テスラよ、日本を仲間外れにしないで モデル3オーナーのホンネ

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2024年03月26日 13:31  ITmedia NEWS

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 iPhoneにタイヤをつけたようなクルマ」と表現されるTesla。IT・ビジネス分野のライターである山崎潤一郎が、デジタルガジェットとして、そしてときには、ファミリーカーとしての視点で、この未来からやってきたクルマを連載形式でリポートします。


【写真はこちらから】どんどん値上がりするスーパーチャージャーの充電料金


 本連載では筆者のTesla Model 3の運用体験を通じて、同車の魅力を発信しています。実際、納車から2年半が経過し、日々、満ち足りたカーライフをModel 3と共に過ごしています。とはいえ、100%手放しで喜べることばかりではありません。今回は、Model 3やTeslaの「ここが好き」「ここが嫌い」というテーマで語ります。


●“ジャパンパッシング”が多すぎる


 Teslaの魅力の1つにソフトウェアアップデートがあります。ADAS(高度運転支援)の改善、スクリーンなどUI/UXの改善、エンタメ系アプリの追加、安全機能の追加等、その内容は多岐にわたり、まさに「好きな」部分です。


 その一方で、海外ではアップデートで追加されているにもかかわらず、日本は適用外という項目もたくさんあります。まさに、ジャパンパッシングです。


 海外のアップデートにおいて、駐車中のセントリー(見張り)モードによるイベント発生時、前後左右の車載カメラのライブ映像をスマホの専用アプリから遠隔で確認できる機能が追加されました。しかし、日本ではこの機能、未搭載のままです。


 仮に、第三者がイタズラを仕掛けるような決定的な場面を確認することができれば、ホーンを鳴らしたり、ヘッドライトをフラッシュさせることができます。さらに、スマホに向かって話すことで、自分の音声をクルマのスピーカーから流すこともできます。下記に紹介するライブカメラの紹介動画では、「今すぐ私のクルマから離れろ!」と音声で警告しています。


 本連載における前回、「駐車中のテスラ車には近づかない方がいい 全てのクルマに欲しい『セントリーモード』の威力」で、日本において、セントリーモードの映像から、クルマにキズを付けた犯人を警察が器物破損で逮捕したという出来事を紹介しました。日本でもライブカメラ機能が実現していれば、キズをつけられる前に防ぐことができた可能性もあります。


 この他にも日本のアップデートでは、スルーされる機能が散見されます。日本の法規制に抵触する項目が除外されるのは致し方ありませんが、そうとは思えないようなアップデート項目が日本では封じられることもあります。まさにTeslaの「嫌い」な部分です。


●予告なくしれっと値上げするスーパーチャージャー


 自宅充電が中心の筆者ですが、長距離旅行で必ず利用するのが、Tesla独自の充電インフラ「スーパーチャージャー」です。


 公共の急速充電器のように、充電器側の認証操作を行うことなく、プラグインするだけで充電が開始され、車両にひも付けられたクレジットカードで決済されます。この充電体験こそがTeslaの魅力の一角を担っており、愛すべき部分でもあります。このような上質な充電体験は、クルマとしてのEVの魅力を左右する重要な要素に他なりません。


 しかし、エネルギーコストの上昇に伴い、スーパーチャージャーにおける充電料金の値上げが2022年あたりから相次いでいます。充電インフラの運営は慈善事業ではないので、それはそれで致し方ないとは思いますが、Teslaは予告なく値上げします。筆者はいつもSNSの投稿で値上げを知ります。


 例えば、2021年11月の時点で、大津スーパーチャージャーを利用した際は、69kWhをチャージして1692円でした。単純計算で24.52円/kWhです。この時点では、毎分課金する形式で出力に対して18円/kWh(60kW以下)、36円/kWh(60kW以上) という、2段階料金制でした。


 その後、料金体系が4段階制に細分化され、その翌年の11月、同じく大津スーパーチャージャーで55kWhをチャージして2479円と単純計算で45円/kWhとなりました。


 その後も段階的な値上げが実施され、4段階制は変わらないものの、段階単価が引き上げられ、走行条件によっては、ハイブリッド車よりコスト高になりました。


 現時点では毎分、45円(60kW以下)、95円(60〜100kW)、150円(100〜180kW)、245円(180〜250kW)と、2021年11月の時点と比較すると大幅に値上げされています。この直近の料金体系で、過去の出力カーブを当てはめて、44kWh(約260km)を充電した場合、約3400円の請求となり、77円/kWh以上と驚愕の高騰ぶりです。


 以前は、高速道路をいったん降りて最寄りのスーパーチャージャーで充電し、再度高速道路に戻った場合、時間的浪費や初乗り料金が発生することを差し引いても、スーパーチャージャーを利用するメリットがありましたが、この分だと、高速道路のサービスエリアに設置された公共の充電器を利用した方が総合的に有利に運用できる場面も多くなりそうです。


 実際、サービスエリアにおいて日本最大級の充電プロバイダーであるe-Mobility Powerの充電器をビジター料金で利用したとします。30分間で20kWh(約120km)を充電した場合、1650円となり82.5円/kWhです。条件にもよりますが、時間的なメリットや初乗り料金を考慮すると、スーパーチャージャーの優位性は大きく後退します。


 ただ、自宅で充電するより安価な料金設定だった以前の状態が特別であって、現在の料金体系こそが正常化した姿なのかもしれません。とはいえ、値上げする際は、メール等で事前に告知していただきたいものです。


●先進性に見劣りを感じるTeslaの運転支援


 先日、別件取材でホンダの新型アコードの魅力について、本田技研工業の担当者にインタビューする機会を得ました。 印象的だったのは、「Honda SENSING 360(サンロクマル)」という高度運転支援機能とGoogleの音声認識AIに対応している点でした。1970年代に登場しユーザーの高齢化が進むアコードも、SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)への道を確実に歩み、若い層への訴求を狙っていることを実感しました。


 SDVとして最先端を走っていたTeslaですが、ここ日本に限っていえば、その先進性に陰りが見え始めていることも同時に感じました。例えば、Tesla自慢の高度運転支援機能「オートパイロット」ですが、トヨタ、日産、ホンダ、スバルといった国産メーカーの同様の機能に追い付かれていることを感じます。


 例えば、高速道路でのハンズオフ機能などはその典型です。現行のオートパイロットではハンズオフはできません。オートレーンチェンジ機能についても43万6000円のオプション料金を支払う必要があり、国産メーカーに後れを取っていると言っていいでしょう。


 43万6000円を支払えば「エンハンスト オートパイロット」の名目で、現行のオートパイロットに追加してオートレーンチェンジ機能を追加できますが現状ではそれだけです。ユーザー感覚で言えば、オートレーンチェンジ程度なら、オートパイロットの基本機能として提供して欲しいものです。


 将来的には43万6000円のオプション料金の範囲内で、オートパーキング、サモン、エンハンスト サモン、ナビゲート オン オートパイロットをアップデート追加できるとあります。しかし、Teslaは、その提供時期を約束しているわけではありません。


 上位バージョンとして、87万1000円の「フルセルフドライビングケイパビリティ」を以前から提供していました。これは、前述のエンハンスト オートパイロットの機能に加え、信号機/一時停止標識コントロール、市街地でのオートステアリングを提供予定としています。


 しかし、これにしても、その提供時期を約束してはいません。筆者がModel 3を注文したのは2021年5月ですが、その際もフルセルフドライビングケイパビリティは選択可能でした。あれから3年がたとうとしていますが、いまだに追加機能は未提供のままです。「ケイパビリティ」(対応可能な能力あり)とはいえ、あんまりです。ちなみに、筆者は、オプション追加は見送りました。


 Teslaの文言を信じて、早期にフルセルフドライビングケイパビリティを購入したオーナーは大いに不満を募らせていることでしょう。また、驚いたことに、これらのオプション機能は、新たなTeslaの車両に買い換えた場合でも、引き継ぐことはできないルールです。


 フルセルフドライビングケイパビリティを購入したModel 3ユーザーの中には、2023年9月に登場した新型Model 3への乗り換えを検討している人もいるかと思いますが、87万1000円のオプションを新型へ引き継げないとなると、さらなる不満を募らせるのではないでしょうか。


 ただ、Teslaは、期間限定のキャンペーンとして、新しいTesla車両への買い換え時にフルセルフドライビングケイパビリティを引き継ぎ可能なサービスを実施しています。しかし、あくまでも期間限定のキャンペーンであり、恒久的な措置ではありません。まあ、ガス抜き程度の意味合いでしょう。


 米国では、Full Self Driving(FSD)βバージョン12の一般ユーザーへの提供が開始されました。FSDβバージョン12は、一般ユーザーの走行動画をもとに、全てニューラルネットによる学習で構築した自動運転プログラムです。


 YouTubeでは、一般ドライバーが投稿したと思われるFSDβバージョン12のドライブレコーダー映像を多く見ることができます。フリーウエイでのハンズオフ自動運転走行はもちろん、駐車車両、工事現場、一時停止標識、歩行者など、障害物だらけの混雑した市街地において、ナビ設定した目的地に向かってハンズオフで走行している映像があり、その先進性に驚きを禁じ得ません。


 日本の現行法規制下では、FSDβバージョン12をそのまま適用できない事情があるのかもしれません。例えば、国交省の検討会では以前「自動運転を実装するにあたっては、LiDAR(ライダー)やHDマップが必須」といった意見もあったようですが、もしそれが適用されると、ビジョン方式(カメラだけで周囲を監視)するTeslaのFSDβバージョン12は、いつまでたっても論外ということになります。


 日本においては、圧倒的先進性に陰りが見え始めたSDVとしてのTeslaですが、国産車に負けない運転支援機能を早期に提供して欲しいものです。そうしなければ、Teslaを「嫌い」になってしまうかもしれません。


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