進学や就職、転勤など、環境の変化に合わせて引っ越しする人は多い。最近は物価高騰による都内の賃上げが話題だが、引っ越しに成功する人もいれば、失敗してしまう人もいる。
◆憧れの東京ライフのはずが…
上京してきたばかりの金井みかさん(23歳・仮名)は、飲食店でアルバイトをしながら、地下アイドルグループの研究生として活動している。だが、「憧れの東京ライフでしたが、あと2年は我慢の日々になりそうですぅ」と半泣きだ。
一体、彼女はどうしたんだろうか?
「アイドル活動で都心に行くことが多いので、都心部で尚かつ駅から離れていなくて、セキュリティがしっかりしているところを探しました」
当初は駅から徒歩5分圏内、風呂トイレ別、できれば新築、3階以上、1LDK、家賃は8万円以内を希望していたみかさんだったが……。
「不動産屋に笑われました。『そんなの事故物件しかないよ』って。そこですすめられたのが、今住んでいる“激セマ物件”なんです」
◆流行の“激セマ物件”は「完全に物置」
激セマ物件とは、その名の通り、とにかく狭すぎる物件のことを指すが、これが一部若者の間では流行っているんだとか。
「本当に狭いけど、それ以外はパーフェクトなんですよ。今の家は湯船はないですが、シャワー室があって、トイレは独立。駅から徒歩3分、オートロックの4階で新築、家賃は月7万6000円。でも、部屋は6畳のワンルーム、収納なしです」
確かにこれで1Kの8畳であればかなり良いが、ワンルームだと考えるとかなり狭い。
「最初は悩んだんですが、不動産屋の担当の方が『今は激セマ流行ってるよ!インテリアも工夫次第だよ!』と、たくさんSNSを見せてくれて、それが予想以上に可愛かったりおしゃれだったりしたので、この家に決めました」
キッチンを入れて6畳のスペースに下が収納スペースになっているシステムベッドがドカンと置かれて、入り切らない荷物はそこら中に重ねてある。大人が1人座れるスペースがあるかないか……。正直なところ、住み心地は良さそうではない。
「もう完全に物置です。私はインテリアのセンスもないし、その前に掃除が大の苦手だから、収納がない狭い部屋なんて無理だった。見せてもらったInstagramを見る限りはすっごいおしゃれだったんだけどな」
今は、家の更新がある2年後に引っ越しするべく「早く正規メンバーになってチェキのバック率を上げないと!」と意気込んでいる。
◆“悠々自適な一人暮らし”の欠点
1LDKの新築マンションで悠々自適な一人暮らしをしている篠崎真央さん(26歳・仮名)は、先ほどのみかさんとは真逆で広くておしゃれな家に住んでいるにもかかわらず「引っ越しに失敗した」と嘆く。
「今の家の家賃は8万円で、新築、風呂トイレ別、カウンターキッチンに食洗機付き。インテリアにもかなりこだわっています」
そういいながら写真を見せてもらったが、インテリア雑誌に載っていてもおかしくないクオリティの部屋だ。家具の色調が揃えてあり、収納が大きいからか荷物がほとんどなく生活感が全くない。
「自分が満足できる空間をつくれた自負はあります」
当然だが、彼女のSNSのインプレッションはすごい。だが「大きな欠点がありました」と話す。それは……。
「場所です。私の家の最寄り駅は、都心部から電車で約40分。さらにそこから徒歩15分。バスはありますが終バスも早いので、飲んだ帰りは絶対、徒歩になります。だから、こんなにインテリアにこだわって、気に入る部屋をつくっても誰も遊びにこないんですよ(泣)。みんな私のInstagramを見て『オシャレだねー! 今度遊び行きたい!』とはいうけど、実際にきたのは親友1人だけです」
真央さんは付き合って3年の彼氏がいるそうだが「彼も1回しかきたことがない」という。
「彼は都心から電車で10分くらいのところに住んでいるので、週末に私の家までくると、帰るのが面倒だからっていうんです。実際、私も残業で遅くなった時は彼の家に泊まるし、忙しい時期は着替えを取りに帰るだけになっています」
◆“何のためにここまでこだわったのか?”と虚しくなる
真央さんが苦笑する。
「私の希望条件と家賃では都心から離れていなければ難しいっていうのはありましたが、フルリモートで都心に行かないならまだしも、やっぱり通勤は大変だし、誰も遊びにこないし、インテリアには満足だけど、ふと冷静になると“一体何のためにここまでこだわったのか?”と虚しくなります」
今の彼とは結婚する予定があるそうで「次は私の一存では決められない」という真央さん。「次はこだわりすぎないで、生活のことも視野に入れて部屋探しをしなきゃなぁ」とのこと。
いくらでも家賃が払えるのであれば希望通りの物件に住むことは可能だろうが、現実としてはなかなか難しいものだ。予算・立地・間取りを考えると、必ずどこか妥協しなければならない。理想の家に住むためには、たくさん働くしかないのかもしれない。
<取材・文/吉沢さりぃ>
【吉沢さりぃ】
ライター兼底辺グラドルの二足のわらじ。著書に『最底辺グラドルの胸のうち』(イースト・プレス)、『現役底辺グラドルが暴露する グラビアアイドルのぶっちゃけ話』、『現役グラドルがカラダを張って体験してきました』(ともに彩図社)などがある。趣味は飲酒、箱根駅伝、少女漫画。『bizSPA!フレッシュ』『BLOGOS』などでも執筆。X(旧Twitter):@sally_y0720