一度は試したい「アワビの豪快で贅沢な食べ方」 日本文化を熟知する作家が語る、三重県の歴史とグルメ

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2024年04月08日 14:10  J-WAVE NEWS

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三重県に関する歴史や魅力、独自の風習について、作家・文献学者の山口謠司さんが語った。

山口さんが登場したのは、J-WAVEでオンエア中のコーナー「PLENUS RICE TO BE HERE」。オンエアは2月19日(火)22日(金)。同コーナーでは、地方文化の中で育まれてきた“日本ならではの知恵”を、山口氏が解説していく。ここではその内容をテキストで紹介。

また、ポッドキャストでも過去のオンエアをアーカイブとして配信している。山口さんが三重県を訪ね、現地の人から聞いたエピソードの詳細が楽しめる。

・ポッドキャストページ
https://www.j-wave.co.jp/podcasts/

伊勢神宮の正式な参拝のルート

関西地方にあり、約1000kmにもおよぶ広大な海岸線を擁している三重県。「ナガシマスパーランド」「鈴鹿サーキット」など有名アミューズメント施設には全国から人が集まり、「一生に一度はお伊勢参り」と歌われた”日本人の心のふるさと”である「伊勢神宮」もある。

山口:伊勢神宮には、私たちが生きていく上でなくてはならない食の神様・豊受大御神が祀られています。

伊勢神宮にお参りするときには、多くの人が、まず天照大御神が祀ってある内宮に行かれますが、正式な参拝のルートは、豊受大御神が祀られている外宮に行ってから、内宮に行くものとされているそうです。

山口さんは実際、伊勢神宮の宮司で広報課長も務める音羽悟氏さんに「まず外宮に行ってから内宮に行ってください」と聞いたそうだ。

山口:と言うのも、天照大御神のお食事を司る御饌都神・豊受大御神の衣食住を整えてくれなければ、天照大御神自身も国土を豊かするお祈りができないという理由でした。「衣食足りて礼節を知る」とよく言われますが、礼儀とか節度を知ること、それから良いこと・恥ずかしいことを知るためにも、まずは衣食住が整っていないといけません。そんな衣食住を司り、我々を守ってくれている神様が、豊受大御神です。
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豊受大御神が京都の丹後の国から呼ばれて、伊勢神宮の外宮に祀られるようになったのは、今から約1500年前。一方、天照大御神が伊勢の内宮に鎮座したのが、2000年前だという。

山口:この外宮、ちょっとびっくりしたんですが、外宮の東北の位置に御饌殿という建物があります。ここは神様のお料理を作るところで、この場所で、毎日朝夕の2回、天照大御神、そして別宮に祀られている神様のために、お料理が作られているんです。

前の夜から禊をしておこもりをした神職が、特別な井戸で水を汲み、火を起こして、調理したご飯を3盛り。それから鰹節、お魚、海藻、野菜、果物、お塩、お水、そして御神酒を3合用意します。

それらを「辛櫃(からひつ)」という大きな箱にいれ、2人の神職が運んでいく。御饌殿の前で皇室の安泰・国民の幸福を祈ったのちに供えるのだそう。

山口:毎日欠かさず行われる祈りだそうで、朝・夕とやっていらっしゃるそうです。我々のためにやってくださっていると知ると、口に入れるものへのありがたさを感じます。

ものをおいしくいただけるということは本当にありがたいことです。衣食住を守ってくださる豊受大御神の存在を考えると、改めて食べ物を無駄にしてはいけないと感じます。
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「焼くまでに試験がある」グルメとは?

山口さんは、自然が豊かで、四季折々の情景が楽しめる松阪市に訪れたそうだ。

山口:松阪市は江戸時代、紀州徳川家の飛び領地だったそうです。松阪を歩いていると、古い街並みに風格を感じます。松坂城の敷地内にある「松阪市立歴史民俗資料館」に行きますと、小津安二郎展が行われていました。小津安二郎さんの父・寅之助さんは、かつて江戸に店を構えていた松阪商人「小津与右衛門家」の分家「小津新七家」の六代当主です。

ところで、伊勢の商人と聞くと、まず出てくるのは三越ですね。江戸時代は越後屋と言われておりまして、江戸の日本橋にお店を出した三井高利、通称:八郎兵衛のご出身も松阪です。松阪から江戸に出て、大成功を収めた方で、そしてこの方のお母さん・三井殊法さんが、三井家の基礎を作った方だと言われています。
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三井殊法さんが行ったのが「前垂れ商法」というものだそうだ。江戸時代の商人が行ってきた御用聞き商法のことで、顧客満足第一主義を原則としている。

山口:家業は質屋さんと同時にお酒やお味噌を売ったりしていたのですが、当然、薄利多売です。とにかくたくさんの人に売って、自分の店の名前を広く知らせようとしました。

そんな中で、質屋を営むにあたっては、ほかの店より利用費を安くする。そして、お味噌やお酒を買いにこられるお客さんには、タバコやお茶を出して、もてなす。気持ちよく帰ってもらえば、お客さんはまたそのお店に訪れてくれます。おごりたかぶらず、神様や仏様のおかげで生きていると毎日に感謝していました。毎朝4時に起きて、水行で身を清め、神仏に家業の繁栄をお祈りしていたそうです。

そんな母から徹底的に「一銭一厘を無駄にしない」「お客さんを大事にする」ことを教わった三井高利が、江戸に出てきて、商売をスタートしました。それが日本橋三越の始まりです。

山口さんは、言わずと知れた松阪牛の名店「和田金」を訪れ、すき焼きを食べたという。「すき焼きの<す>はひらがなではなく<寿>と漢字で書いてあり、それだけでも幸せになりそう」と述べる。また、仲居さんも印象的だったのだとか。

山口:ここで働く仲居さんがすごいんです。炭火を起こして、そこに南部鉄の鍋を置かれて、牛脂を敷き、まず松阪牛のリブロースを一枚焼いてくださるんです。「1枚、65グラムです」と教えてくれ、そこに白い砂糖、醤油をかけて、小さじ2杯ぶんほどの昆布だしも。醤油は和田金で作っている秘伝のたまり醤油だそうです。
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「炭火の香ばしさをまとったすき焼きというのは、こんなにおいしいものか」としみじみ思いました。「調理するのは難しいのでしょうね」と聞くと、「これを焼くためには試験がございます」と言われました。

すき焼きの具材はすべて直営の農家で作っているものだそうだ。

山口:おネギ、三つ葉、大分の椎茸、淡路島の玉ねぎ、食感もちもちの焼き豆腐、それから伊賀のお豆腐、新潟産の白舞茸……すべて直営の農家で作っていらっしゃるそうです。

一方、牛肉は生後半年の雌牛を競りで買ってくるそうです。常時、約1000頭を育てていて、3歳になる前にお肉にしていただくそうです。

そんな話を聞く中で、和田金の仲居さんは「東京では割下でいただかれますよね。恐らくあれは、すき焼きではなく、すき煮ですね」と仰いました。それ以降、なかなか自分ではすき焼きができなくなってしまいました。
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アワビの贅沢で豪快な食べ方

山口さんは、伊勢神宮に奉納される「アワビ」にまつわる豆知識も披露した。

山口:アワビを見ますと、真ん中の部分は黄色がかった白い色をしています。周りは緑のような茶色っぽい色味です。10円玉は腐食すると、緑色の青銅色に変色します。しかし青銅色というのは、腐食していても、中身はキンキラで、磨けば綺麗になる。その中に魂がこもっていることを意味します。アワビも磨けば光り、復活できるものということで、日本では皆が大事に食べているのです。元気が出ないときにはアワビを食べるといいと思います。
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アワビはどうやって食べるのがベストなのか──山口さんがおすすめするのは、豪快な食べ方だ。

山口:豪快な食べ方をお伝えします。まず大きさが合う2つのアワビに、横からグサっと割れ目を入れてください。贅沢ですが、ウニを割れ目のところにしこたま詰めてください。そうしたら、2つをペタッと合わせます。くっついたところを針金でぐにぐにと十字に縛ります。これを炭火の中に入れます。

焼き過ぎない直前のところで出してあげて、スダチかなんかをかけてあげてください。バターでもいい。食べると、これほどおいしいアワビ料理はほかにないんじゃないかなと思います。アワビは人間を復活をさせてくれる貝です。ぜひ、おいしくアワビをいただいてください。

(構成=中山洋平)
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