面接を録音したい就活生「友人と共有していい?」「ハラスメントなら証拠になる?」弁護士が解説

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2024年03月20日 08:30  弁護士ドットコム

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2025年の卒業に向けて、現大学3年生の就職活動が始まっている。今春卒業の大卒内定率(2月1日時点)が91.6%と「売り手市場」とはいえ、人気の職種を勝ち取りたい学生たちは面接の練習に余念がないという。


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弁護士ドットコムにも、「聞き直して次の改善につなげたい。こっそり録音していいのでしょうか」との相談が寄せられている。中には友人と共有したり、同じ企業を志望する人たちのためにSNSで公開したりしたいとの声もある。



こうした行為は法的にどうなのか? 竹花元弁護士に聞いた。



●無断録音OK=公開OKではない

――企業側に告げずに録音する行為は違法なのでしょうか?



話し手の承諾を得ずに行う録音を、「無断録音」や「秘密録音」といいます。企業の担当者とのやり取りや面接の様子を無断録音しても、それ自体は法的に問題のない行為です。



ただし、無断録音した音声をSNSなどで公開したことによりその企業や話した人物が特定できる場合には、法的な問題が生じる可能性があります。



具体的には、公開した録音内容が企業やその人物の社会的評価を低下させる場合に名誉毀損が成立する余地がありますし、そうでない場合でも、プライバシーの侵害に当たる余地があるといえます。



録音すること自体は法的に問題ありませんが、それを公開することには慎重であるべきでしょう。



――「次の面接に生かしたいので録音していいですか」と許可を取ったほうがいいですか?



許可を得る必要はありません。



なお、許可を得ようとしたが明確に断られた場合、それでも無断録音して後日(内定後などに)無断録音の事実が判明したら、「相互に確認した約束を破った人」とネガティブに評価されるリスクがあります。企業が採用過程における無断録音を理由とする懲戒処分などはできないと考えられますが、あえて許可を取るメリットは乏しいといえます。



●無断録音でもハラスメントの証拠になり得る

――これまでも圧迫面接、就活中のセクハラやオワハラ(他社選考の辞退を強要する)などが問題とされ、学生側からも「証拠として残しておきたい」との声があります。



無断録音した音声を証拠として、交渉や訴訟などでハラスメントを立証することは可能です。録音は非常に重要な証拠となります。パワハラやセクハラなどハラスメント行為の違法性が争点となる裁判では、ハラスメント言動の存在を被害者側が立証する必要がありますが、無断録音やそれを書き起こした資料が証拠としてしばしば使われます。



無断録音であることを理由に証拠としての価値が否定されることは基本的になく、むしろ直接的な証拠である録音は、多くの事件で立証の決め手になります。



裁判例には、ハラスメント申し出後に行われた法人内の「ハラスメント防止委員会」(ハラスメントについて確認・調査を行う委員会)におけるやりとりの録音が証拠から排除されたことがあります。しかし、この裁判例は、同委員会が「申立人及び被申立人並びに関係者のプライバシーや人格権の保護も重要課題」としており、同委員会における審議の秘密は「秘匿されるべき必要性が特に高い」ことを理由としており、かなり例外的な判断とみるべきでしょう。



職場における上司・同僚とのやり取りや会議の録音が証拠としての能力を否定されることは考えづらいといえます。



――オンライン説明会などでは「録音・録画は禁止」などと注意する企業もあります。



企業側が無断録音をやめさせることはできないと考えるべきでしょう。たとえ、面接の際に「録音禁止」というルールを周知しても、ハラスメントなど企業側とトラブルになった際には、そのルールに反して録音した音声も証拠として機能すると考えられます。



この点、裁判例では、働き始めた後の事案ですが、上司らから録音禁止を繰り返し命じられたにもかかわらず従わないことを理由の一つとする解雇が有効と認められたことがあります。しかし、同事案は当該従業員の勤務態度に大きな問題があったケースであり、「『録音禁止』に反したから懲戒処分や解雇ができる」と安易に考えられるものではありません。



あくまで、職場における無断録音は、証拠になるという意味でも、録音を理由に懲戒処分や解雇はできないという意味でも、基本的に問題ないと考えるべきでしょう。



――就活生や従業員の無断録音について企業はどのような姿勢で向き合えばよいのでしょうか。



スマートフォンなどの携帯機器を使い、誰でも、いつでも、録音ができる時代です。ハラスメントに該当する音声がSNSに流出したり、報道で取り上げられれば、企業が社会的に強い非難を受け、謝罪に追い込まれることもあります。今やハラスメント対策は企業の存続にかかわる問題です。



また、録音は一部を切り取って取り上げられるのが実情であり、発言の文脈までは見てもらえないことが多いと認識すべきです。企業は、採用活動中においても、内定後や稼働開始後においても、録音された内容のどの部分が切り取られても問題がないような言動をとることを徹底して心がけるべきでしょう。



録音を禁止したとしても、ハラスメントの予防にも、ハラスメント問題による企業ダメージの回避にも、役に立ちません。まずはハラスメントが起こらない職場を作ること、ハラスメントが生じた場合には、早期に解決を図る体制をとることが何より大切です。






【取材協力弁護士】
竹花 元(たけはな・はじめ)弁護士
法律事務所アルシエンのパートナー。労働法関連の事案を企業側・個人側を問わず扱い、交渉・訴訟・労働審判・団体交渉の経験多数。人事労務や会社法務の経験を生かして、企業向けハラスメント防止セミナーやM&Aの法務デューデリジェンスも行う。東証プライム上場企業・非上場大手企業・医療法人・ベンチャー企業など、多くの業種・規模の企業で法律顧問を務める。労働法に関する書籍を23冊執筆。
事務所名:法律事務所アルシエン
事務所URL:http://www.alcien.jp


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