ちいかわ、中国でも大人気 背景にあるのは経済停滞と社会不安による“癒し”の欲求?

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2024年04月12日 07:10  リアルサウンド

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『ちいかわ』1巻 ©nagano

■中国でも長蛇の列『ちいかわ』ストアにファン熱狂


  中国での『ちいかわ』の人気ぶりが話題となっている。きっかけとなったのは、今年の3月29日から上海、4月1日からは北京と、それぞれ期間限定でオープンしたポップアップストアの大盛況を伝えるニュースだ。


 『ちいかわ』は日本のイラストレーター、ナガノが2020年からX(旧・Twitter)で連載を開始した漫画。動物をモチーフとした二頭身のキャラクターたちの日常を楽しく、かわいく、時に切なく描く作風に国内でファンが続出し、単行本『ちいかわ なんか小さくてかわいいやつ』(講談社)は累計部数270万部以上を突破。2022年からアニメも開始され人気がさらに拡大し、関連グッズや多彩なコラボも大ヒットしている。


  中国での『ちいかわ』人気はSNSを中心に広まり、中国語版コミックスやアニメも多くのファンに観られていたが、中国国内での公式なグッズ販売はまだ実現していなかった。中国のファンが『ちいかわ』グッズを手に入れる手段はネット上での購入しかなく、値段も決して手頃とは言えなかったそうだ。


  そうした事情もあってか、上海会場の初日は開店前からファンが長蛇の列となり、入場制限もかかるほど。さっそく完売したグッズが続出しているとファンがSNSで投稿している。


  そんな盛況を伝える情報が多い中、『ちいかわ』とコラボした中国の雑貨小売り大手「名創優品」が、公式動画アカウントでコラボグッズを紹介した際に「不適切な表現」で炎上。同社は公式に謝罪し動画を削除、さらに責任者が解雇されたことも明らかとなった。


  また、作者のナガノ氏が過去の漫画の中で台湾について「台湾…いい国だなあ…」と書いたコマが切り取られ、中国のSNS上で賛否両論を巻き起こしているというニュースも伝えられている。こうしたネガティブな騒動も、逆に中国における『ちいかわ』の注目度の高さを象徴しているといえるだろう。


■なぜ今、中国で『ちいかわ』が人気なのか?


  それは日本国内の『ちいかわ』ファンにとっても興味をそそられる疑問となっているようだ。この現象を中国文化に詳しい専門家はどう見ているのか。


  中国の流行なども取り上げる月刊中国語学習誌『聴く中国語』(愛言社)の編集長・謝辰氏は「あくまで個人的な見解ですが」と断ったうえでこう話す。これまでも中国ではサンリオ、スーパーマリオなど日本発の「かわいい」キャラクターが流行したことはあったという。


 「キャラクターの人気は、日本とタイムラグはほぼありません。(中国に限らず)世界の人々は“日本のキャラクター”と意識しているのではなく、かわいいから、魅力的だから好きになっているのであり、それは中国人も同じです。日本のアニメや漫画キャラクターは、かわいい系からかっこいい系までいろいろタイプがあって、それぞれ中国人にも多くのファンがついています」(謝辰氏/以下同)


■中国人も『ちいかわ』ブームに意外性を感じている


 『ちいかわ』の中国人気は、こうしたキャラクターがもつ“普遍的”な魅力、国境や文化を超越する「かわいい」を感じていることがあるだろう。


  一方で謝辰氏は、『ちいかわ』の中国語訳「吉伊卡哇」で中国のSNSを検索すると「吉伊卡哇为什么这么火(ちいかわはなぜこんなに人気?)」といった分析系の投稿が多く見られ、「おそらく中国人も多少この人気ぶりに意外性を感じているのではないかと思います」とも指摘してくれた。


  では、そうした投稿でどのような分析がされているかというと、多くは「作品自体の面白さ・独特さが最大の魅力ポイントで、それがバズる理由と考えられている」とのこと。謝辰氏は、次のように続ける。


 「かわいいキャラクターが好きじゃないという人の方が不思議ではないでしょうか(笑)。“かわいいものには癒やされる”ということでしょう」。


  謝辰氏はさらに「あくまで私見ですが」とし、現在の中国の若者をめぐる状況も関係があるのではと話す。「中国の大企業はこの2〜3年リストラが多く、大都市でも30代で失業者になる若者が増えていると、一時期話題になりました。そうした若者たちの中にはライブコマーサー、自営業、配達業者などに転身する人も多いようです。


   それに日本や韓国で加熱している受験競争は中国ではすでにピークが過ぎ、少子高齢化が新しい課題になっています。こうした状況は日本人がこれまでに経験してきたことが中国でも起こりつつあるということかもしれません」


  『ちいかわ』の世界観が実は意外とブラックでシビアなテイストを孕んでいるというのは、よく指摘されるポイントだ。か弱いキャラクターたちは理不尽な目に遭ったり、切ない体験をしたりすることも多く、その姿は確かに現実の閉塞感を反映している部分もある。


   とはいえ、中国固有の状況が現在の『ちいかわ』人気に直接結びついていると考えるのは早計に過ぎるのかもしれない。可笑しくも悲しく、憐れさや儚さを感じさせるキャラクターたちにどこかで共感しながら、魅力的なデザインと世界観が醸し出す“かわいさ”に癒やされる。そんな感覚はおそらく日本人にも中国人にも(そして『ちいかわ』に魅せられている世界各国の人にも)共通なのではないだろうか。


  シンプルだからこそストレートに刺さる“かわいい”の癒やしーーそれが今、日本人だけではなく中国の人々にも、そして広く世界にも必要とされているのかもしれない。


(文=鈴木雅展)


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