1カ月で100万本売れるひとり用ポーカーの正体 “射幸心煽られ放題”な新作ゲーム「Balatro」とは

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2024年03月21日 12:11  ITmedia NEWS

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Balatro

 いま、PCやゲーム機で遊べるポーカーが売れている。しかも報酬で射幸心をあおるギャンブルではなく、一人で黙々と遊ぶ“ひとりポーカー”だ。2月に発売されたとある“ひとりポーカー”は、「中毒になる」などとしてゲーム実況やSNSで話題に。3月19日には100万セールスを突破した。


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●100万本売れたポーカーゲーム「Balatro」とは


 ゲームの名前は「Balatro」。カナダのゲーム開発者が作った作品で、提供は英国のゲームパブリッシャーPlaystackが手掛ける。提供プラットフォームはSteam(Windows/Mac OS)、Nintendo Switch、PlayStation 4、PlayStation 5、Xbox One、Xbox Series X|Sで、価格は1700円前後だ。日本語にも対応しているが、Switch版は日本での提供を一時停止中。ゲーム媒体各社の報道によればレーティングが原因という。冒頭の「100万セールス」は各プラットフォーム累計の販売本数だ。


 さてこのBalatro、お察しの通りただのポーカーではなく、プレイヤーを“沼に落とす”アレンジが加えられている。簡単に言うと、役を作るとスコアとしてバカデカい数字が出るので気持ちよくなれるポーカーなのだ。


 詳しく説明する。Balatroは、賭けた金やポイントを巡り、ブラフやイカサマによる駆け引きを楽しむゲームではない(そもそも対戦相手がいない)。52枚のトランプ(デッキ)からランダムに選ばれた10枚弱の手札のうち、1〜5枚を選んで場に出し、「ワンペア」「ツーペア」などの役を作ることで得られるスコアを最大化するゲームだ。


 スコアは「役ごとに設定されている初期値+カードに書かれている数字の和」×「役ごとに設定されている倍率」で算出する。例えばハートの5とスペードの5でワンペアを作った場合、初期値(10)とカードにある数字の和は20。倍率は2倍で、40点のスコアが得られる。もちろんフルハウスやフォーカードなど、より良い役は倍率なども高い。


 ゲームではステージごとにスコアのノルマが課されており、3〜5回程度のスコア算出でノルマの達成を求められる。例えば第1ステージでは300点を出さねばならない。手札は最大5枚まで引き直しができるが、1ステージにつき4〜5回程度までと回数制限がある。


 そしてこのゲームのキモとなるのが、スコア算出に使う数字を増やせる成長要素だ。先ほどスコア算出の計算式を説明したが、これはあくまで初期値。ステージクリアによって得られるポイントを使って、この倍率や初期値を強化できる。


 代表例はスコアに恒常的な影響を与える「ジョーカー」だ。ジョーカーは各ステージのクリア後にアクセスできるショップなどで入手でき、種類ごとに効果が異なる。例えばシンプルに倍率を常に+4したり、スペードのカードを場に出すごとに倍率を上げたり、特定の役のときだけ初期値を+50したりできる。その種類は150以上あり効果も多種多様だ。


 つまりジョーカーを使うと、先ほど説明した計算式が「役ごとに設定されている初期値+カードに書かれている数字の和+ジョーカーによるボーナス」×「役ごとに設定されている倍率+ジョーカーによるボーナス」などになる。


 そしてジョーカーは最大5枚まで(これもジョーカーの効果で増やせるが)あり、それぞれの効果を組み合わせられる。そうするとどうなるか。スコアが数万とか数十万とかとんでもない数字になる。スコア算出時には軽快な音楽やアニメーションなどの演出で盛り上げるため、とにかく気持ちいい。ジョーカーの組み合わせによっては「フルハウスより(スコアが)強いツーペア」とかも出てきて愉快だ。


中毒性が尋常じゃない 気づいたら経過した10時間


 強化要素は他にもある。トランプのカードは後から増やせるし「これを出したら倍率に+10」「これが手札にあったらスコア1.5倍」みたいな特性も付与できる。また役が持つスコアの初期値や倍率を強化する「惑星カード」や、「スペードの5をハートのクイーンに変える」「カードのスートを5枚までダイヤにする」といった効果が使える「タロットカード」もある。やろうと思えば「クイーンめっちゃあるからスリーカードとフォーカード出しやすいデッキ」とかを作れるわけだ。


 巧みなのが、これらの強化要素が手に入るかもランダムな点。ショップは全てのカードが売っているわけではない。ジョーカーは数枚ずつしかショップに並ばないし、タロットカードや惑星カードはトレーディングカードゲームのような「パック」をポイントで買って手に入れる仕組みだ。詳細は省くが他にも強化のために使える要素は複数あり、それらを適宜組み合わせればスコアはどんどん大きくなる。


 一方で、求められるスコアはステージごとにどんどん高くなっていくし、中には「スペードが使えなくなる」みたいな縛りを課してくる場面もある。そういう局面を想定したり、時には「ハートだけは縛るな……!」と祈ったりしつつ、ポイントをやりくりしながら、デッキを改造し、スコアを大きくしていく。でもスコアが達成できなくなったら、強化はリセットされ、最初からやり直し──というのがBalatroのおおまかな流れだ。


 とはいえスコアを達成できなくてもボタン一つでリトライできるので、やり直しは気軽だ。しかもプレイごとに新しいジョーカーが使えるようになったり、新しいデッキ(最初から絵札がない、カードを場に出せる回数が少ない代わりにジョーカーが多く持てる)がアンロックされたりするので、ついついもう1回やりたくなってしまう。短ければ数分で1プレイが終わるし、長くても大抵20〜30分だ。


 ……そう、ここまでの説明でお察しの通り、このゲームは中毒性が尋常じゃない。手札を引くとき、ジョーカーや惑星カードを選ぶとき、それを組み合わせて作ったデッキが想定通りの効果を発揮したとき。あらゆる行動が“ガチャ”になっている。演出も軽快かつちょっとサイケで、ストレスがないのでクリックやボタンを押す手が止まらない。脳をめちゃめちゃにハックされている自覚があるにもかかわらず、プレイが止められないのだ。


 SNSでも同様の声が多く見られる。ゲーム実況動画では頻繁に「中毒」という見出しが用いられているし、Xでは「ギャンブルにハマる人の気持ちが分かった気がする」といった意見もあった。筆者もおおむね同意見だ。ちょっと試してみようかなと思ったら10時間たっていたが、あと数十時間は余裕で遊べると思う。より難易度を高くもできるようなので、遊びつくそうと思ったらずっと遊べるだろう。


●ジャンルを開拓したパイオニア……というわけではない


 ただ、Balatroのゲームシステム自体は、実はそこまで目新しいものでもない。プレイごとに報酬を手に入れ、デッキやキャラクターを強化してクリアを目指すゲームは「ローグライクデッキ構築」「ローグライク系デッキビルダー」などと呼ばれ、インディーゲームや海外ゲームを好むゲーマーを中心に人気ジャンルになっている。


 「デッキ構築(デッキビルダー)」はその名の通り、ローグライクは「ローグみたいなゲーム」の意だ。最初期のコンピュータゲーム「ローグ」の要素を持つことを指す。定義はいろいろあるが、とりあえずは「何度もゲームオーバーになっては戦略を覚えるリプレイ性がある」「ランダム性があって何度も遊べる」要素があるという理解でいい。


 で、このローグライク系デッキビルダーのジャンルには“原点にして頂点”みたいなポジションのゲームがある。2017年に早期アクセスを開始し、19年に正式リリースされた「Slay the Spire」(StS)だ。戦士や暗殺者として敵を倒しながらカードを手に入れてデッキやキャラクターを改造・強化していく、ローグライク系デッキビルダーを地で行く内容だ。


 公式には2019年までに150万本以上を売り上げたと発表しているが、ゲーム配信プラットフォームのデータを独自に集計するWebサイトでは、Steamだけで300万〜1000万本を売り上げたとしている。正確なところは不明だが、Xboxなど他のプラットフォームにも展開しているので、少なくとも150万で終わっていない可能性は高いだろう。


 StSはジャンルの火付け役となり、後に類似のゲームがいくつも生まれた。しかしStSの人気は陰っていない。原点を超えるものはないとして、未だにユーザーメイドの拡張コンテンツを導入して遊んでいる人がいるくらいには人気だ。筆者の知人にも1000時間くらい遊んでいる人がいる。


 という風に、ローグライク系デッキビルダーは人気でありながら高い壁のあるジャンルだったが、ここにきてBalatroが食い込んできたわけだ。話題になった理由はいくつか考えられるが、最も大きいのはポーカーモチーフであるゆえの分かりやすさだろう。


 Slay the Spireは間違いなく面白い(筆者も50時間くらい夢中になった)ゲームだが、そのビジュアルはいかにも海外製のボードゲームといった感じ。シンプルで雰囲気もあっていいが、あまり見栄えはしないし、多少人は選ぶ。ゲームのテンポも悪くはないが、良くもない。一方、Balatroは誰にでもなじみがあるトランプがメインのビジュアルだ。情報量もそれほど多くないので、これが飲み込みにくいという人はあまりいないだろう。ゲームのテンポは言わずもがなだ。


 だからといって細かいエフェクトや演出がおろそかになっているかといわれればそうではなく、軽快かつサイケな演出で「あと1回」をあおられる。分かりやすさと、それを無駄にしない洗練された体験がBalatroの強みだろう。


●100万はあくまで通過点? 怖いのは……


 と、ここまでBalatroの“ヤバさ”を説明したが、実は100万セールス自体はとんでもない偉業というわけでもない。もちろんそのスピードは驚異的だが、同じローグライクならちらほら同じくらい売れているゲームはあるし、デッキビルダーまで絞っても「Inscryption」というゲームが100万セールスを突破している。Inscryptionはカードゲーム部分以外の要素も評価につながった作品(詳細はネタバレになるので伏せる)なので単純比較はできないが、一応StS含め前例はある。


 ただ、Balatroにはまだ伸びしろが残されている。スマホアプリ化だ。開発者・パブリッシャーによれば、開発者はすでにモバイル対応も検討中という。基本はポーカーという分かりやすいルール、すでに話題になっている実績、気軽に遊べるカジュアルさ。これがスマホでいつでも遊べれば……後はお分かりだろう。


 モバイル対応はユーザーにとっても(時間が溶ける)脅威だが、もしかするとソーシャルゲームにとっても多少の脅威かもしれない。10連ガチャ1回3000円が当たり前の時代に、半分程度の値段、しかも買い切りであおられ放題の射幸心が飛び込んでくるのだ。プレイヤーの可処分時間はどうなるだろうか。


 一方でいちプレイヤーとしては、Balatroを研究したクリエイターから、同様の楽しさを持ったゲームが今後どんどん生まれることも期待している。できれば記事を書く時間が残る程度の面白さで勘弁してほしいが。


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