「M3 MacBook Air」は衝撃的なファンレスモバイル Windowsの世界よりも2歩先を進んでいる

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2024年04月05日 17:51  ITmedia PC USER

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M3を搭載した最新の13インチMacBook Airはファンレス仕様であることも魅力の1つ。その実力を検証した

 M3チップを搭載した新しいMacBook Airが登場した。ラインアップは13インチ(13.6型)、15インチ(15.3型)の2つだが、今回は携帯性に優れた13インチモデルを試す。筆者がMacをテストするのは3年ぶりだが、3世代目となるApple Siliconの進化や実力が気になるところだ。早速レビューしよう。


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●薄さが際立つスタイルに感心


 ボディー回りのデザインはM2 MacBook Airを継承している。薄さが際立つスタイル、表面仕上げの美しさは、さすがはAppleのMacといったところ。近年はMacを意識してビジュアルに力を入れたノートPCが増えてきているが、今もその存在感は抜群だ。


 素材は再生アルミニウムで、マグネットや基板のハンダも含めたシステム全体の再生素材の割合は50%と、先代よりも10%ほど増えている。


●35WのACアダプターが示唆する段違いの電力効率


 標準で付属するACアダプターの出力仕様は35W(8コアモデルは30W)だ。IntelやAMDの主力CPUを搭載したWindowsのノートPCでは最低でも45W、同等性能となると、最低でも90Wクラスになるので、ちょっとした衝撃だ。


 サイズも小さく、重量も約162gしかない。なお、本体の充電端子はMagSafe 3で、接点となるマグネットは絶妙で心地よい強度に調整されている。


 バッテリー容量は公称値が52.6Whとなっている。ただ、システム情報表示ツールで確認すると約60Wh(4560mAh)だった。公称のバッテリー駆動時間については、約18時間の動画再生(Apple TVムービー)、約15時間のワイヤレスインターネットアクセスが可能という記述がある。


 今回は、画面の輝度50%にして、Wi-Fi 6経由でインターネットに常時接続、Bluetoothマウスも接続した環境でYouTubeの動画を再生し続けたところ、6時間経過後のバッテリー残量は65%を示していた。このまま同じペースでいくと残り5%まで16時間動作できることになる。公称値を裏付ける結果だ。


●TSMC 3nm採用のApple M3をファンレス運用


 前述した通り、システムの中核となるSoC(System On Chip)はApple M3チップを搭載する。M3チップでは、ハードウェアレイトレーシングアクセラレーターの統合やAV1のハードウェアデコードに対応するなど、GPUコアの強化が目立つが、CPUコアやNeural Engineも先代から順当に高速化されている。


 このM3チップを搭載したMacBook Airは、先代機同様にファンレス設計だ。ボディーサイズは約30.41(幅)×21.5(奥行き)×1.13(厚さ)cm、重さは約1.24kgで、この薄っぺらいボディーにこれだけのリッチなプロセッサを搭載しながらファンレスであるというのは、Windows PCの常識では考えられないことだが、それだけ電力効率が高いのだろう。


 M3チップではプロセス技術がTSMCの5nmから3nmに進化しており、ファンレスだけに高負荷時のパフォーマンスの持続性やボディーの発熱などに良い影響がありそうだ。


●Wi-Fi 6Eに対応、2画面同時出力が可能


 通信機能はWi-Fi 6E対応の無線LANと、Bluetooth 5.3を標準装備する。本体にある端子は最小限だ。2基あるUSB Type-Cは、どちらもUSB4(40Gbps)、Thunderbolt 3(40Gbps)、画面出力(DisplayPort)、本体の充電にも対応している。


 今世代からはカバーを閉じた状態(つまり内蔵の画面を使わない)では2画面の同時出力もできるようになった。


 自宅やオフィスなどでは本体は閉じて2画面の大きな外付けディスプレイで使いたいという需要はそれなりにあると思われるので、地味に大きな要素といえる。


 キーボードのキーピッチは横が約19mm、縦が約18.5mmとなっている。ストロークは浅いがキーキャップに微妙なカーブがついており、タイピングの感触は悪くない。電源ボタンにTouch ID(指紋センサー)が一体化されており、そっと触れるだけでログインできる。


●明るく精細な13.6型の液晶ディスプレイ


 画面は13.6型の液晶ディスプレイで、表示解像度は2560×1664ピクセルだ。きっちり16:10ではなく、少し変則的なアスペクト比となっている。ピクセル密度は224ppi、Appleが「Liquid Retinaディスプレイ」と呼ぶように高精細な表示だ。


 視野角の広いIPSパネルを採用しており、最大輝度は500ニト、10億色表示とDisplay P3相当の色域に対応する高い色再現性を備える。表面が光沢仕様なので鮮やかな一方、照明などの映り込みはしやすい。


 スピーカーはクアッド仕様で、薄型のわりには低音が効いた厚みのあるサウンドになっており、音楽や動画などのコンテンツも快適に楽しめる。


●ファンレスと高パフォーマンスを両立


 ベンチマークテストの結果を確認してみよう。比較対象として2021年に購入したWindows OSのゲーミングノートPCのスコアも掲載した。


 「CINEBENCH R23」(最低実行時間10分)と「CINEBENCH 2024」(最低実行時間10分)だが、どちらも本製品は比較対象に勝っているが、2024の方が差が大きい。


 これはおそらく、ブースト機能のリミッターが関係していると思われる。CINEBENCHはどちらもデフォルト設定(最低実行時間10分)で実行しているが、R23では10分経過するまでレンダリング処理をループし、最後に出たスコアが公式スコアになるのに対し、2024ではこのクラスのPCでは10分以内にレンダリングが終わらないため、初回の実行スコアがそのまま正式なスコアになる。つまり、開始直後の周波数リミッターが掛かる前の性能も正式スコアに反映されている。


 13インチMacBook Airも比較対象のPCも、高負荷をかけ続けると発熱や電力のリミッターの影響によって性能が低下する。ファンレスのMacBook Airはその低下具合は大きいが、その低下した状態でも、まだ比較対象と互角以上の性能をキープできているということだ。


●クリエイティブパフォーマンスも十分


 クリエイティブツールでのテストでは、得意不得意の傾向がはっきり分かれた。Premiere Proは、シーケンスの書き出し(H.264)エンコードでは比較対象よりも圧倒的に高速だったが、After Effectsで作成したモーショングラフィックスをレンダリングして置き換える処理では逆に大きく遅れた。


 Lightroom Classicでは、RAWデータに現像設定を適用してJPEGで出力する処理は高速だったが、AIを使ってRAWデータのノイズを取り除く処理では比較対象より大幅に時間がかかった。Vrewでは、AIの音声作成は比較対象とほぼ同じ、エクスポート(H.264エンコード)では比較対象よりも速かった。


 処理によっては極端な結果になったが、Apple SiliconとIntel CPUのアーキテクチャの違いに加えて、AI推論エンジンやハードウェアエンコーダーがソフトウェア側でサポートされているかどうかによるところが大きい。不得意な処理もあれど、総合的にクリエイティブでの実力は十分備えているといえる。


 発熱についても、ボディーの左側がじんわり熱を持ってくるという程度だった。最先端のTSMC 3nmプロセスのアドバンテージが遺憾なく発揮されている印象だ。


●世界の2歩先を行く革新的なモバイルノート


 冒頭でも述べたが、筆者がAppleのノートPCをテストするのは約3年ぶりだ。最近で試したのはM1チップを搭載したMacBook Proだったが、当時はまだソフトの多くがネイティブ対応していなかったため良いイメージがなかった。それから世代を重ねて3世代目となったM3チップの仕上がりはかなり衝撃的だ。


 ACアダプターが35Wという時点で一瞬目を疑ってしまったが、クリエイティブパフォーマンスとファンレスの両立によってもたらされる奇妙な感覚もまた未体験のものだった。ボディーと画面の美しさやTouch IDなどの使い勝手も含めて「Windowsの世界よりも2歩先を進んでいる」というのが正直な感想だ。


 もちろん、ゲームはそもそもプレイできるタイトルが少ないし、ビジネスでも機能的に代替ができない場面は多くあるだろうが、純粋なコンピュータとしての魅力を考えると、大げさな表現ではないだろう。


 直販価格は、8コアGPUモデルで16万4800円(税込み、以下同)、評価機と同じ10コアGPUモデルが19万4800円からとなっている。ただ、これはあくまでメモリが8GB、SSDも512GBの最小価格で、メモリとストレージを増やすと価格が跳ね上がる。メモリを8GB増やすごとに3万円ずつ上乗せが必要で、メモリを24GB、SSDを2TBという構成にすると34万4800円になってしまう。


 ハイスペック志向のユーザーにとっては厳しい価格設定ではあるが、唯一無二の体験ができるモバイルノートPCであることは間違いない。もっと注目を集めてよい製品だろう。


※記事初出時、バッテリー容量について誤りがありました。おわびして訂正します(2024年4月8日午前11時01分)。


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