トライアル、Amazonも開発 スマートショッピングカートがもたらす、真の顧客価値とは?

0

2024年04月19日 08:41  ITmedia ビジネスオンライン

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmedia ビジネスオンライン

小売業各社が導入するタブレットカートの特徴は? 写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

 スーパーのショッピングカートにタブレット端末が搭載された「タブレットカート」を導入する店舗が、日本国内でもじわじわと増えています。カートに取り付けられたスキャン機能の付いたタブレット端末で、来店客自らが購入する商品の登録作業を行い、カートもしくはレジで決済作業をする仕組みです。


【その他の画像】


 前回の連載記事「万引は防げるか? セルフレジの発展系『Scan&Go』が伸び悩むワケ」では、自身のスマートフォンをレジ代わりに、セルフ会計ができる「Scan&Go」の大きな課題として、万引や意図せぬスキャン漏れなどの課題がある現状を紹介しました。


 タブレットカートを導入している小売業各社は、これらの課題をさまざまな手段で解消しようとしています。今回は、九州に本拠を置くスーパー、トライアルの「スマートショッピングカート」や、AmazonのAIレジカート「Amazon Dash Cart」など国内外のタブレットカートを紹介します。それぞれ、どのような特徴があるのでしょうか。


●著者プロフィール:郡司昇(ぐんじ・のぼる)


20代で株式会社を作りドラッグストア経営。大手ココカラファインでドラッグストア・保険調剤薬局の販社統合プロジェクト後、EC事業会社社長として事業の黒字化を達成。同時に、全社顧客戦略であるマーケティング戦略を策定・実行。


現職は小売業のDXにおいての小売業・IT企業双方のアドバイザーとして、顧客体験向上による収益向上を支援。「日本オムニチャネル協会」顧客体験(CX)部会リーダーなどを兼務する。


公式Webサイト:小売業へのIT活用アドバイザー 店舗のICT活用研究所 郡司昇


公式X:@otc_tyouzai、著書:『小売業の本質: 小売業5.0』


●トライアル「スマートショッピングカート」の特徴は?


 タブレットカートがScan&Goと大きく異なるのは、カートに各種センサーを付けることで、スキャン漏れを防いでいる点です。


 トライアルグループは、九州エリアを中心にスーパーセンターの形態で事業を展開しています。スーパーセンターは、食料品や衣料品、住居品などをワンフロアで提供し、1カ所のレジで全商品を購入できる小売の形態です。


 同社では「スマートショッピングカート」と名付けたタブレットカートを自社開発しています。スマートショッピングカートでは、カートに組み込まれたタブレットとスキャナーを利用して買い物します。


 このカートは主に次の3つの機能を備えています。


1) スキャンした商品の合計金額をリアルタイムで把握できる


2) 関連商品のクーポンを提示できる


3) オリジナルのプリペイドカードに事前に現金をチャージしておくことで決済できる


 買い物行動は大きく2つに分けられます。計画購買と非計画(衝動)購買です。店頭での非計画購買を促すことは、客単価の向上に直結し、同時に顧客体験の向上にも寄与します。


 小売業界では、人手不足の中で、顧客自身がセルフスキャンするシステムが注目されています。しかし、スマートフォンでのスキャンは手元に集中しないと難しいため、棚から目を逸らすことになります。このため、純粋な衝動購買の機会を減少させる可能性があります。


 また、スマートフォンを持つと手が塞(ふさ)がるため、買い物かごやカートを使う客が少ない低単価業態での利用には不向きです。


 トライアルのスマートショッピングカートは、これらの課題に対応しています。固定された専用のバーコードスキャナーは、汎用のカメラを利用するスマートフォンよりも使いやすく、手が塞がりません。さらに、スキャンした商品の関連商品を表示するレコメンド機能や、レジカート限定のクーポン配信などもあり、非計画購買を促進します。また、カートを使用することで手が空き、商品数が増えても重く感じないため、持続して買い物でき、客単価が2割程度向上する可能性があります。


 店内でのセルフスキャンで重要な課題となる万引や、意識しないスキャン漏れの防止については、2点の工夫がされています。


万引やスキャン漏れを防ぐ2つの工夫


 まず、カートに組み込まれたセンサーによるスキャン漏れの検知機能です。顧客が商品をスキャンせずにショッピングカートの収納部に入れると、このセンサーが反応し「商品のスキャン忘れはありませんか?」というアラートを表示します。このようにして、無意識のスキャン漏れや意図的な万引の減少を狙っています。万引については抑止効果を期待する程度ですが、無意識のスキャン漏れについては効果的であると考えます。


 もう一つは、買い物の最終段階で行われる店員によるチェックです。顧客が購入したい商品をすべてスキャンし終えた後、レジカート専用のゲートに向かい、レジ担当スタッフのチェックを受けます。このチェックは、買い物かごの中身と登録された商品の内容が一致しているかを確認するためのものです。


 初期のオペレーションは購入点数を全て確認していましたが、その後、顧客ごとに店員用画面にチェック個数が表示されることで、数秒で完了するようになりました。プリペイドカードは顧客ごとのユニークなIDが振られるので、その時の買い物内容だけでなく、過去の購入履歴なども計算に入れながらチェック個数を設定しているのではないかと推測します。


●商品を放り込むだけで購買完了する「Amazon Dash Cart」


 筆者はコロナ禍中の2020年7月に発表されたAmazonのAIレジカート「Amazon Dash Cart」を22年に米シアトルで実際に体験しました。


 Amazon Dash Cartは、来店客が自身で商品をスキャンし、迅速にチェックアウトできるScan&Go型のサービスです。このカートには以下の3つの特徴があります。


1) バーコードスキャナー:カゴの中の4方向に設置されたカメラによりバーコードを読み取ることができ、バーコードの向きを気にせずに商品をカゴに入れることができる


2) 画像認識による商品判別:カメラには画像認識機能が備わっており、バーコードが読み取れなかった場合にも画像識別AIにより商品が登録できる


3) 重量センサー:高精度の重量センサーが搭載されており、重量で価格が決まる商品を正確に測定できる


 Amazon Dash Cartは、Amazonアプリの自分の買い物用二次元コードをスキャンして利用します。アプリに登録されたクレジットカードで決済するため、レジでの作業や店員によるチェック作業は存在せず、専用レーンを通ってそのまま帰ることができます。


 トライアル同様に、買い物カゴではなくカートを使用することで、客単価が増加する可能性があります。また、Amazonアプリの買い物メモやネットも含めた購入履歴とも連動しており、オムニチャネルでパーソナライズされた販促を行うことができます。


 マイバッグをカートに入れておけば、荷物の入れ替えが不要になり、すぐに持ち帰ることが可能です。店側にとっては荷づくり作業台のスペースが不要になるメリットがあります。


 Amazonアプリからコードを表示してカートでスキャンする仕組みにより、不正利用を抑制することが可能です。不正利用をした場合、ネット通販でも利用するAmazonのアカウントを停止できることが抑止効果を生んでいます。


 仕組み自体はAmazonが最も優れたものを作り上げていると筆者は考えます。バーコードの位置を意識せずに欲しい商品をカートに放り込むだけで購買が完了する顧客体験は他では味わえないものです。


 弱点としては、ハードが高額であることと、かなり重いということがあります。現在はセンサー類を絞り込んで軽量化した第2世代になっています。


●買い物の体験価値をアップデートした「Caper Cart3」


 店舗でのピックアップやデリバリーの代行業者として知られる米国のInstacart(インスタカート)という企業があります。同社は21年にCaper AIという、リアル店舗の会計を自動化する技術を開発するスタートアップ企業を約500億円で買収しました。


 筆者はCaper AIが開発したAIレジカートの新バージョンを23年9月に体験してきました。最初に導入されたのはCaper AIがある米ニューヨーク州マンハッタンから南西に位置するニュージャージー州のスーパーマーケット、ShopRite Spotswood店です。


 「Caper Cart3」はAmazon Dash Cartと同様に、スムーズな買い物体験を提供する仕組みです。Caper Cart3では、カート四方に設置されたカメラと重量センサーにより、商品のバーコードや重量をチェックし、来店客はスキャンを意識せずに買い物ができます。


 Caper Cart3とAmazon Dash Cartの大きな違いは、Caper Cart3では画像認識機能がなく、バーコードが読み取れない場合に、撮影された画像と同時にエラーが表示される点です。また、決済作業をセルフレジ端末で行う必要があります。レジでの決済については、タブレットの会計ボタンを押した後にタブレット上に表示されるバーコードをセルフレジでスキャンするだけです。筆者はVISA Touch決済を選んだので、数秒で決済が完了しました。


 また、Caper Cart3は非会員でも使用でき、利用のハードルを下げています。


 Caper Cart3の特徴的な要素として、特定の購入額に達するとルーレットが回り、購入意欲を高める仕組みがあります。会員カードをスキャンした買い物で35ドルを超えると割引などのインセンティブを得ることができます。筆者が35ドルを超えて購入した際には、5ドルの割引が当たりました。このような体験は、カートをさらに活用しようと思わせる非常に魅力的な仕組みだと感じました。


 日本のアプリなどでも決済後に抽選が行われる一見似たような取り組みは見受けられますが、決済作業後ではなく、店舗での買い物中、商品を購入した瞬間にタブレット上でルーレットが回るという体験は新鮮でした。買い物をしている最中に楽しいイベントが生じることで、さらに会員カードの作成や専用カートを使用することに魅力を感じると思います。


 例に挙げたタブレットカートは、レジ担当者を減らそうという単なる効率化を追求するデジタル導入よりも、買い物そのものの楽しさや体験価値の変革に重点を置いたDXです。


 大きな投資のかかる取り組みであるため、簡単に普及する可能性は低いですが、あるべき姿の一つと考えます。


    ランキングIT・インターネット

    アクセス数ランキング

    一覧へ

    話題数ランキング

    一覧へ

    前日のランキングへ

    ニュース設定