角田裕毅が実力で「11位の壁」を越えた 日本GP10万人の大観衆のなか、鈴鹿サーキットで見事にサクラサク

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2024年04月09日 07:31  webスポルティーバ

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 サクラサク──。

 好天に恵まれたF1日本GP・決勝日の鈴鹿サーキットは10万2000人の大観衆が詰めかけ、角田裕毅(RB)の10位入賞に大声援を送った。

 シングルでもなければ表彰台でもなく、もちろん優勝でもない。しかし、このマシンでこのリザルトがどんな意味を持っているのか、鈴鹿で角田の走りを見守った誰もが理解していたはずだ。

 予選Q3進出も、決勝のスタートで一時は13位まで後退しながら10位まで挽回して力強く守りきった走りも、すべてがマシンとチームと自身の全力を出しきっての結果だった。

 「ホッとしています。最初のスタートで2ポジション落としたこともあって、正直に言ってその瞬間はガッカリしていました。でも、その後のリスタートでいいスタートが切れて、ピットストップでチームがかなりいい仕事をしてくれて、ポジションを守るだけでなくふたつポジションアップすることができて、本当にすばらしかったですね。

 あれがなければ、ポイントを獲るのはかなり厳しかったと思います。その後は毎周のように日本のみなさんのサポートを感じながら走れたので、本当にいいレースができたと思います。3年目でようやく日本GPでポイントが獲れて、とてもうれしいです」

 タイヤマネジメント優先でスタートにミディアムタイヤを選んだのは、結果から言えば失敗だった。しかし、直後の事故で赤旗中断となり、再スタートではソフトタイヤを選んで再チャレンジするチャンスを手にした。

 そこでスタートを決め、さらには目の前でジョージ・ラッセル(メルセデスAMG)がロックアップしてバルテリ・ボッタス(キック・ザウバー)を道連れにアウトへはらみ、角田は最初のスタートで失ったポジションをすべて取り戻す幸運を得た。

 最初のピットストップはボッタスに先手を打たれ、アンダーカットを許して抑え込まれる展開になってしまった。さらには、またしてもハースのケビン・マグヌッセンが1ストップ作戦で立ち塞がった。

【みんな、ありがとう! トップジョブだ!】

 実質13位。このままでは入賞はできない。

 RBはここで先手を打って、53周レースの22周目というかなり早い段階でピットインに出た。それを見て、ライバルたちもアンダーカットを阻止すべく動いた。鈴鹿はタイヤのデグラデーション(性能低下)が大きく、新品に換えれば一気にタイムアップしてライバルを抜くことができるからだ。その結果が、マグヌッセンを先頭とする集団の5台同時ピットインだった。

「そもそも、あそこで入る予定だったんです。でも、僕たちは毎回ピットストップをうまくやっているので、それなりに自信はありました」

 5台が同時にピットインし、RBは3番目で入ってきた角田を先頭で送り出してみせた。

「めちゃくちゃ速かったですね。僕もピットクルーに応えられるように停止位置をしっかりと決めて、あとはメカニックがそれに応えてくれたので、あそこは本当にチームに感謝です。あれがなければ入賞はできませんでしたし、今日の最大のハイライトだったと思います」

 ピットボックスを飛び出した瞬間、角田はミラーで後続の4台を見ながら、もうステアリングの無線ボタンを押していた。

「みんな、よくやった! ありがとう! トップジョブだ!」

 こうやってチームに感謝を伝え、チームを鼓舞する術(すべ)もしっかりと身につけた。もちろん、チーム全員で一丸となって、自分のためではなくチームのために戦っているという自覚がしっかりとあるからでもある。

 決勝に向けてガレージにやってきた角田は、すべてのクルーと力強い握手を交わしてからマシンに乗り込んだ。

 だからこそチームクルーも「裕毅のためにがんばろう」と、いつも以上の力を出せる。

 集団の先頭でピットアウトした角田は、ハードタイヤで残り30周のロングスティントを走りきることを念頭に置きながらも、アストンマーティンのランス・ストロールを抑え込んでオーバーテイクのチャンスを与えず、10位を走り続けた。

 追い抜きができないと見たストロールが3ストップ作戦に切り替えてソフトタイヤに履き替え、1周1.5秒速いペースで20秒後方から追いかけてきても、角田は動じなかった。

【セカンドグループのなかでの"優勝"】

「ストロールが追い上げてくるというのはわかっていたので、最後の最後までタイヤを温存しておいて、ストロールが追いついてきた時に備えていました」(角田)

 ストロールが後方のマグヌッセンとボッタスを抜いて7秒後方に迫ったところで、角田はペースを上げて反応。最後はストロールとほとんど変わらないタイムまで記録し、ストロールの追撃に対してとどめを刺した。

 テクニカルディレクターのジョディ・エギントンは、角田のドライビングとチームクルーの働きを絶賛した。

「トップ5チーム10台すべてが完走したなかで、今日の我々は10番目に速いマシンで、10位でフィニッシュした。つまりは実力どおりのいいレースができたということだ。

 裕毅は後方とのギャップを見ながらレースをコントロールして、最後にペースを上げて引き離した。我々としては非常にうまくレースをコントロールできたと思う。スタートで出遅れたが、メカニックたちは本当にすばらしい仕事をしてくれた。

 最初のピットストップでアンダーカットされてしまったから、ペースは上がってもコース上でのオーバーテイクは難しかった。しかし今日は、メカニックたちがこのポイントを獲得したんだ」

 まさしく、角田もチームもすべてを出しきっての10位。トップ5チーム10台すべてがいるなかで、実力で"11位の壁"を越えて、入賞をもぎ取った。

 赤旗中断からのリスタートや1コーナーでの漁夫の利、ピットストップではライバル勢がミスをしたといった幸運もあった。しかし、そんな幸運に恵まれたことも、幸運によって得たポジションを最後まで守りきったことも、すべては今の角田とRBの実力があるからこそだ。

 ホンダの現場運営責任者としてレースを見守っていた折原伸太郎トラックサイドゼネラルマネジャーは語る。

「幸運があって上に行く、というのは今までもありましたけど、今まではそのポジションを維持できませんでしたよね。でも、今はいいストラテジーで戦い、やるべきことをしっかりやっているから、上位に残る確率が上がっているんだと思います。

 その結果として、運に恵まれたりして上位に上がれた時に、そのポジションを守りきれるようになっている。上位勢が全員残っていての10位ですから、この1ポイントはものすごく大きな1ポイントだと思います。セカンドグループのなかでの"優勝"ですし、これしかないというかたちで入賞を果たしましたから」

【観客席に向けてずっと手を振り続けていた】

 それを牽引しているのは、間違いなく角田裕毅、その人だ。

 レース後、RBは全クルーがピットガレージ前に集まった大興奮の記念撮影を行なった。たったの10位1点ではあるが、RBにとってはこの上なく大きな、ある意味ではオーストラリアの7位入賞よりも価値のある1点だ。

 その中央で力強くガッツポーズをし、しまいには肩車をされて角田はカメラに収まった。

 チェッカーを受けたあと、角田はピットに戻ってくるまでの1周の間、ずっと観客席に向けて手を振り続けていた。

「やっぱり感動しました。本当にみなさんの期待に応えられたというのがうれしいですし、ここまで待っていてくれたのでホッとしています。その感謝の思いを伝えながら1周しました。

 もし今回のレースを見てファンになってくれた方がいたら、これをきっかけに好きになってくれたらうれしいですし、これまで応援してくれたファンのみなさんもこれからも応援してくれたらうれしいなと思います」

 日本GPのたびにドライバーとしても、人としても成長を見せてきた角田が、今年の鈴鹿では見事に桜を咲かせ、また一段と大きな存在になった。

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  • 角田を見るたび、バキに出てきそうな顔してるな、と思ってしまう。
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