「ジェットスター・ジャパン」でストが頻発する理由。ライバルのLCC・ピーチとの違いとは【訂正アリ】

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2024年04月18日 09:01  日刊SPA!

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ジェットスター・ジャパンは顧客同士の縁結びイベントを行った過去がある。労使関係の縁結びのできる時は来るのだろうか
 ジェットスター・ジャパンのパイロットと客室乗務員で組織される労働組合「ジェットスター クルー アソシエーション(JCA)」と会社の労使交渉は、ストライキに発展するなど、両者の主張の一部は解決に至らず平行線をたどった。
 コロナ禍で疲弊した航空業界では収束とともに、航空旅客が予想以上に伸び、職員のマンパワーが追い付かない事例も発生していた。そのような環境の中、残業代の一部未払いという事象(※1)を残したのがストライキを伴った2023年末の労使闘争だった。(※1 残業代の一部未払いはシステムの不具合によるものと、後述のジェットスター・ジャパン「記者レク」で説明があった。2024年4月20日編集部追記 記事公開時、「職員のワークロードが高くなり、残業代の一部未払い〜」と記述しましたが、職員のワークロードの高さと残業代の一部未払いに因果関係は認められないため、削除しました。2024年4月23日編集部追記)

 ストライキの突入で始まった年始繁忙期であったが、2024年元日の能登半島大地震の影響を考慮し、組合は翌日にストを中止した。それから3か月に満たない3月下旬。今度は、組合員1名に対する会社側の懲戒処分通知(※2)が引き金で、再度ストライキを実施すると組合は会社に申し入れた。実際はどのような状況であったのか。以下に、経緯、現状、そして解決に向けた取り組み方とライバル会社の動向について取材をもとに解説する。(※2 記事公開当初、当該組合員1名に対する“懲戒処分”を“解雇”と表記していましたが、誤りだったため訂正しました。以下同。2024年4月20日編集部追記)

◆ジェットスター労使交渉の経緯

 ジェットスター・ジャパンにおける労使交渉が表に出たのは、2023年5月にさかのぼる。労働者側(と言っても、組織したのはパイロットの運航乗務員と客室乗務員の一部のみであり、地上職員は含まれていない)は、労働条件の改善や賃金未払いの改善を求め、ストライキなどを通じてその要求を主張してきた。

 本稿の執筆を開始した、3月下旬時点での労使交渉は、会社側が組合員1名に対して行った懲戒処分の取り消しを求め、3月29日10時からストライキに入ることを会社に事前通知(※2024年4月23日追記 記事公開当初「経営側は経営環境の変化や競争の激化を背景に、労働条件の見直しを進めようとした」と記述しましたが、3月下旬の労使交渉の争議ではありませんので削除訂正しました)。

 しかし、《明日3/29のストライキは中止致します。会社がスト参加者に対して懲戒処分を検討する可能性があると言われてしまい、まずは組合員の安全を守ることが最優先であると判断いたしました。》(JCAのXへのポストより引用 ※3)とあるとおり、ストライキはいったん中止された。この状況下で、双方は相互理解に乏しく、解決の糸口が見えにくい状況にあった。

◆会社側の「奇襲」

 解決には双方が譲歩することが不可欠なのであるが、会社側は一歩も引かなかったように見える。会社側が団体交渉真っ盛りの3月29日正午開始の「記者レク」と称した記者会見の開催招集を報道陣にメール送信した。

 それは開始時間の何と1時間7分前という急なことだった。都内千代田区での開催であり、複数の報道機関は駆け付けることができたものの、これほどまでの急な開催は、異様な出来事だ。この訳を知るのは、もう少し後のことになる。筆者は都内在住であったので、執筆の手を止め会場にたどり着くことができた。この記者レクの様子をお伝えしたい。

 登壇者は、ジェットスター・ジャパン執行役員構造改革室人事・IT統括田中正和氏と人事本部長森川秀樹氏の2名であった。この記者レク開催にあたって、ムービーとスチール(静止画)の撮影全般が禁止されており、記者がPCへ会話内容を打ち込むカタカタという音だけが小さく響く状況の中で始まった。

◆ジェットスター「記者レク」で語られたこと

 会社側の発言要旨は次の通り。3月下旬の組合との団体交渉などの時系列の開催説明に加えて、組合側と合意できた内容は以下の通りと説明した。

1.残業代の未払いはシステムの不具合によるもので、改修され支払うことで合意した。
2.コロナ禍中の通勤費減額分(※4)は、2年以内に支払うことで合意した。
3.組合事務所の要求に関し、成田事務所のレイアウト替え中であり、調整して用意する。

(※4 記事公開当初、“通勤費未払い”と表記していましたが、謝りだったため訂正しました。2024年4月20日編集部追記)

 今回の組合側ストライキの最大の懸案事項であった、(組合の執行部でもある)機長1名の懲戒処分については「一連の組合活動とは関連しておらず、複数の社員からの長期間にわたる当該機長による複数の事例について、会社は慎重かつ公正に調査を行った結果、就業規則に反する重大な違反行為であることが認められた」とし、複数の社外専門家を交えたかたちで事案について検討を進めた結果、「パワハラ」を認定し、懲戒処分(※2)としたことを明かした。

 また、会社側はストライキの開催における事前告知のタイミングについては、会社の公共性にのっとり、大規模スト(15名以上)で48時間前、小規模(同未満)で前日18時までに通告することを組合側に要請したと報告した。

◆組合側に取材を申し込むが…

 筆者は組合側に3度ホームページの問い合わせから取材したい旨を申し入れたが、音沙汰は無かった。また、SNSのメッセージを通じても取材希望を伝えたが、返信は無かった。

 このような状態では、組合員の声を代弁しようもその術がない。組合側の記者会見は同日29日に厚生労働省の記者クラブで行われたようだ。会社側の記者レク開催は、直前だったことを説明した。

 会社側は、JCAの記者会見の開催と時を同じくするために取材陣を分散する手法を取ったものと推測される(JCA記者会見の時間が不明のため筆者私見)。ジェットスター広報部からは「事実として、報道関係者を分散させる意図は全くございません」と申し入れがあった。

◆血の滲むような労使間闘争の結果

 組合はX(旧ツイッター)などSNSやYouTubeチャンネルを使った告知を頻繁に行っているがどこまで活用ができているか未知数だ。

 筆者が知る限り、外資系エアラインで勤務する日本人パイロットからの激励の発信が多かった。彼らの中には国交省の日系エアラインに対する抑圧(私見)に耐え切れず、海外に出た優秀なパイロットも多いと感じている。

 彼らは一様に、JCAを真摯に応援している。ある機長は、米国のパイロットの過去の労使交渉を引合いに、現在のパイロットの地位向上は、過去の仲間の血の滲むような労使間闘争の結果に得られたものと説明した。

 JCAの報告に「そこには弁護士を立てなければ」とのアドバイスもあった。JCAはどこまで理解したのかは、連絡が取れていない以上知るよしもないが、マスコミを避けるのではなく、協力を仰いで味方にしてほしかったと考える。

◆競合「ピーチ アビエーション」の事例

 筆者は、この騒動がLCCで起きたことを懸念した。LCCだからコストを削減するために人件費まで削減したのでは、安全性を保つことはできない。そうであって欲しくないというのが偽らざる願いだ。

 そこで、同社のライバルになるピーチ アビエーションの実態を知るべく、同社広報部に確認すると、次の回答を得た。「弊社には組合組織はありません。社員の立候補による『社員代表』が存在し、会社側と定期的に待遇改善なども議題にし、改善を図っています」と聞かせてくれた。

 具体的な交渉内容を聞くと「過去には、有期雇用社員を無期雇用に変更した事例があります。また、コロナ禍での客室乗務員職は、仕事が蒸発したために、副業制度を設けました」と説明してくれた。

 同社は、客室乗務員の採用に経験は全く求めていない。「オーディション」と名付けた採用では、多職種からの応募があるという。それがコロナ禍では功を奏した。元の業種に戻って働くことのできた社員がいたのだ。ピーチアビエーションの社長以下執行役員も含めた人事政策はES(Employee Satisfaction=従業員満足度)の考え方が根付いているという。

◆エアラインに求められるモノとは

 前段にも述べた《明日3/29のストライキは中止致します。会社がスト参加者に対して懲戒処分を検討する可能性があると言われてしまい、まずは組合員の安全を守ることが最優先であると判断いたしました。》(JCAのXへのポストより引用 ※3)とストライキは回避された。JCAのXでは、懲戒処分(※3)を受けた機長1名は「いったん会社を去る」ことを決断したという。その後、同氏は個人でXを立ち上げ、発信を続けている。会社側は、事前通告の守られない正当性のないストライキについては懲戒処分を含めた対応をすると発言している。

 ジェットスター・ジャパンにおける労使交渉の解決には、双方の協力と相互理解が不可欠になるのだが、その兆しは見えない。その後の同社は、何事もなかったようにセール運賃の発表なども行っている。人のうわさも七十五日と言われる。

 現在は4月中旬でまだ労使の交渉終結から2週間強しか経過していないが、もうこの話題は巷のニュースから消えている。労使闘争が終結していないエアラインとESが保たれるエアラインのどちらの航空機に搭乗するほうがいいのだろうかなどと思われかねず、心配だ。

 世間では「持続可能な」という言葉が独り歩きしているが、こと労使関係で言えば、しっかり持続可能な関係を構築してもらいたいものだ。それでこそ、公益事業であり公共交通機関と言えるのだから。また、ジェットスター広報部からは「弊社にも社員代表は存在します。2019年から段階的に有期雇用社員の期間の短縮を図り、現在は入社後発令時から正社員になります。コロナ禍では弊社はキャビンクルーに副業の斡旋を行い、支援しました。弊社にも多職種経験者は多く存在します」と説明があった。

(※4)JCAのXのポストより。記事公開当初、同ポストの内容を筆者が「ストライキの参加者への解雇も辞さない」「正当性のないストライキ開始の場合は参加者を解雇する」と意訳して記述しましたが、JCAによる発言と誤解される恐れがあるため、記述を変更しました。なお、ジェットスター広報部から「当社が記者レクで説明した内容の追記を」と申し入れがあったため、以下、掲載します。(2024年4月20日追記)

「正当性のないストライキについては、懲戒処分を含めて対応を検討する旨を伝えました。

具体的には、会社は組合に対し、ストライキについてはフェアプレーの原則が妥当し、事前通告をしたうえで実施すべきであるが、当社事業が公益事業であることからすればなおのこと、公益事業者・公共交通機関としての社会的責任を尽くした対応をするために必要となる時間的余裕をもって参加者を含むストの内容を通告すべきであることを繰り返し要請していました。

このような要請を行った経緯としては、昨年12月のストライキの際に組合との間において、ストライキの事前通知について『14名以下の場合は前日18時まで、その他は開始48時間前までに行うこと』を合意し、実際にこのルールに則ってストライキが行われていましたが、今回のストライキ直前の事務折衝において、組合がこの約束を一方的に否定し、予告なくストライキを行うことを示唆したことから、このような要請を行っていたものです。

この要請において、会社としては、フェアプレーの原則に反し、当社が公共交通機関としての社会的責任を全うすることを阻害するような態様のストライキについては、懲戒処分を含む厳しい対応を検討することになる旨を述べただけであり、『正当性のあるストライキを行った場合にも懲戒処分をする』ということは述べていません」

<TEXT/北島幸司>

【北島幸司】
航空会社勤務歴を活かし、雑誌やWEBメディアで航空や旅に関する連載コラムを執筆する航空ジャーナリスト。YouTube チャンネル「そらオヤジ組」のほか、ブログ「Avian Wing」も更新中。大阪府出身で航空ジャーナリスト協会に所属する。Facebook avian.wing instagram@kitajimaavianwing

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  • 昔の日本は「左翼的な思想で過剰にストしまくってた」印象で、今の日本は「やたらと飼いならされて、不当すぎる環境でもストしなさすぎ」って印象。
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