クルマの“顔つき”はどうやって決まる? デザインに表れる思惑とは

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2024年05月03日 08:41  ITmedia ビジネスオンライン

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クルマの“顔つき”はどうやって決まるのか

 街を走るクルマを眺めていると、「いかにもそのブランド」という、分かりやすいフロントマスクのクルマを見かけることが多い。そうかと思えば、同じボディなのに全く異なる顔つきをもつクルマや、同じメーカーとは思えないほど印象が異なるクルマも少なくない。


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 フロントマスクはクルマを最も印象付けるものであり、売れ行きを左右するほど重要な要素だ。それだけに自動車メーカーもデザインに力を入れる部分となる。したがって、フロントマスクにはさまざまなメーカーの思惑が存在する。


 端的に言えばこれは、ブランド戦略の違いによるところが大きい。メルセデス・ベンツやBMWといったドイツの老舗メーカーは、伝統を強みにエンブレムやフロントマスクをアイコンとしてブランドイメージを強調するビジネスを展開してきた。


 今ではほとんどの自動車メーカーが採用している、ボディ後端のトランクリッド中央にエンブレムを掲げるデザインも、この2大ブランドが始めたものだ。


 日本では、ミニバンや軽自動車などにギラついた大きなフロントグリルを与えたクルマも多い。オラオラ顔とも表現される。堂々とした顔つきを好む層が一定数存在するのだ。こうした文化も元をたどれば、こわもてのドイツ車に憧れるユーザーの心理を利用したものでもあると言えそうだ。


●継承なんてくそ食らえ、というブランドも


 ブランドイメージを浸透させるため、共通したフロントグリルなどのデザインを導入するメーカーが多い一方で、世代ごとにイメージを一新して、新しさをアピールするブランドもある。これはフランスの自動車メーカーに多く見られるもので、プジョーやシトロエンはそんな傾向が顕著であるし、ルノーにもそんな傾向が見られる。


 芸術的なセンスでクルマを生み出すお国柄なため、常に斬新さを求め、今までのイメージを自ら打ち壊すことを厭(いと)わない、そんな気概を感じさせるのだ。


 イタリアのメーカーはさらに自由で、メーカーとしてブランドイメージの共通化やデザインモチーフの継承なんてどうでもいい、と思っているのではないだろうか。


 フィアットなんてエンブレムもコロコロ変えるくらい、伝統よりもその時のデザイン性にこだわっている印象だ。フィアット500は自身の遺産としてリバイバルされているが、それ以外は先代の面影を感じさせるモデルを見つける方が難しい。例外はアルファロメオの盾型フロントグリルくらいだろうか。


 フェラーリやランボルギーニはスーパーカーとしてのアイデンティティーを確立しており、シルエットやディテールなどで伝統を感じさせる必要があるが、ニューモデルには斬新さも必要だ。そのためにフロントマスクで新しさを印象付ける、というのも定番の手法になりつつある。


●日本の自動車メーカーも方針はさまざま


 日本ではマツダがここ10年ほど、デザインモチーフの共通化を進めてきた。それまではミニバンやピックアップトラックなども販売してきたが、ハッチバックとセダン、SUVとスポーツカーだけにラインアップを絞り込み、それ以外はOEM(相手先ブランドによる生産)の体制を採っている。


 マツダが「魂動デザイン」と呼ぶ、精悍(せいかん)さと日本らしさを感じられる凜とした趣、しなやかさも伝わってくるフォルムやディテールは国内外で人気を博している。


 スバルもヘッドライトやフロントグリルでシリーズの統一感を生み出している。デザイン哲学もあり、現在は「BOLDER」と呼ぶソリッドでカタマリ感のあるエッジの効いたイメージを展開しており、メカニズム以外にもスバルファンを増やしているようだ。


 トヨタは現在、販売チャネルごとの専売車種を撤廃し、全車種販売となった。そのため顔を変えただけの双子車や三つ子車は作りにくくなったことから、より1車種をじっくり作ることになる。


 ところでトヨタはここ最近、「ハンマーヘッド」と呼ぶヘッドライトデザインを展開し、さまざまなカテゴリーで採用を増やしている。だが、これはマツダのように全てに浸透させるのではなく、ある程度の範囲の車格にとどめて採用している。


 コンパクトカーから超高級車まで同じデザインモチーフを採用することは、デザインの陳腐化につながり、超高級車を台無しにし、コンパクトカーのコストを上昇させるだけだからだ。また人気車種も多いトヨタは、そのモデルごとにキャラクターが確立しており、そのキャラクターの継承もフロントマスクのデザインを多彩にしている。


 一方、高級ブランドのレクサスはスピンドルグリルを全車に採用し、アイデンティティーを明確に押し出している。


●軽自動車はバリエーション豊富


 日産も「Vモーション」と呼ぶV字のディテールをフロントマスクのモチーフとして採用しているが、最新のデジタルVモーションなどを見ると、デザインの継承度合いは意外と低い。ルノーの影響は薄くなったと思われるが、日本車らしからぬ感覚を感じさせる。


 三菱の「ダイナミックシールド」もRV系に限って採用されているデザインだ。多眼式のヘッドライトと大きなフロントグリルにより、きらびやかで堂々とした印象を与える。


 これは好き嫌いは分かれるが、印象に残るフロントマスクだ。デリカD:5の現行モデルはデビューからすでに17年目となっているが、エンジンをクリーンディーゼルに切り替え、フロントマスクを一新することで、商品としての鮮度を維持しようとしている。


 スズキやダイハツといった軽自動車メーカーの場合は、かなり特殊だ。そもそも販売台数が多いだけでなく、同じ車種でも異なる顔つきを与えてバリエーションを増やしている。


 地方では軽自動車が移動の足として使われており、一家に1台ではなく1人1台の使われ方をしており、男女や年齢層で好みも分かれるので、バリエーションが求められるのだ。○○カスタムなど、一つの車種でも仕様を変えたモデルを用意する。それもフロントマスクの差別化がいちばんの狙いだ。


●フロントマスクへの制約は増加


 フロントマスクが規制や機能で制約を受けることも現代のクルマでは増えてきた。昔は空気抵抗やヘッドライトの照射範囲、5マイルバンパー(米国の安全基準で5マイル=時速8キロまでの衝突であればバンパーが衝撃を吸収する構造)などの問題くらいで、デザインに対する制約は少なかった。


 現在のヘッドライトは、プロジェクターランプやLEDランプにより小型・薄型になってデザインの自由度は高まっている。ただし、衝突安全性のためにボンネットやバンパーにはさまざまな制約が課せられるようになった。


 ボンネットは衝突時に衝撃を吸収するようエンジンとの空間が義務付けられているし、バンパーエプロン部分も歩行者を巻き込まぬよう一定の突き出しと強度が求められる。対歩行者対策としてダメージを最小限に抑える工夫がされているのだ。またミリ波レーダーなど衝突を防ぐためのセンサー類の配置も範囲が限られる。


 空気抵抗を抑えるためにラジエターグリルの開口を小さくしたり、グリルシャッターを設けて空気の流入を調整したりするクルマも増えている。その上で、フロントマスクがデザインされているのである。


 もっともフロントマスクに限らず、誰にでも好まれるデザインに仕上げることは極めて難しい。人の好みはさまざまで、デザインの評価は分かれるからだ。いかに優れたデザインでも、好みが分かれることはある。


 前述のマツダの魂動デザインにしても「最近のマツダ車はどれもカッコいい」と思う人もいれば、「最近のマツダ車はどれも同じように見える」(=区別がつかず好きではないという意味)という人もいるようだ。


 万人に受け入れられるようにするには、当たり障りのないデザインにするしかなく、それでは熱烈なファンを生みにくい。かつてのトヨタが80点主義というクルマ作り(デザインだけでなくクルマ全体の開発や生産)を行っていたのは、無難な作りとすることでアンチを生まず、コストもかけすぎないでリーズナブルなクルマを提供するのが目的だった。


 それを経て、現在のトヨタは大胆なデザインも取り入れて、こだわったクルマ作りを進めている。ハイブリッド技術など、他社にはない強みを持っていても、やはりフロントマスクをはじめとするデザインも重要なのだ。


 中国の新興メーカーなどは、欧州車や日本車のデザインを模倣しているケースもあるが、しっかりとしたメーカーは外国人デザイナーを雇い、独自の優れたデザインを作り上げるようにもなってきた。


 今後EVが増え、また自動運転技術が高度化して普及していくと、クルマの顔つきは変化していくだろう。それぞれの自動車メーカーの姿勢がフロントマスクには表れるはずだ。


(高根英幸)


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  • ヘッドランプが異形になってから威嚇するような顔かつ似たような顔になってきているね。標準の丸眼・角眼の頃の方が穏やかで個性的だったと思うよ。
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