インバウンド激増でも昭和的に変わらない「ビジネスホテル福助」 【はんつ遠藤の大阪・西成C級ホテル探検(20)】

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2024年04月07日 13:20  TRAICY

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ここ4回、大阪は西成と言っても1泊3,000円台〜5,000円の、いわゆる”高級西成ホテル”に宿泊して紹介させていただいたが、生来の「西成ファン」である自分にとって、どうにもむず痒いというか、「じゃない」感に苛まれていた。もちろん2〜3泊出来る程の高価格設定ゆえに、物理的な居心地の良さは抜群であった。しかし、どうにも落ち着かない。

尤もホテルのせいでは無い。インバウンド需要も大阪は回復し、日本人客はおろか外国人観光客も戻ってきた。高価格帯と低価格帯のホテルの住み分けがあってしかるべきなのだが。

そんな気持ちを抱いていたので、今回の西成ホテルは原点回帰で低価格路線にした。

宿は「ビジネスホテル福助」。閉鎖された複合施設「あいりん総合センター」の南方という、まさに西成ど真ん中に位置する。今や安全な雰囲気をかなり醸し出している当地だが、それでもドヤ街的な要素は随所に見受けられ、注意するに越したことはない状況の地域だ。

今回、福助を選んだ理由は幾つかあるが、一番の理由はチェックイン開始時刻が早いという点。なんと午前10時30分から入室できると書かれていた(最終は午後10時)。いつも大阪へは、朝に東京で一仕事を終えてから羽田空港もしくは成田空港に向かい、大阪空港もしくは関西空港に午後1時前後に到着する便が殆どで、その後は直接に取材店舗へと向かうので、チェックインは午後8時ごろ。けれど今回はLCCのPeach、成田空港午前8時30分発、関西空港午前10時10分着。そこで昼すぎにチェックインすることに決めたのだった。

関西空港で、少々の用事をこなした後、南海空港線で向かえば新今宮駅には正午すぎに到着した。元の「あいりん総合センター」沿いには、相変わらず野宿者たちがいた。2022年12月14日に、大阪高等裁判所での二審も野宿者立ち退き命令が出されているが、まだ強制執行は為されていない。

その前を通り過ぎ、3つめの角を右へ(南へ)と進めば、この日は仕事をしていないと思われる日雇い労働者たちなどがうろうろと歩いていた。束の間の静寂的な雰囲気も感じつつ、ホテルへと辿り着いた。

午前10時30分からチェックイン開始と書かれていても、実際は夕方からしか入室できないのでは?という不安をよそに、フロントで名前を告げれば、あっけないほど何の問題も無く、キーをくれた。本当にあっけない。宿帳に記入すら、しない。(笑)

連載では書かなかったが、実は福助にはコロナ禍以前に宿泊した事がある。その当時はルームキーを受け取るのにデポジット(保証金)が500円必要(キー返却時に返還あり)だったが、そのシステムも無くなっていた(キー紛失の場合は1,000円)。チャックアウトの際は、フロント前のBOXに入れればOKのようだ。

そして、以前はエントランスで靴を抜いてスリッパで館内を歩くのは同じだが、部屋番号の書かれたシューズボックスが設置されて、部屋まで靴を持っていかなくてもよくなった。これは鍵がかからないので自己責任ではあるが、監視カメラも作動しているので、まぁ、大丈夫だろう(不安ならば部屋まで持っていく事を推奨)。ちなみに宿泊は男性専用。禁煙ルーム&喫煙ルーム。外国人客は、おそらく皆無。拒絶しているわけでは無いようだが、ほぼオールジャパン。

客室は1階〜7階。今回は4階の部屋をアサインされた。

エレベーターを降りれば、廊下の棚にちょっとした書籍も置いてあった。自分は1泊なので必要ないが、長期滞在などであれば重宝するのかもしれない。照明が暗めで、鉄扉が整然と並ぶ昭和的な雰囲気は、なんとなく物悲しくも思えるが清潔感は保たれていた。

ルームキーを回して部屋に入れば、畳仕立ての3畳一間(もちろんバストイレは共同)の和室があった。久々の和室。まさに「The 西成」である。以前に宿泊した別のホテルの和室で、虫が次々に出てきた時のトラウマがまだあるのだが、こちらのホテルは清潔感が保たれていて、チェックアウトまで大丈夫だった。

1泊素泊まり1,700円(税込)。部屋自体は何の申し分もない。

テレビ、冷蔵庫、簡易だがテーブルも。独立型のエアコンもあり、天井のライトも明るい。

しかも多くの西成ホテルでは2つなのに、こちらはハンガーが3つ!

コンセントは1か所しかないが3本使用できる電源タップ(いわゆるタコ足)があらかじめ設置されていた。無料のWi-Fiも各階ごとに提供されていて、試しに下り速度を測定すれば280Mbpsも出ていた。自宅よりもずっと快適。

唯一の欠点は、ドアスコープはあるが、カバーが無い点。いつも通り、シールでホールドした。

試しに布団を敷いてみた。3畳あるので、もちろん余裕だ。第4回で紹介した1.5畳の「ホテル ダイヤモンド」を覚えているだろうか。それに比べたら余裕の空間。

飲食店の取材先へ向かうのは、まだ時間があったので、恒例の館内探検へと向かった。

各階にトイレがあり、4階にも洋式トイレがあったがおそらく和式のブースをリノベーションしたのだろう、とても窮屈だった。あとから確認したら5階以上のほうが広々としていた。

内階段で5階へと上がれば一部が屋上になっていて、そこにコインランドリーとして洗濯機や乾燥機が設置されていた。屋外なので冬場は寒いが、稼働音が館内に聞こえづらいのは利点だ。朝7時〜夜10時まで使用可能。

物干しざおに洗濯物が干されていたのはホテル側のものかと思えば、宿泊者も利用している雰囲気である。

それにしても館内随所に掲示が多い。

殆どは当たり前の事項なのだが、電子レンジの開閉にまで注意書きがあるところに敬服すら覚えた。

1階と5階とには炊事場があり、電子レンジ、電気ポットも。1階には自動販売機もアルコールとソフトドリンクの2台。

奥には大浴場があり、日曜を除く午後5時〜11時に使用可能だ。シャワーは毎朝6時〜10時、そして日曜の午後5時〜11時。

ひととおりの館内探検を終えてまた部屋へ戻り、仕事に必要な荷物だけ持って、取材先へと向かった。

最近は仕事が終わった後はホテルへ向かってチェックインし、近所のコンビニなどで購入した商品などで部屋呑みとなる事が殆どだった。だが今回はすでにチェックインをしている安心感もあり、久々に居酒屋に向かう事にした。今回のビジネスホテル福助には午前0時の門限があるが、時間はまだまだたっぷりだ。

取材先も西成のホルモン焼きだったので、終了後にお客へと鞍替えしてそのまま呑むのも手だったが、ちょっと気になる事があり、以前にも時々伺った、新今宮駅近くの「八福神」へと向かった。それは最近のインバウンド動向。

午後5時すぎ頃だったので、店内は4分の1程度の客数だった。右側がぽっかり空いていたので気になって伺えば「4名の予約がある」そう。酎ハイレモンを呑みながら、名物の肉豆腐を味わっていたら、予約客が入店した。

噂どおりだった。おそらく欧米系の家族でお父さん、お母さん、息子と娘の4名が、同じく欧米系と思われるガイドの男性とともに現れた。

西成は観光地し、このようなインバウンド系が顧客の観光システムが今や存在する。ガイドはメニューをひととおり説明すると帰って行った。家族連れは母国とは違う異空間に興味津々でワクワクしていた。

翌朝は6時ごろ目が覚めた。夜にホテルに戻ったのは午後9時ごろなので大浴場は稼働中だったが泥酔気味だったので自重し、朝にシャワーを浴びる事にした。約9時間の睡眠。

この一連の行動が失敗だった。二日酔いも無くすっきりとした気分でシャワーに向かえば、朝のシャワーは1名分しか無く、先客がいた。時々見に行っても誰かがいた。しかもドライヤーは貸し出しなのだが、午前9時まではフロントがいないので、シャワーを浴びれたところでドライヤーは借りられないというオチまで。

結局、チェックアウトは9時30分までなのだが仕事の関係で8時30分には出発せざるを得ず、シャワーすら浴びられないまま、フロント前のBOXにルームキーを返却して誰にも会わずにチェックアウトした。泥酔気味でも昨晩に大浴場に向かえば良かったと、後悔した。

西成は曇り空だった。

試しに外階段から1階に降りてみたら、外に通じていた。ふと掲示を見たら月額の家賃4万円と書かれていた。長期滞在というよりも居住している方もいるんだ。3畳一間で月4万円は安くは無い気もしたが、共益費や保証金はおろか、水道光熱費もゼロ円ならお得かもしれない。

そして交差点へと向かった。日経平均株価が4万円を突破して過去最高株価になっても、インバウンドでまた外国人観光客が激増しても、朝8時30分の西成の交差点は、相変わらず西成のままだった。

■プロフィール  

はんつ遠藤

1966年東京生まれ。早稲田大学卒。不動産会社勤務を退職後、海外旅行雑誌のライターを経て、フードジャーナリスト&C級ホテル評論家に。飲食店取材軒数は1万軒を超える。主な連載は「週刊大衆」「東洋経済オンライン」など。著書は「取材拒否の激うまラーメン店」(廣済堂出版)など27冊

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