【男子ゴルフ】2012年、石川遼は「最後のピース」を手に入れた

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2024年03月26日 08:50  webスポルティーバ

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 2012年シーズン、石川遼は試行錯誤を繰り返してきた。それは、1勝もできなかった2011年シーズンも同様だった。しかし石川にとっては、この2年間が非常に貴重で、重要な時間だったと思う。

 振り返れば2007年、15歳でプロツアーを制した。翌2008年にプロ入りすると、即1勝を挙げて賞金ランキング5位という好成績を収めた。その勢いのまま、プロ2年目の2009年には10代で賞金王を獲得。2010年もツアー3勝を飾って賞金王争いを演じてきたが、それらは余りにも出来過ぎだった。

 石川自身、その間については「たまたま運良く勝てたり、すべてがいい方向に転がったりして、ちゃんと自分で階段を上って来なかった」と語る。つまり石川は、その一足飛びで駆け上がった階段をもう一度、自分で一段一段上る必要があった。それが、この2年間でもあった。

 海外のメジャー大会に出場し、"世界"という舞台を知ったのがきっかけだった。そこで石川は、世界のトッププレイヤーの凄さを目の当たりにした。自分にはない技術やアイデアを持った選手たちに度肝を抜かれ、自らの力のなさを改めて認識した。そして、自分に足りないもの、身につけなければいけないことがたくさんあることを知った。

 例えて言うならば、日本で戦っているうちは100ピースのパズルを、自分の引き出しから技術やアイデアを出して完成させれば良かったのが、世界で戦うには1000ピースのパズルを完成させなければ通用しないことがわかった。そしてそれには、正しい1000ピースを見つけ出すための、技術やアイデアを自分が持っていなければいけないことを痛感した。

 ただし、いきなり世界を見てしまった石川は、そこで必要な1000ピースを目の前にばらまかれたに過ぎなかった。ゆえに、完成形となるパズルの見本などなく、どのピースをどこに当てはめればいいのか、さっぱりわからなかった。この場面で使うべき技術は何なのか、この条件で選択すべきプレイは何なのか、まったくわかっていなかった。

 すると、必要のないピースを拾い上げてしまうこともあるし、間違ったところにピースを置いてしまうこともある。それでも、世界で戦うことを目標とした彼は、右往左往しながらも、とにかく使用すべきだと思ったピースをひとつひとつパズルに埋めていくしかなかった。

 2年間、試行錯誤を繰り返してきたのは、そのためだ。世界仕様の体作りをはじめ、スイングもあれこれ修正を繰り返した。

 プレイでは、見ている側が「この場面でなぜそんな狙い方をするのだろう」「何を考えてゴルフをやっているんだろう」と疑問に感じるシーンが多々あった。無意味なことやミスジャッジがたくさんあって、試合の成績に反映しないことが多かった。

 その不振ぶりを見て「スランプ」と称する人もいたが、石川のそれは決してスランプではない。あれもできない、これもできないといったマイナス要因によるものではなく、あれができるように、これができるようにと前向きの、先を見据えての結果だからだ。

 石川はただひたすら、「世界で戦うための」ひとつひとつのピースを埋めていたに他ならない。自分がやりたいこと、やるべきことを貫いてきただけだ。そのためなら、今を捨てられる。そこに、石川の強さがあり、希望があった。

 そして2012年11月、石川は三井住友VISA太平洋マスターズで2年ぶりの優勝を飾った。最終日、首位の石川は、2位に1打差で最終18番のロングホールを迎えた。その第2打、2位の松村道央が2オンに成功し、後から打つ石川も果敢に2オンを狙った。グリーン手前には池があり、ミスすれば優勝が手元からこぼれてしまう状況だったが、石川はピン手前にボールをきっちり運んだ。

 石川はこのショットを決めるために、2年間ずっと努力をしてきた。練習であれば、100回打ったら100回とも成功するかもしれない。しかし切羽詰った土壇場の、それも勝敗を左右するプレッシャーのかかった場面では、その確率は極端に低くなる。その難易度の高いショットを、石川は見事に成功させたのだ。

 言うなれば、1000ピースの最後の1ピースを入れた瞬間だった。「この2年間、もう勝てないんじゃないかと思った」と涙した石川にとっては、2年間の苦しさとの決別でもあった。

 どんな絵柄かまったくわからなかったパズルを、石川は誰か(コーチ)のアドバイスを受けることなく、ついに自らピースを探し当てて完成させたのだ。この経験は、彼にとって本当に大きな強みとなると思う。そして、これから先の彼が、すごく楽しみになった。

 2013年は、いよいよ本格的に米ツアーに参戦する。そこで石川は、いまだ知らなかった世界の凄さに改めて気づくだろう。そうすると、ピースの数が1000では足りないのではないか、と思い始めるに違いない。それは、1500か、いや2000ピースかもしれない、と。

 だが、石川は1000ピースのパズルを完成させた。最後の1ピースをはめられず、完成形が見えないまま、すべてのパズルを放り出して、再び100ピースのパズルを作るレベルに戻ってしまう人間とは違う。ひとつの階段を上がれたことは、間違いなく"自信"となって、自らの体の中にしみ込んでいるはずである。次なるステージでは、その達成感と蓄積された自信を生かして、さらなる高みを目指していってほしい。

三田村昌鳳(みたむら・しょうほう)
1949年2月24日生まれ。週刊アサヒゴルフを経て、1977年に編集プロダクション(株)S&Aプランニングを設立。ゴルフジャーナリストとして活躍し、青木功やジャンボ尾崎ら日本のトッププロを長年見続けてきた。初のマスターズ取材は1974年。2012年大会で33回目となる。(社)日本プロゴルフ協会理事。

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