中村倫也、異例の“雑炊本”に見たプロの仕事 今年の目標「人のメンツを立てる‘24」に込めた思い

0

2024年03月27日 07:00  ORICON NEWS

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ORICON NEWS

『THE やんごとなき雑炊』を出版した中村倫也(スタイリスト:戸倉祥仁(holy.)、ヘアメイク:松田陵(Y's C))(C)ORICON NewS inc.
 「この本は、自由を楽しむレシピ本です。料理とは、自由なものです」。初の料理本にして、全編“雑炊”縛りで構成された、中村倫也(37)による異例の書籍『THE やんごとなき雑炊』(KADOKAWA 監修協力:タカハシユキ)の「まえがき」では、このようにつづられている。その言葉通り、紹介されている20の雑炊の調理工程、ショートエッセイを通して、料理の自由さと楽しさ、そして中村自身の“人生観”が垣間見える内容となっている…。と、ここまで書きながら「そもそも中村の“人生観”とは何なのか」という疑問が浮かび上がってきた。そこで、インタビュー・イベント取材の2回にわたって中村の考えに触れてみた。

【写真】やさしい笑みを浮かべてインタビューに応じる中村倫也

■担当編集の“仕掛け”に本音「何をニヤニヤしているんだろう」 書籍化に感謝

 同書は、中村が「雑炊」を作りながら「雑談」をし、その調理過程からイマジネーションしてショートエッセイを執筆するという、これまでにない斬新な誌面で、発表当初ファンをざわつかせた連載企画「中村倫也のやんごとなき雑炊」の書籍化。2022年4月号から約1年半にわたり、雑誌『ダ・ヴィンチ』で連載されたその企画誌面が、『THE やんごとなき雑炊』とタイトルを変えたものとなる。

 出版前、対面でのインタビューを実施。書籍を読んで感じた「手際のよさ」について向けてみると、やわらかい笑みを浮かべた。「学生時代とかバイトとかでも『これをやっている間に、あれを終わらせておいて…』みたいなことを考える『効率』みたいなのが好きだったんですよ。それもあるのかもしれないですけど、料理って本当10秒長く火にかけただけで、ちょっと変わっちゃったりするものじゃないですか。例えば、葉野菜などが如実ですが。だから、あわあわしないように準備しておくみたいなのはしているかもしれないですが、そんな語れるほど大したものではないですよ」。

 1冊の書籍になった“雑炊本”には、自分自身でも驚きの気持ちがあった。「俳優の雑炊の連載が1冊になるってことがもうわけわからない、すごいことなので、よくやったなって思います(笑)。1冊になっていることが、稀有なケースだと思います。料理とかじゃなくて『雑炊』ということに明言して作っているのは、世の中の人もきっと、本屋とかで目にしたら『どういうこと?』って思うんじゃないかなと感じているので、そういうものを形にできたっていうことに対して、このチームに『よくやったなー!』という思いです」。

 調理中には、担当編集の村井氏が手際のいい中村に“さまざまな仕掛け”を行って、それに対するかけあいも読みどころのひとつ。インタビューにも同席していた村井氏が「困らせたいんです(笑)」と打ち明けると、中村は「“中村を困らせたい”は、俳優業界でもけっこうあるんですよ。こんなオファーしたら困るだろう、こんな役苦労するだろうみたいな。それで、苦労しているのを見たいみたいな。僕そんなに困らせたがらせる存在なんですかね?」と笑いながら、村井氏への“おかえし”とばかりに次のような秘話を公開した。

 「村井さんの変なところは、仕掛けたいんだけど、料理を知らない(※村井氏は料理をしていないことを書籍内でも公言)から、それがミスなのか、困ることなのかがジャッジできないっていう(笑)。何を、この人はニヤニヤしているんだろうっていう瞬間もけっこうありました。タカハシ先生と共謀して、仕掛けをやっている時もあって『なんだ、そのタッグマッチは?』っていうこともありました(笑)」

 村井氏とのかけあいからも伝わってくるが、書籍を読んでいると、多忙な中にあっても、中村が本当に楽しそうに料理に臨んでいるように感じられる。中村本人は、どう感じていたのだろう。「料理して、喋って、食べて、おいしいって言いながら、タイトルをつけて、写真撮ったら『お疲れ様でした!』ってなるのは、シンプルに楽しい仕事でした。この雑炊っていう縛りの中で、みんなが工夫しているのがわかるので、それを見つけると、ものづくりをするものとして、チームとしてすごく豊かな気持ちにもなりました。有意義な時間でしたね。趣味みたいなことじゃないですか。ある人は『ミスしないかな?』とか言って、料理している様子を眺めたり(笑)。これをちゃんとこうやって1冊にまとめて、仕事にしてるっていうのがプロを感じますし、なんかいろんな意味で後ろ向きなものが何もないのだと思います」。

■“穏やかに生きる”ことの大切さ 「気づく人」中村倫也は先を行く「100面相を持って…」

 書籍の中では「気づかない人になりたい」ということを語っているが、鈍感ゆえの突破力を持つ人への憧れもあるという。「本当に目の前の一点しか見えてない人とかいるじゃないですか?それもそれで問題ですけど、すごくうらやましい気持ちはあるんです。槍のような人と言うんでしょうか、そういう方は突破力がすごくありますよね。僕は、それで言うといろんな種類の武器をそろえちゃうタイプなんで。憧れはあります」。まさに激動ともいえる日々だが、中村は「簡単にいえば、穏やかに生きています」と打ち明ける。

 「感覚なんですけど、いろんな情報が入ってきたりとか得たりとかしている時、港にいる漁師の気持ちになって『きょう波高ぇな、すげぇなぁ』みたいな感じはあるんですよ。そういう時ほど穏やかにいたいなって思います。入ってくる情報で、多少なりとも影響を受けるじゃないですか。考えることが増えたりとか、不安になることもあったりとか。そういう時こそ、意図的に平坦な感覚を作れるようにしておくみたいな。多分そういうのをやっちゃうタイプなんです。今年も本当にいろんなことが起こっていますが、考える適切な角度で考えるべきことを考えて、あとはいつも通りっていうのを生きるようにしています」

 インタビューから1ヶ月後、書籍の出版記念イベントが行われ、そこに足を運んだ。この日の進行は、担当編集の村井氏が務めた。観客から拍手で迎えられた中村は、村井氏を紹介しながら「(ともに)やりとりしながら作ってきたものを『初めて聞く』『初めて聞かれる』がごとく、質疑応答していきます」と呼びかけ、会場の雰囲気を温めた。今後の「やんごとなき」シリーズについては「雑炊の本が出て。さっき思いつきました。雑草!」と明かすなど、大いに盛り上がったが、終盤「ちょっといい話していいですか?」と切り出した。

 「この間、河津桜を見に行ったんですよ。花見する時にこだわりがあって。桜が咲いている(一方で、足元では)たんぽぽが咲いている率が高くて、それを見つけて愛でるみたいなことをやっているんです。花見の席では桜がメインで、たんぽぽは気づかれない(存在なので)、僕はこっちに気づいてあげられる僕でいたいっていう…自己満足ですが、そういう気持ちがあります。僕がこっち(たんぽぽ側)だったから…っていうこともあると思うんです。(駆け出しの頃などに)現場であいさつされてうれしかったとか」

 中村の人柄や考え方を感じるエピソードだが、ここで再びインタビュー時に時計の針を戻す。今年の目標を聞いてみると「僕、課題があるんですよ。『人のメンツを潰さない』です」と笑顔で教えてくれた。さて、その真意はどこにあるのだろうか。「人がたくさん関わっていると、通るべきセクションも多かったり、通すべき筋も折れ曲がったり、早い話ができなかったりするじゃないですか?そういう時に一番偉い人に話を通して、そこからズバッとトップダウンしちゃうんですよ。多分せっかちなんですが『その方が早いし、みんなもいいでしょう?』と思っちゃうんです。でもそうすると、間に入ってる人とか、どういう場でその話を通すかとか、伝え方にって、なんかこうメンツを潰すことが多分あったんですよね」。

 「年齢的に挟まれている(世代で)もう1個自分が有能になるには、そこのかいくぐりをうまいことできたら、もっと腕磨いたって思えるんじゃないかな。そうすると、みんなもハッピーだし、悪い気しないじゃないですか?そこの100面相を持っていこうが、僕の今年の課題です(笑)。考えることはそっちなんですよ。今年の課題は『人のメンツを立てる‘24』にします(笑)」。今いるところから、もう一歩先へ…。そう思う時、人はもっと人にやさしくなれるし、人生が豊かになるのだと、中村の言葉から感じた。
    ニュース設定