして再起動すれば利用可能になるはずだ。


●CPU内蔵グラフィックスとの兼ね合いと注意点


 これでeGPUに接続したディスプレイに映像が出力されるようになるが、実はこれだけでCPU内蔵グラフィックス機能からeGPUへの移行が完了するわけではない。


 外部ディスプレイをeGPUにつないで内蔵ディスプレイをオフにしても、全てのグラフィックス処理がeGPUで行われているとは限らない。


 タスクマネージャーのパフォーマンスタブを開くと、GPU0(CPU内蔵グラフィックス)とGPU1(ONEXGPU)が表示されるが、GPU1だけでなく、GPU0も動作していることが分かる。プロセスタブを開き、名前カラムを右クリックしてGPUエンジンを表示するようにすると、実際にCPU内蔵グラフィックスを使っているプロセスを知ることができる。


 複数のGPUが利用可能な場合、どれを利用するかはOSが判断する。「設定>ディスプレイ>グラフィックス」からアプリ単位(実行ファイル単位)で強制的にeGPUを使用するように設定することは可能だが、これも確実かと言えばそうでもないようだ。


 特にMicrosoft Teamsのように実行ファイルのフルパス中にバージョン番号が含まれている場合には、アップデートされるたびに設定が外れてしまうことになる。もっとも確実な方法はデバイスマネージャーから内蔵グラフィックス機能を無効化することかもしれない。


 内蔵グラフィックス機能を無効化すると、「eGPUを取り外したときに内蔵ディスプレイが表示されなくなるのでは」と思っていたのだが、試してみた限りでは正常に表示することができた。もっとも、タスクマネージャーのパフォーマンスタブではGPUが表示されず、ディスプレイにはMicrosoft Basic Display Driverが出力しているという状態なので、正常に動作するかどうかは環境に依存するかもしれない。


●ベンチマークテストの結果は?


 では、ONEXGPUによってPCの性能はビジネス用途でどれくらい向上するのだろうか。今回はUL BenchmarksのPCMark 10を使用した。PCMark 10はPCのアプリケーション実行における総合的なパフォーマンスを計測するベンチマークツールだ。


 今回はEssentials、Productivity、Digital Content Creationの3つのカテゴリーで計測を行う。Essentialはアプリの起動(App Start-up Scode)、ビデオ会議(Video Conferencing Score)、Webブラウジング(Web Browsing Score)、Productivityはスプレッドシート(Spreadsheets Score)、ワープロ(Writing Score)、Digital Content Creationは写真編集(Photo Editing Score)、3Dレンダリング(Rendering and Visualization Score)、映像編集(Video Editing Score)の速度を測定する。


 計測機材にはデル・テクノロジーズの「XPS 13 9380」(Core i5-8265U、メインメモリ8GB、Windows 11)を用いる。内蔵ディスプレイのみ、4K外部ディスプレイ2台(内蔵ディスプレイオフ・CPU内蔵グラフィックス機能)、4K外部ディスプレイ2台(内蔵ディスプレイオフ・ONEXGPU 100W)、4K外部ディスプレイ2台(内蔵ディスプレイオフ・ONEXGPU 120W)の4パターンで計測を行った。


 古いモデルであるためにスコア自体が見劣りするが、相対的な傾向として見ていこう。内蔵ディスプレイでの速度を基準とすると、CPU内蔵グラフィックス機能のみで4K外部ディスプレイ2台を接続した場合には、トータル18%程度の速度低下が見られた。特にVideo Conferencing Scoreは著しく、約34%も低下している。Teamsを使ったオンライン会議が重たくなるのも納得のスコアだ。


 一方、ONEXGPUを使用するとトータルで約50%の速度アップとなった。GPUであるだけにRendering and Visualization Scoreでは230〜270%という大幅な高速化が見られたが、それ以外のEssential、Productivityでも内蔵ディスプレイより10〜30%高速という結果になっている。


 PCMark 10の基準スコアは簡単な作業を行うための一般的なPCの場合、Essentialsで4100以上、一般的なオフィス作業や簡単なメディアコンテンツ制作の場合、Productivityで4500以上、写真、動画、その他のデジタルコンテンツ編集の場合、Digital Content Creationで3450以上とされている。


 内蔵ディスプレイでも簡単な作業がやっとだったモデルでも、ONEXGPUを利用すればデジタルコンテンツ編集がこなせるパワーアップが図れることになる(Productivityはぎりぎり足りないという逆転現象にはなっているが)。


 また、ONEXGPUはThunderbolt以外にOCuLinkでも接続できる。OCuLinkはThunderbolt同様にPCIeを外付け可能にすることを目的としたインタフェースだ。


 コントローラーを必要とするThunderboltとは異なり、PCIeの配線をそのまま引き出した、良くも悪くもシンプルなものとなっている。XPS 13にOCuLinkポートはないので、One-Netbook Technologyの「ONEXPLAYER」でThunderboltとの違いを計測した。


 顕著な差が出たテストはPhoto Editing Scoreで、OCuLinkとThunderbolt 4の差は25%程度だったものの、その他のテストではわずかな差にとどまった。Photo Editing Scoreはメインメモリとグラフィックス用メモリ間の転送量が多く、Thunderboltコントローラーのオーバーヘッドが影響しやすいテストだったということだろう。


●ノートPCの拡張性を高める高速インタフェース


 ONEXGPUによるパフォーマンス向上は十分期待に応えるレベルだった。ただし、10万オーバーという、下手すればもう一台本体が買えてしまう金額は、社用PCにかけるにはちょっと高額かもしれない。もっとも、複数のノートPCを使っているのであれば使い回しもできる。


 この「高性能なグラフィックスボードを複数のPCで使い回す」というのはあまり想像していなかった光景ではないだろうか。


 ノートPCの小型化や軽量化に寄与した技術は数多くある。HDDからSSDへの移行、それに続くM.2スロットの採用は速度だけでなく物理容量面でも大きなアドバンテージとなった。CPU内蔵グラフィックス機能は基板実装面積の縮小に直結したし、USB Type-CやDisplayPort Alternate Modeはインタフェースの種類を減らしても利便性を維持することができた。


 そして、Thunderbolt/USB4の20Gbps〜40Gbpsにも達する高速性は、内部接続に限られていたインタフェースを筐体外部にまで延伸し、ノートPCに今までに無い拡張性をもたらすことに成功した。


 過去にはデスクトップPCを置き換えることを目的とした「デスクトップリプレイスメントモデル」というジャンルの大型ノートPCが存在したが、持ち運ぶには不向きで、デスクトップほどの拡張性がなく、程なく廃れていった。


 真のデスクトップリプレイスメントはThunderbolt/USB4で実現されるのかもしれない。


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