なぜ「案内所+バス」にベッドを置いたの? 東海バスが宿泊施設を始めた背景

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2024年04月23日 06:41  ITmedia ビジネスオンライン

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バス案内所が宿泊施設に。どんなところ?

 えっ、そこに泊まるの?――。そう感じるホテルが、日本にもいくつかある。


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 アラビア文化を体験できるところであったり、モンゴルの遊牧民が使っている「ゲル」に泊まれたり、自転車に乗ったままチェックインができたり。このほかにも、ユニークなホテルがあるが、またひとつエッジがたった宿泊施設が登場した。その名は「ばすてい」だ。


 小田急電鉄グループの傘下で路線バスを運行する東海自動車(以下:東海バス、静岡県伊東市)が運営していて、施設の特徴はバスの案内所を改装したこと。築74年の「宇久須(うぐす)案内所」を閉鎖するにあたって、「取り壊すのはもったいないよね。何か新しいことはできないかなあ」といった発想から生まれたものだ。


 「ばすてい」がオープンしたのは、2023年11月のこと。このスペース(床面積は71.9平方メートル)にどんなモノを追加すれば、宿泊施設として機能するかを議論して、同社の担当者は次のようなカタチに変更した。


 待合室だった場所は手をほとんど加えず、飲食ができるダイニングルームに。案内所のカウンターと事務所だったところに調理器具を備えたキッチンにしたことで、宿泊者は食材を持ち込んで調理を楽しめるようにした(事前に予約すれば、海の幸を盛り込んだ食材セットも可能)。また、倉庫として使っていた部屋をベッドルーム(ベッド2台)にして、浴室やトイレなどを設置した。


 「案内所に泊まれるようにしただけなのね。インパクトがちょっと足りないのでは?」などと思われたかもしれないが、実は案内所の横に路線バスを設置している。バスは1999年から2023年4月まで、実際に東海バスで走行していたもの。「通常、古くなった車両は廃車にするケースが多いのですが、案内所の隣にバスを停めることで、さまざまな体験を提供できるのではないかと考えました」(同社事業部の土屋咲季さん)


●「宿泊施設」決定まで


 かつて伊豆半島各地を走っていたバスは、当時のレトロカラーに塗装して、車両の中央から後方の座席を撤去し、3台のベッドを設置した。クラクションとライトは取り除いたものの、運転席に座ってハンドルや行先表示ボタンの操作を楽しめるようにした。


 「ばすてい」にスタッフは常駐していない。「宿泊の予約→チェックイン→チェックアウト」といった一連の手続きは、インターネットで完結する。予約時にカギの暗証番号とチェックインに必要なコードが届く、といった仕組みである。宿泊料金は1泊3万4000円からで、最大5人まで受け入れている(1日1組限定)。


 予約を受け付けたのは、2023年11月10日の午後12時から。「まだかまだか」と待ちわびていた人もいたようで、受け付けがスタートして数分後に予約が入った。オープンから6カ月近くになるが、土日を中心に幅広い層が利用しているという。「観光客またはバスファン」どちらが多いのか尋ねたところ、いまのところ「バスファン」の利用が目立っているようだ。


 それにしても、東海バスはなぜ“畑違い”とも言える事業を始めたのか。「宇久須案内所」はかつて、鉄道との直通乗車券を販売していたことから、地元住民からは「宇久須駅」と呼ばれていた。1950年に生まれた建物をこのまま壊すのはもったいないと考え、同社は3つの案を絞り出した。


 1つは、物件を貸し出すこと。建物を壊して、そこに新しい物件を建てるのはどうかというアイデアだ。賃貸での収益を得ようとしたが、広さに問題があった。冒頭でも紹介したように、延べ床面積は71.9平方メートルしかないので、大きな物件を建てるのは難しく、実現を断念した。


 2つめは、カフェを始めること。同社は数年前にレストラン事業を始めているので、飲食業の知見はある。しかし、商圏の人口は少ないので、利用者はそれほど多くはないかもしれない。採算が合わないのではないかとソロバンをはじき、この案も却下。


 そして、3つめが宿泊施設である。地元の人が利用するカフェではなく、外から観光客を呼び込むことはできないか。地域活性化を狙って、いまの案に決定した。


●ネーミングは天から降ってきた


 バスの案内所を宿泊施設に――。耳慣れない言葉だが、これまで同じような事例はあるのか。「事業を始める前に調べたところ、かつて山梨県のキャンプ場で、とある会社が古くなったバスを持ち込んで、その中で泊まれるようにしていました。バス会社が案内所とバスを使って宿泊施設を運営しているケースはなかったですね」(土屋さん)


 ちなみに、施設名の「ばすてい」は、コンセプトの“バスと過ごす(ステイ)”から、「バス」と「ステイ」を合わせて「ばすてい(バス停)」とした。社内で何度も議論して決めたのかと思いきや、生みの親は別の部署で働く女性だそうだ。


 「ネーミングは天から降ってきたようで(笑)。社内からこれ以上の案が出てこなかった、いや、出てきそうにもなかったので『ばすてい』という施設名にしました」(土屋さん)


(土肥義則)


このニュースに関するつぶやき

  • 昭和の時代廃車になったSLを寝台客車を「SLホテル」にしたところがちょっとしたブームになってたけど、消え去ったところが多いようだ。腐蝕防止のための維持管理が馬鹿にならないんだよね。
    • イイネ!13
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