EUが「グリーンウォッシング禁止指令案」を採択、日本のファッション業界への影響は?

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2024年04月12日 13:51  Fashionsnap.com

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 2024年2月、EU理事会が「グリーンウォッシング」を禁止する指令案を採択した。「根拠のない環境配慮表示などによって消費者に誤解を与えること」を指すこの言葉は、日本ではまだ比較的馴染みが薄いものの、ファッション業界にも少なくない影響がありそうだと専門家は注目する。そこで本稿では、「グリーンウォッシング」にまつわる基礎知識から、今回EUで採択された禁止指令案の要点、日本のアパレル業界が押さえておくべきポイントまで、ファッションローに詳しい平川裕氏が解説する。


欧米を中心に規制が強まる“グリーンウォッシング”とは?
 「グリーンウォッシング」とは、実体を伴わないにもかかわらず、あたかも「環境へ配慮している」という誤った印象を消費者に与えたり、実際の商品よりも環境に配慮した商品であるかのように製品パッケージや広告などに表示して消費者の誤解を招く行動を指す。近年、社会全体でサステナビリティに対する関心が高まったことに伴い、サステナビリティをブランディングや宣伝に活用する動きが増えている。明確な根拠や裏付けデータがない状態で「サステナブル」と謳い、商品を宣伝・販売する事例が世界的に増えてきたことで、欧米を中心にグリーンウォッシングを法で規制しようとする動きが活発化している。
ファッション業界にも広がる動き、過去にはH&Mも訴訟に発展
 欧米では、ファッション関連企業が「グリーンウォッシング」を巡って訴訟になった事例が複数存在する。例えば、「H&M」が長年にわたって展開してきた、地球環境への負荷が少ないサステナブルな素材を使用した「コンシャス・チョイス(Conscious Choice)」 コレクションは、製品タグに記載の環境配慮に関する評価基準や文言に、虚偽や消費者の誤解を招く恐れがある内容があったとして、2019年にノルウェー消費者庁が違法と判断。それを皮切りに、2022年7月にはアメリカ・ニューヨーク州でクラスアクション(集団訴訟)が提起されたほか、同年8月にはオランダ消費者庁・市場庁が同社に対して是正勧告を行い、同年11月にはアメリカ・ミズーリ州でもクラスアクションが起きるなど、複数の国や州で訴訟などが発生している。
ファッション業界が押さえるべき「グリーンウォッシング禁止指令」のポイント
 同指令案は、「循環型経済行動計画」に盛り込まれたイニシアチブの一つであり、2022年3月に欧州委員会のディディエ・レンデルス(Didier Reynders)委員が提案した。今後、欧州議会議長および理事会議長の署名を経た後、欧州連合官報に掲載。掲載20日目に発効となり、EU加盟国は2年以内にこの規則を国内法に統合する必要がある。
 指令案の冒頭では、消費者は十分な情報を得た上で購買決定を行うことが必要不可欠であり、そのために事業者は明確で適切、かつ信頼できる情報を提供する責任があると述べている。その責任を果たすため、事業者は広告や製品パッケージといった製品の発表を通じて、耐久性や修理可能性、リサイクル可能性など、製品の環境的・社会的特性と循環性について消費者に誤解を与えてはならないと規定した。
 その上で、同指令案には一例として、以下のような具体的な規制や禁止事項などが盛り込まれた。
将来的な環境目標を掲げる場合は、検証可能で現実的な実施計画とすること 将来的な目標を掲げることで消費者に環境面の訴求を行う場合、「消費者が該当製品を購入することで低炭素経済に貢献している」という印象を与えると指摘。このような主張の公平性と信頼性を確保するために、検証可能な目標を掲げ、それを踏まえた現実的な実施計画を定められない場合は、こうした主張を行うことを禁止するとしている。 製品比較時には、消費者に対して比較方法などの情報を提供することを義務付ける 耐久性や修理可能性、リサイクル可能性など、環境的・社会的側面に基づいて製品比較を行う際には、比較方法や比較対象製品、製品の供給者などの情報を消費者に提供することを義務付け、その情報は常に最新であるべきとしている。 認証されていないサステナブル表示の禁止 サステナブル表示は、透明性と信頼性の確保が必要不可欠であるため、認証スキームに基づかない、あるいは公的機関によって確立されていないサステナブル表示は禁止すべきとしている。 一般的な環境訴求の禁止 広義の意味で環境に配慮していると主張し、環境性能が実証できない場合には、消費者が誤解するような表現の使用を禁止する。具体例として、「環境にやさしい」「エコフレンドリー」「グリーン」「自然の友」「エコロジカル」「環境的に正しい」「カーボンフレンドリー」「エネルギー効率が高い」「生分解性」「バイオベース」などを挙げている。 製品や企業活動の限定的な側面を、製品や企業活動全体の表示に使用することの禁止 例えば、ある製品に対して「リサイクル材を使用」と表示した場合、製品全体がリサイクル材で作られているかのように見せかけながら、実際には梱包材だけがリサイクル材で作られている場合は、消費者の誤解を招くとして禁止すべきとしている。 カーボンオフセット*を根拠に、該当製品が温室効果ガス排出の点で環境に中立的、削減的、またはプラスの影響を与えるという主張の禁止 このような主張は、消費者に製品そのものや製品の供給・生産に関するものであると誤解させたり、該当製品の消費は環境に影響を与えないという誤った印象を与えるため、あらゆる状況において禁止されるべきと記載されている。 *カーボンオフセット:自らの温室効果ガスの排出を認識し、主体的にこれを削減する努力を行うとともに、削減が困難な部分の排出量について、他の場所で実現した温室効果ガスの排出削減・吸収量等(クレジット)を購入すること又は他の場所で排出削減・吸収を実現するプロジェクトや活動を実施すること等により、その排出量の全部又は一部を埋め合わせるという考え方(農林水産省 公式HPより)
日本における「グリーンウォッシング」の今
 日本では、根拠なく「環境負荷が小さい」などと商品の品質を偽った場合には、景品表示法違反となるリスクが高まるが、グリーンウォッシングを直接規制する法律が存在しないのが現状だ。環境省が2013年に出した「環境表示ガイドライン」では、環境にまつわる適切な表示の条件として、下記の4点を挙げている。
根拠に基づく正確な情報であること 消費者に誤解を与えないものであること 環境表示の内容について検証できること あいまい又は抽象的でないこと
 また、公正取引委員会が2001年に出した「環境保全に配慮している商品の広告表示の留意事項」では、下記の5点が示されている。
表示の示す対象範囲が明確であること 強調する原材料等の使用割合を明確に表示すること 実証データ等による表示の裏付けの必要性 あいまい又は抽象的な表示は単独で行わないこと 環境マーク表示における留意点
 しかし、これらはいずれも「ガイドライン」のため、法的な拘束力はない。また、環境省のものでも10年以上前に出された内容であるため、今後、これらに代わる新たなガイドラインが登場することを期待したい。
 一方で、現状グリーンウォッシングを直接規制する法律はないものの、日本においても少しずつではあるが、グリーンウォッシングを意識した対応が見られるようになってきた。2022年12月には、消費者庁が「生分解性」を謳った商品を販売していた事業者計10社に対して、「生分解性」の表示が「優良誤認」にあたるとして措置命令を実施。2023年10月には、そのうちの1社に対して1774万円の課徴金納付命令を発している。措置命令が下された事業者が取り扱っていた製品は、カトラリーからごみ袋、釣り用品、エアガン用BB弾まで幅広く、公表されていないだけで、既にファッション業界においても調査のメスが入っている可能性は十分にあり得る。
 今回のグリーンウォッシング禁止指令案の採択により、EU加盟国に直営店を設けていたり、EU加盟国からも購入可能なECを展開していたりする場合は影響を受ける可能性がある。同様に、EU加盟国に拠点を持つ企業と取引を行う場合も、この指令の基準を満たすことを要求される可能性があるため、他人事と考えず、今から対応を進めておく必要があるだろう。加えて、近年はSNSの反応についても注視が必要だ。仮に違反事項がない場合でも、環境に配慮していないにもかかわらず、安易に「サステナブル」などと謳えばSNSで炎上するリスクが高まるため、リスク管理の観点からも現状の総点検が求められる。
平川裕 (Yu Hirakawa) 幼少期を米国で過ごし、大学卒業後に日本の大手法律事務所に広報担当として勤務。2017年に「WWDJAPAN」の編集記者(バッグ&シューズ担当)としてパリ・ファッション・ウィークや国内外のCEO・デザイナーへの取材を担当する傍ら、ファッションロー分野を開拓する。現在はフリーランスのファッションライターとスタートアップのPR担当という二足の草鞋で活動中。無類のハイヒール好きで9cmヒールが基本。
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