町田ゼルビアの「ロングスロー」は悪ではない 問題はやられるJリーグの守備と全体のレベル

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2024年04月24日 10:50  webスポルティーバ

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 FC町田ゼルビアが初のJ1ながら意気軒昂に首位を走っている。

 その代名詞のひとつになっているのが、スローインだろう。ゴール前にロングスローを投げ入れ、そこで混乱を生み出し、相手にストレスを与えながら、時にゴールを仕留める。「手を使わない」がフィールドプレーヤーの原則であるだけに、「邪道」「卑怯」のように言われることもある。しかし、それはリスタートのひとつであって立派な戦術だ。

 青森山田高校を率い、スローイン戦術で旋風を巻き起こしてきた黒田剛監督が、Jリーグに「一石を投じた」と言えるのではないか――。

 スローインは、工夫によって優位に立つことができる。たとえばクイックでリスタートすることで、オフサイドにかからずに敵陣の奥深くまで侵入することができる。あるいは、たとえ全員がマークされていても、スローワーは瞬間的にフリーになるため、戻したボールを受け、そこから展開することができる。また、町田が得意とするように、ゴール前にロングスローを入れることで、フリーキック、もしくはコーナーキックに近い現象を起こせるかもしれない。

 スローインは起点になるプレーであり、侮ってはいけない。だが......。

 欧州のトップレベルにおいて、スローインで戴冠した、というような例はない。その過程でスローインがひとつの要素になっていたとしても、あくまで一部にすぎない。

 たとえば世界に冠たるレアル・マドリードには、いくつもの得点パターンがある。ヴィニシウス・ジュニオールの突破力、ロドリゴのゴールセンス、フェデリコ・バルベルデのパワー、そしてジュード・ベリンガムの帝王のような存在感。それぞれが高い強度のなか、"止める、蹴る"の質が出色で、怒涛の勢いで攻撃を組み合わせ、ゴールに迫る。

 そしてそれが、欧州でロングスローが主要武器にならない、単純な理由だ。

 ロングスローは、どれだけFKやCKに近くても、同等にはならない。トップレベルのキッカーのクロスと比べたら、数段、劣る。そこでスローインを直接入れるよりも、しっかりと味方につなげた後、ドリブルで切り込んだり、コンビネーションで崩したり、あるいは出力最大のミドルシュートを打ち込んだり、精度の高いプレーを選択することになる。

【スローインは一種のギャンブル】

 翻って言えば、町田のロングスローは、Jリーグにおける守備の緩さをうまくついている。

 Jリーグのディフェンスは、マンマーキングにせよ、ゾーンにせよ、欧州のトップクラスと比べると寄せが甘い。そのため、スローインの回数をこなすことで、アクシデントを起こす確率を上げられる。Jリーグ全体の傾向としてクロスの回数が少なく、質も低いので、ディフェンスが放り込みの対応に不慣れなのも重なっているか。

 ロングスローは、瞬間的にゴール前で五分五分の状況を作り出せる。どちらのボールでもない。クリアされたとしても、シュートを打ったとしても、あるいはどちらでもなくこぼれるとしても、フィフティフィフティの確率を持ち込み、ふたつにひとつで挑める。

 町田は、自らがボールをつないで関係性を作って攻め込むよりも、最短距離を狙ったパスを打ち込む。たとえそれが失敗しても、敵陣でプレーを起動させている。そうやってリスクを減らし、再びリターンを狙う。そこの確率に迫った戦い方を信条とし、いわばギャンブル的な要素にかけており、スローインはその象徴と言えるだろう。

 パスサッカー主体のバルセロナは、その手の確率論を持ち込まない。「自分たちがボールを持って能動的に崩す」というコンセプトで、相手にボールを預ける可能性があるロングスローなど選択肢から外される。ジョゼップ・グアルディオラ監督が率いていた時代は、CKさえ蹴り込まず、ショートパスでつないでからあらためて崩していたほどだ。

 町田はその"運"をつかむため、強度、粘度のあるファイトをするチームと言えるだろう。相手を嫌がらせ、わずかでも優位に立つ。その点で練度が高く、どちらに転ぶかわからないプレーに身を投じながら、能動性を捨てる"縛り"によって、プレーの強度を最大限まで高めている。

 今のところ、J1で戦ってきたチームはことごとく町田の戦いに及び腰になって、次々に敗北を重ねている。それは言い換えれば、「乗り越えるだけの技術、スピード、コンビネーションが足りない」ということだろう。それがJリーグの現状だ。

 冬の高校選手権ではロングスローが強力な武器になっている。その理由は、対応するだけのゴール前の強度が足りないし、相手をねじ伏せる技術がないことにもある。高校の部活では、11人全員のレベルが揃っているチームは存在せず、綻びが出る。

 一方で、欧州最高峰のチャンピオンズリーグのベスト8を巡る攻防では、インプレーの時間が多く、息を呑む攻防が続く。お互い、無数の駆け引きがある。スローイン以外の解決策があるのだ。

 Jリーグが次のフェーズに入るためには、ロングスローの是非を問うている場合ではない。

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