長澤まさみ×坂口健太郎×藤井道人監督、Netflix映画『パレード』何度も繰り返し見たくなる理由

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2024年03月30日 08:30  ORICON NEWS

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Netflix映画『パレード』主演の長澤まさみ(中央)、坂口健太郎(左)、藤井道人監督(右)(撮影:松尾夏樹) (C)ORICON NewS inc.
 旅立ってしまった人目線で、遺された人への想いを描いた映画『パレード』が動画配信サービス「Netflix」で配信中だ。

【動画】映画『パレード』感想ドキュメンタリー

 本作は、企画の発起人だったスターサンズの河村光庸氏が2022年6月に急逝し、とん挫してしまった企画を藤井道人監督が引き継ぎ、再構築。大切な人を亡くした喪失感や万人に訪れる“死”というものにそっと寄り添ってくれるような、優しい映画になった。

 物語は、瓦礫が打ち上げられた海辺で美奈子(長澤まさみ)が目を覚ますところから始まる。一人息子・良と離ればなれになってしまったことに気づいた彼女は、息子を捜し回っている道中で青年・アキラ(坂口健太郎)と出会う。そして、自分が死んでしまったこと、未練を残してこの世を去ったため、まだ“その先”に行けずにいる、と教えられる。アキラやその仲間たちもまた、さまざまな理由からこの世界にとどまっていた。美奈子は良の手がかりを探し求めながら、その過程でおのおのの心に触れていく。

 長澤・坂口のほかに、藤井組の常連である横浜流星が元ヤクザの勝利役。Netflixシリーズ『新聞記者』ほか藤井監督の信頼も厚い寺島しのぶと田中哲司が、元スナックのママ・かおり役と元銀行員の田中役。そして、河村さんの面影やエピソードが注入された映画プロデューサーのマイケル役にリリー・フランキー。中盤からは、生に絶望した女子高生・ナナ役で森七菜、『ヤクザと家族 The Family』に出演した舘ひろしも物語の鍵を握る人物として登場する。

――何回でも繰り返し視聴したくなる本作の魅力とは?

【長澤】美奈子が出会う“死者たち”それぞれにエピソードがある群像劇でもあるので、一度見ただけでは見逃していることがきっとあると思います。各キャラクターにフォーカスしながら見ていただくと、そのたびに気づくことがあるというか…。

【坂口】見る時の環境や精神状態で共感できるキャラクターも変わってくる作品だと思います。

【藤井】今作には、河村プロデューサーが手がけた作品のオマージュがたくさん入っています。勝利がグラスで飲んでいた焼酎は、『ヴィレッジ』の霞門村(かもんむら)の焼酎だったり、マイケルの部屋に飾られていたトロフィーは、河村さんが賞を取った時のトロフィーだったり。ナンバー1つをとっても、全部に意味があります。2回目以降は、気になるところで一時停止して、画面の隅々までじっくり見ていただくのもいいと思います。

――長澤さんは、冒頭から冬の早朝の海で横たわる身体的にハードなシーンや、「自分は死んだ」と知ったショックで過呼吸気味になる難易度の高いシーンがありました。死を自覚し、絶望し、その運命を受け入れ、やがて周囲や遺された人々をも包み込む慈愛を発揮していく美奈子をどのように演じましたか?

【長澤】美奈子は現実世界のままの意識で“死者たち”の世界に来てしまって、自分が死んだことを知らされても受け入れることができず、最初は混乱しているんですよね。複雑な思いを持つ立場にいたのですが、美奈子がいつの間にか“死者たち”の世界に溶け込んでいるように演じられたら、『パレード』の世界観が必然的に備わっていくのではないか、という思いが途中から芽生えてきて、それから演じやすくなっていきました。

――長澤さんは藤井組、初参加ですね。

【長澤】『キングダム』(20年)という作品で日本アカデミー賞(最優秀助演女優賞)をいただいた時に、『新聞記者』で最優秀作品賞を受賞された藤井監督も授賞式にいらしていて、そこで河村さんに藤井監督を紹介していただきました。

【藤井】じつは長澤さんとは同じ中学校の出身で、僕の方が一学年上なんです。いつか長澤さんと映画の仕事をしたい、というのを一つの目標にしてきました。それを河村プロデューサーがかなえてくれようとして、長澤さんに声をかけてくださっていたんですけど、彼が急逝してしまって。この企画もなくなってしまうかもしれない、ってなった時に、河村さんが作りかけていた作品はしっかり完成させたいと思いました。部屋に3日こもって書き上げた脚本が、『パレード』の初稿。長澤さんと仕事できるのは一生に一度かもしれないから、自分が長澤さんに演じてもらいたい美奈子を書きました。河村さんがオファーしていた内容とはだいぶ違う脚本が届いて、長澤さんは驚かれたかもしれないです。

【長澤】そうですね(笑)。河村さんが「藤井監督と一緒にやろうと思っている企画があるんだ」と、楽しそうに話していた姿が目に焼き付いています。「藤井監督はね、もしかしたらミュージカルを考えているかもしれないよ」っておっしゃっていたんですよ(笑)。本当にワクワクしながら作品づくりに取り組んでいた方でした。私も純粋に作品づくりを楽しむ気持ちを忘れちゃダメだな、って。そんな思いを抱きながら撮影に臨んでいました。

 藤井監督に対しては、『ディアンドナイト』(19年)の世界観、登場人物たちのエモーショナルで美しい姿の印象があったので、とてもロマンチストで物静かな方なのかな、と思っていたのですが、現場の藤井監督は思っていた以上に熱い方でした。この作品に対する思い、映画づくりにかける思いが熱くて、その鮮度をずっと維持されていて、伸びしろを常に探そうとしている気迫に圧倒されました。監督を信じて、私も向き合いたいという気持ちになりました。

【藤井】こちらこそ、です。僕は、映画は監督が全部の責任を負うべきだと思ってるし、失敗したら監督のせいだし、観客の人たちに絶対損はさせたくない、という思いで生きているんですけど、現場で雑談していた時に、長澤さんも主演として、全く同じ気持ちで作品と向き合ってくださっていることを知り、さらに尊敬の念が深まりました。一生に一度ではなく、自分がもっと成長して、また、いつかご一緒したい、と思いました。

――坂口さんは『余命10年』に続き、藤井監督とは2度目のタッグ。

【坂口】長澤さんがおっしゃったとおり、僕も『余命10年』で初めてご一緒した時に、いつもニコニコしていて穏やかそうに見えるけど、心の奥では作品作りに対する情熱がグツグツとマグマのように煮えたぎっている方だな、と思いました。その熱さは、今回も変わらなかったです。

――美奈子と行動を共にする“死者たち”の一人、アキラのキャラクターは、藤井監督と坂口さんが脚本段階からディスカッションを重ねてつくりあげたそうですね。

【坂口】僕はお芝居する時、素の自分が出てしまってもいいと思っているんです。そこに僕が演じることに意味があるのかな、って。そんなスタンスでいつも役に対して向き合っているのですが、今作のアキラは、自分のようでもあり、藤井監督のようでもあり、藤井監督と僕の共通の知人のようでもある、そんなキャラクターになったように思います。

 河村さんにお会いしたことはなかったのですが、藤井監督をはじめ、皆さんの気持ちで一つの作品が生み出されていくことに心が揺さぶられましたし、この作品のような“死者たち”の世界があってくれたらいいな、と思えたことがアキラを演じるモチベーションになっていました。

■長澤まさみ、生きることに貪欲な自分に気づかされた

――本作の情報解禁時、出演者の豪華さでも話題になりました。キャスティングは狙いどおりだったのですか?

【藤井】はい。河村さんが手がけた作品に縁のある俳優たちがある種、祝祭のように集まってくれて、これ以上ないキャスティングがかないました。脚本もほぼ当て書きだったのですが、キャストの皆さん一人ひとりが、キャラクターに説得力を与えてくださった。さらに皆さんが集まった時に生まれるグルーブ感は僕の想像を超えるものでした。

――死者たちの世界を描いたストーリーは、写し鏡のように生きる素晴らしさを感じさせてくれますね。

【長澤】「人はいつか必ず死ぬ、それは抗いようのないことだ」とわかっているつもりだったのですが、美奈子を演じて、意外と私、生きることに貪欲だ、って気づかされました。やりたいことがたくさんあるな、生きているうちにやっておかなくちゃ、という気力、活力が湧いてくる作品になりましたね。

【坂口】久しぶりに母親とご飯を食べたり、友達と会ったりしている時に、不意に泣けてくることがあるんですよ。いいな、この時間、大事にしたいなって。そういう時に、生きる素晴らしさを感じているんだろうな、と思うのですが、そういうのと似ている感じがします。

 大切な人との別れがいつ訪れるかわからないから、1日、1日を大切に生きようって思っても、その気持ちをずっと持ち続けて生きているかと言われると、目の前のことでいっぱいいっぱいになってしまうことも多い。だからこそ、この作品のような映画やドラマなどに触れて、ちょっと、最近、怠惰な生活を送っていたな、ちゃんと生きよう、って気づかせてもうのって、すごく大事だと思うんですよね。

【藤井】死後の世界が地獄だったらいやだな、と個人的に思っていて、旅立った後はつらいこともなく、幸せでいられると信じたい。特にこの脚本を書いていた時はそう信じることが、僕自身にとって必要だったんだろうな、と思います。

――クライマックスに用意された映画館のシーンには、綾野剛さんや奥平大兼さんをはじめ、河村さんにゆかりある人たちがカメオ出演されていますね。

【坂口】長澤さんは、わかりましたか?

【長澤】わかりました。

【坂口】僕、初見で剛さんがわからなかったんですよ。それでちょっと巻き戻して見たら剛さんが座ってました(笑)。

【長澤】何かの役に扮しているのかと思ったら、綾野さんご自身でしたね。

【藤井】撮影で使わせていただいた、東京・渋谷のユーロスペースは、僕が自主映画を撮っていた頃からお世話になっていた劇場だったので、それも感慨深かったです。劇場の営業終了後、深夜から明け方にかけての撮影でしたが、ゆかりのある方たちが集まってくださって、同窓会のような温かい時間が流れていました。
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