アカデミー賞国際長編映画賞ノミネート『ありふれた教室』日本版予告・場面写真公開 白石和彌、小島秀夫らの絶賛コメントも

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2024年04月02日 19:11  クランクイン!

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映画『ありふれた教室』本ビジュアル (C)if… Productions/ZDF/arte MMXXII
 第96回アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされたドイツの新鋭イルケル・チャタク監督最新作『ありふれた教室』(5月17日公開)より、日本版予告編、本ビジュアル、場面写真が解禁。併せて、映画監督の白石和彌ら著名人が本作に寄せたコメントも到着した。

【動画】すべてのはじまりは、生徒を守るためだった―映画『ありふれた教室』予告編

 “学園もの”の映画について誰もが連想するのは、教師と生徒の心温まる交流を綴った感動作、少年少女の友情や成長を描いた青春ドラマなどだろう。ドイツから新たに届いた本作は、まさしく現代の中学校を舞台にした学園ものだが、このジャンルのポジティブなイメージを根こそぎ覆す破格の問題作だ。ある新任女性教師の視点で進行する物語は、校内で発生した小さな事件が予想もつかない方向へと激しくうねり、わずか数日間で学校の秩序が崩壊してしまう異常な事態へと突き進んでいく…。

 仕事熱心で正義感の強い若手教師のカーラは、新たに赴任した中学校で1年生のクラスを受け持ち、同僚や生徒の信頼を獲得しつつあった。そんなある日、校内で相次ぐ盗難事件の犯人として教え子が疑われる。校長らの強引な調査に反発したカーラは、独自の犯人捜しを開始。するとカーラが職員室に仕掛けた隠し撮りの動画には、ある人物が盗みを働く瞬間が記録されていた。

 やがて盗難事件をめぐるカーラや学校側の対応は噂となって広まり、保護者の猛烈な批判、生徒の反乱、同僚教師との対立を招いてしまう。カーラは、後戻りできない孤立無援の窮地に陥っていくのだった…。

 本作は、第73回ベルリン国際映画祭パノラマ部門でワールドプレミアされダブル受賞を果たしたのを皮切りに、ドイツ映画賞最多5部門(作品賞、監督賞、脚本賞、主演女優賞、編集賞)の受賞を達成。米辛口映画レビューサイト「ロッテン・トマト」では、96%FRESHという高得点を獲得した。さらに、世界の映画祭を席巻し、本年度の第96回アカデミー賞国際長編映画賞ノミネートを果たした。

 これが長編4作目となるドイツの新鋭イルケル・チャタクは、教育分野で働くさまざまな人々へのリサーチを行い、自らの子供時代の実体験も織り交ぜてオリジナル脚本を執筆した。誰にとっても馴染み深い学校という場所を“現代社会の縮図”に見立て、正義や真実の曖昧さをサスペンスフルに描ききったその試みは、ミヒャエル・ハネケやアスガー・ファルハディといった名匠の作風を彷彿とさせる。

 主演のレオニー・ベネシュは、ハネケ監督の代表作『白いリボン』で注目され、『THE SWARM/ザ・スウォーム』『80日間世界一周』などのテレビシリーズで活躍する実力派女優。次々と重大な選択や決断を迫られるカーラの葛藤を生々しく体現した本作でドイツ映画賞主演女優賞の受賞を果たし、ヨーロッパ映画賞女優賞にもノミネートされた。

 本作が追求した多様なテーマは、教員のなり手不足や過酷な長時間労働、モンスター・ペアレンツなどの問題がしばしば報じられる日本社会とも無縁ではない。教育現場のリアルな現実に根ざし、世界中の学校やあらゆるコミュニティーでいつ暴発しても不思議ではない“今そこにある脅威”を見事にあぶり出す。

 日本版予告編は、カーラが次第に窮地に追い込まれていく様子が、ただならぬ緊張感を漂わせながら描かれるもの。彼女は、盗難が相次ぐ校内で生徒を守るために職員室で隠し撮りを仕掛ける。しかしそれをきっかけに生徒の反乱や同僚教師との対立が起こり、保護者からも猛烈な批判を浴びることに。ついには目にアザをつけた様子も垣間見えるなど、彼女が追い詰められていく姿が映し出され、最後は「これは、不寛容(ゼロ・トレランス)な現代を生きる<わたしたちの物語>」というキーフレーズで幕を閉じる。

 本ビジュアルは、若手教師カーラが意味深な眼差しで真っすぐ前を見つめる姿をとらえたもの。横には「先生(わたし)、おかしい?」というキャッチコピーが添えられている。一体何がおかしいのか? 学校に潜む“光”と“闇”とは。果たしてカーラはどうなってしまうのか。謎めいた不気味さが漂うビジュアルとなっている。

 場面写真は、教室で叫ぶカーラほか登場人物たちが張り詰めた空気を漂わせる姿が切り取られている。

 また今回、本作を一足先に鑑賞した著名人よりコメントが到着。映画監督の白石和彌は「感じたことのない凄まじい余韻。今年の間違いなく必見の一作だ」と絶賛。ドイツ文学翻訳家の池田香代子は「とほうに暮れて見回すと、あの教室と相似の社会が私たちを取り巻いている。こんなミステリーがあったのか!」と、映画の中で描かれる教室と我々が生きる現代社会の相似性を指摘。そのほか、小島秀夫、森達也、瀬々敬久らからも賞賛のコメントが届いている。観る者の倫理観が試される驚がくのラストを、是非スクリーンで確かめたい。

 映画『ありふれた教室』は、5月17日より全国公開。

※著名人コメント全文は以下の通り。

<著名人からのコメント>

■白石和彌(映画監督)

恐ろしい。目まぐるしく起こる出来事の連鎖に翻弄され、見ているこちらもすり減っていく。教育現場での地獄めぐりを体感させられ、絶対に教師にはなりたくないと誓いたくなる。しかし、本当に恐ろしいのはラスト数分、いや数秒で全てがひっくり返る瞬間だ。感じたことのない凄まじい余韻。今年の間違いなく必見の一作だ。

■小島秀夫(ゲームクリエイター)

こんなにも息苦しくなる映画はない。最後の最後まで、これでもかと胸や胃を締めつけられ、ラストでは絶望の淵に落とされる。些細な事から、ありふれた学校が憎しみの場所へ、制御の効かない無法地帯へと変貌する。この何処にでもある“教室の崩壊”の経緯を目撃してしまうと、「現実世界からもはや紛争や争いは未来永劫になくならないのでは?」と結論づけざるをえない。鑑賞後の後味の悪さは、“ありふれた映画”のものではない。ご注意を。

■森達也(映画監督/作家)

あまりにも凝縮された99分。最後まで目を離せない。音楽の使いかた、言葉の一つひとつ、教室と職員室を行き来するカメラワーク、子供たちのちょっとした仕草、映画を構成するすべての要素が、ありえないほどの完成度に達している。

■池田香代子(ドイツ文学翻訳家)

些細なミスの重なりが、収拾不能の事態を招く。いったいどうすればよかったのか。とほうに暮れて見回すと、あの教室と相似の社会が私たちを取り巻いている。こんなミステリーがあったのか!

■瀬々敬久(映画監督)

学校だけで民族差別や貧困格差と監視社会の危機を描き切っている。冷徹に見守りながら至るラストの衝撃。決して問題は解決してない。だが、少しだけ前へ進んだのだろうか。自分たち世界の向き合い方が示された気がした。
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