携帯電話ショップが“にぎわっているのに”閉店? 「売れない」以外の構造的な理由

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2024年03月29日 19:11  ITmedia Mobile

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特にキャリアショップの場合、客入りが良くても突然閉店することがある。一体なぜなのか……?(写真はイメージです)

 前回、筆者の自宅近くの携帯電話ショップ(コーナー)が閉店したことについて、そのショップに勤めていた販売スタッフから話を聞いた。


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 この記事への反応として、「最近は携帯電話に関わる手続きの多くをWeb(インターネット)や電話でできるようになったからでは?」という指摘があった。それは事実の1つで、昨今は端末の購入を含めてWebや電話でできる手続きが増えた。料金プランも比較的シンプルになったこともあり、携帯電話ショップや家電量販店に出向く機会が減ったという人も少なくないだろう。


 しかし、数こそ少なくなったが店舗(特にキャリアショップ)でないとできない手続きも残っている。また、プランがシンプル化した反面、購入プログラムが煩雑になったため、「しっかりと説明を聞いて契約(購入)をしたい」というニーズも根強い。


 そういう時に「いざショップへ」と店舗に出向いてみたところ、ショップがいつの間にか閉店していた――最近、そんな話をよく聞く。この現象は大手キャリアの代理店(※1)となるキャリアショップで顕著で、手続きのできるショップが徒歩圏からなくなり、鉄道やバス(あるいは自家用車)で移動しなければたどり着けなくなるなんていうケースもある。


 家電量販店や併売店(複数キャリアを取り扱う代理店)における店舗(コーナー)の縮小や閉鎖は、比較的シンプルに「端末(回線)売れなくなった」という理由が大きい。しかしキャリアショップの場合、客入りのいい「にぎわっている店舗」でも閉店に至ることが珍しくない。


 なぜ、にぎわっている店舗まで閉店してしまうのか――今回の「元ベテラン店員が教える『そこんとこ』」では、その背景について解説したい。


(※1)数は少ないが、NTTドコモ以外にはキャリアが直営するキャリアショップもある。ドコモも子会社を通してドコモショップを運営しているが、あくまでも「代理店の1つ」という扱いで、特別な要素は一切ない


●筆者の自宅近隣にある“大型”キャリアショップも突然閉店


 携帯電話に関わる仕事をしていると、「市場調査」と称して他のショップに出向いて携帯電話を購入(契約)したり、プラン変更などの手続きをしてみたりすることが多くなる。自分が店舗勤務のスタッフだったとしても、である。


 販売現場を離れ、キャリアやメーカーが行う発表会を取材して記事を書く立場となった筆者だが、「販売の最前線は店舗である」という考えは変わらない。ゆえに、今でも定期的に複数の携帯電話販売店に足を伸ばし、情報を収集するようにしている(だからこそ、店員にインタビューできるのだが)。


幸い、筆者の自宅周辺にはキャリアショップや家電量販店が多く出店しているので、時間をあまり掛けずに情報収集を行えた……のだが、最近ちょっとした(考えようによってはちょっとどころでない)異変があった。


 スーパーマーケットにテナントとして出店していた併売店が閉店したことは前回の記事で触れたが、それ以外にも客入りの良かったキャリアショップ(店舗A)が突然閉店したり、別のキャリアショップ(店舗B)で「代理店が変わるので、一部の手続きを行えない」状態になったりしたのだ。


 店舗Aは交通量の多いバイパスに面していて、店舗面積は広く、カウンター(窓口)数も多かった。いつも混雑しているのだが、カウンターが多いので待たされることはほとんどない。良く売れている店舗という印象だったが、それでも突然閉店してしまった。


 一方、店舗Bは店舗Aと比べると大きくはないものの、客入りは良好で、常に店内に客がいる状況だった。昨今の携帯電話市場を考えると、十分ににぎわっている店舗だ。しかし、旧代理店が店舗運営を諦めて、別の代理店に経営権を譲渡することになってしまった。


 また、前回の記事でも触れた通り、家電量販店の携帯電話コーナーやショッピングモール内にテナント出店している携帯電話ショップが縮小/撤退しているケースもある。こちらも、一見するとにぎわっていたのに……という事例も珍しくない。


 郊外の家電量販店では、キャリアショップで行える手続きの一部(料金の支払い、住所変更、プラン変更、故障修理受け付け)を代行する窓口を見かけることもあったが、いつの間にかその窓口がなくなり、代わりにSIMロックフリースマホやスマホアクセサリーの売り場に転換されていた、なんてこともある。


 暇そうに見えない、むしろ客で賑わっている店がなくなったり、地域唯一の携帯電話ショップがなくなってしまう――そんなことはなぜ起こるのだろうか。


●客入りのよい携帯電話ショップが閉店する理由は?


 携帯電話ショップが閉店する一番の理由は「売れないから」だ。携帯電話(端末/回線)を販売したり、契約を獲得したり、さらにオプションサービスなどを獲得したりすると、ショップにはインセンティブ(販売奨励金)が支払われる。これが一番の収益源なので、とにかく携帯電話が売れてくれないと、もうける“きっかけ”すらない状況にある。


 前回も述べた通り、電気通信事業法と同法のガイドラインによって、端末を安価に販売できるキャンペーンを打ち出しづらくなった。そこに端末価格の高騰などが相まって、携帯電話はある意味で“売りづらい商材”となっている。


 とても悲しいことだが、「売れないから閉店」は納得の結果ともいえる。


 しかし、先に筆者が挙げた2つのキャリアショップのように、“客入りが良い”店舗が突然閉店したり、他の代理店に経営譲渡されたりすることもある。一体なぜなのか――そこには「屋号」と「ボリューム(スケール)」という考え方が絡んでくる。


 端末や回線の販売に伴うインセンティブや、各種手続きの受け付けを代行することによって得られる「販売手数料」は、当該店舗……ではなく、店舗を運営する代理店にまとめて支払われる。


 ある「代理店A」が運営する特定の1店舗が、あるキャリアにおける販売量で日本一となれば、「店舗単位の評価」では最大評価となる。そのため、運営元の代理店Aには高額のインセンティブが支払われる……のだが、他の店舗での販売数が少なければ「販売代理店としての評価」は下がってしまう。


 逆に、店舗単位での販売量では上位をなかなか取れない「代理店B」は、各店の「店舗単位の評価」では奮わない。しかし、同社が運営する店舗での販売数を足し合わせると日本一となれば、「販売代理店としての評価」は確実に高い。


 実は、キャリアから支払われるインセンティブには、店舗単位で計算される部分に加えて代理店(企業)単位で計算される部分もある。キャリアによって若干の差はあるものの、基本的には代理店単位で計算される比率の方が大きい。販売量に差がない前提に立つと、「1店舗で極端に稼ぐ代理店A」よりも「複数店舗で確実に稼ぐ代理店B」の方がインセンティブを多く得られる可能性が高い。


 ここまで来れば、「にぎわっているのに突然閉店するショップ」あるいは「他の代理店に運営権を譲渡されるショップ」が出てくる理由が見えてくる。単体店舗では高い評価を受けられても、他店舗が足を引っ張ってしまい、代理店全体では厳しい経営状況に陥ってしまうケースがあるのだ。


 「だったら、にぎわっている(≒もうかっている)店舗を残すべきでは?」と思うかもしれない。一見すると、それは正しい判断のように思える。しかし、携帯電話ショップの場合、にぎわっている店舗の方をあえて閉鎖(または営業譲渡)した方が経営面でプラスになることもある。これも「屋号」と「ボリューム」という考え方が関わってくる。


 昨今、いろんな業界で人材不足が叫ばれているが、それは携帯電話ショップも例外ではない。にぎわっている店舗では、にぎわっている分だけ人員を多く確保しなければならない。そこで、閑散としている(≒売り上げの少ない)店舗を閉鎖し、人員と売り上げを繁忙店舗に“集中”させる――確かに、理屈は通る。足を引っ張る店舗もなくなり、万々歳だ。


 しかし、そうすると屋号全体、言い換えると代理店全体で販売数のボリュームを確保するのが難しくなってしまう。先述の通り、キャリアのインセンティブ評価は、店舗単位よりも代理店単位の方が比重が大きい。ゆえに、特定の店舗でボリュームを稼ぐよりも複数の店舗で極力均等にボリュームを稼いだ方が、売り上げ(収入)を改善しやすいのだ。


 パッと見では全く別業種に見えるかもしれないが、フランチャイズ形式の店舗を主体とする飲食チェーン店は、携帯電話ショップと収益構造面で似た面がある。


 チェーン店は、いわゆる「スケールメリット」で店舗数が多ければ多いほど、仕入れ単価を抑えやすい。逆に、店舗が減ってしまうと、スケールメリットを生かしきれなくなり、仕入れ単価は上がってしまう。経営者としては「売り上げを確保するために販売価格に転嫁(≒値上げ)をする」か、「売り上げの減少を甘受する」かの選択を迫られるが、どちらも厳しい選択であることに代わりはない。


 携帯電話ショップの話に戻るが、以前の連載でも触れた通り、店舗の運営費用は基本的にキャリアから支払われる販売手数料とインセンティブで賄われる。インセンティブは店舗単体だけでなく、代理店全体(自店+同じ代理店の他店舗の評価)で算定される部分もある。


 手持ちの店舗で得られる販売手数料とインセンティブだけでは、運営費用を賄いきれず、利益も出せない――そうなると、客入りのよい店舗をあえて“手放して”、残った店舗や他事業にリソースを割いた方が、経営面でのダメージを抑えられるという判断もあり得るのだ。


 店舗を譲受する代理店としては、受け継ぐ店舗がにぎわっているなら、販売ボリュームをより増やすチャンスとなる。ある意味で「おいしい話」なのだが、受け継いだ代理店内で近隣店舗の統廃合が行われる可能性もあり、結果的に店舗がさらに減ってしまう可能性もある。


 これが、にぎわっている携帯電話ショップ(特にキャリアショップ)が閉店に追い込まれる背景なのだ。


●減っていくショップ しかしインフラとして欠かせない


 前回と今回の連載を通して、携帯電話ショップにとってキャリアから得られるインセンティブが超重要な“命綱”となっている様子が見て取れたと思う。インセンティブを得るにはとにかく販売数を稼がなければならず、それがショップの持続可能性にマイナスの影響を与えてしまっている面は否定できない。


 一方で、キャリアショップであれ、家電量販店であれ、併売店であれ、携帯電話ショップは携帯電話の「相談窓口」としても機能している。少し大げさかもしれないが、ある種の社会インフラであるともいえる。広い層にICTを普及させる観点では、非常に重要な拠点といえる。


 現状のインセンティブ制度は“販売一辺倒”なので、売れなければショップの存廃に関わってしまう。社会インフラとして携帯電話ショップを残すには、販売に偏重した評価制度は再考する必要がある。


 それと並行して、販売代理店が地方の小規模店舗を手放す場合、経営体力に余裕のある大規模な代理店が引き取り、引き続き運営できる仕組みが定着すればいいとも思う。ある意味で「CSR(企業の社会的責任)」を果たすことにもなるので、企業イメージの向上につながる。


 大手キャリアも、店舗に出向かなくても必要な手続きを進められるように、Web(インターネット)や電話窓口を拡充している。「だからショップはもういらない」という人もいる。しかし、全ての人がWebや電話を使いこなせるわけでない。


 インフラといえども、携帯電話サービスや携帯電話ショップは「慈善事業」ではない。経済の原理である程度閉店してしまうことは仕方ない。


 しかし、地域の中で客入りの良い、にぎわっている携帯電話ショップは「回りに頼れる場所がないからにぎわっている」という見方もできるので、地域に根ざした店舗を存続できるような仕組みの整備も重要だと筆者は考える。


このニュースに関するつぶやき

  • 大昔はマンションの一室で開業してるあやしい携帯屋いっぱいあったよねw 普及し始めは携帯ショップはすんごい儲かったんですよ。今は…もうね。
    • イイネ!22
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