富士通とNECの最新受注状況から探る 「2024年度国内IT需要の行方」

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2024年04月30日 13:21  ITmediaエンタープライズ

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左から富士通の時田氏、磯部氏

 2024年度(2024年4月1日〜2025年3月31日)の国内IT需要の動きはどうなるか。国内ITサービス事業大手の富士通とNECが相次いで発表した2023年度(2023年4月1日〜2024年3月31日)の決算から、通期および第4四半期(2024年1〜3月)の受注状況と、それを踏まえた2024年度の業績予想をチェックしながら、両社の見立てを探ってみた。


富士通とNECの最新受注状況から探る 「2024年度国内IT需要の行方」


●富士通は2024年度国内IT需要をどう見ているか


 富士通が2024年4月25日に開いた決算会見では時田隆仁社長 CEOと、磯部武司副社長 CFO(最高財務責任者)が説明した。時田氏は2024年度に向けた思いとして、「引き続き事業モデルの変革を進め、サービスソリューションを中心として全社の収益性拡大を目指したい」と述べた。なお、本稿では同社の「サービスソリューション」をITサービスとして扱う。


 同社が発表したITサービスにおける国内受注状況は、通期および第4四半期とも前期比116%と好調に推移した。業種別では、エンタープライズビジネス(製造業などの産業・流通・小売)が通期で同107%(第4四半期で同106%)、ファイナンスビジネス(金融・保険)が同115%(同104%)、パブリック&ヘルスケア(官公庁・自治体・医療)が同119%(同103%)、ミッションクリティカル他が同127%(同149%)と、いずれも伸長した(図1)。


 この受注状況について、磯部氏は業種ごとの動きも合わせて次のように説明した。


 「国内のビジネスは広い範囲で好調に推移している。受注はこの1年、四半期ごとで見ても二桁成長を続けている。エンタープライズビジネスはモダナイゼーション案件を中心に製造やモビリティ、リテール分野がけん引した。ファイナンスビジネスはメガバンクや保険業界のお客さまにおいて、基幹システムの更新やモダナイゼーション案件を多数獲得できた。パブリック&ヘルスケアは電子カルテや医療情報システムへの投資が好調に推移した。ミッションクリティカル領域ではナショナルセキュリティの大型商談を複数獲得し、2022年度の高い水準をさらに上回った」


 富士通はこうした受注状況を踏まえ、2024年度の業績予想を明らかにした(図2)。サービスソリューションでは、売上高に相当する売上収益として前年度比4.3%増の2兆2300億円、営業利益として同18.0%増の2800億円を見込む。磯部氏によると「サービスソリューションの国内での売上収益の伸びは前年度比10%増を見込んでいる」とのことだ。


 2024年度の国内IT需要の動きについてはどう見ているか。懸念される点はないのだろうか。


 「今の状況を俯瞰(ふかん)すると、幅広い業種においてモダナイゼーション、さらにはDX(デジタルトランスフォーメーション)の需要が非常に強い状態が続くと捉えている。この状態が未来永劫続くとは思っていないが、さしずめモダナイゼーション需要のピークが来るまでは、しばらくこの状況が続くだろう。懸念される点としては、国際情勢や経済の激変に伴って生じる需要の落ち込みだ。現状ではそうした特殊事情もさることながら、高い需要に対して当社のリソースやケイパビリティー、そして信頼に応えることが大事だと考えている」(磯部氏)


●NECは2024年度国内IT需要をどう見ているか


 NECが2024年4月26日に開催した決算会見では、森田隆之社長兼CEOと、藤川修Corporate EVP兼CFOが説明した。森田氏は2024年度に向けた思いとして、「国内のITサービスは2023年度に売上収益も営業利益も大きく伸長した。2024年度はその高水準からさらなる成長を遂げたい」と述べた。


 同社が発表したITサービスにおける受注状況は、国内全体が通期で前期比2%減(第4四半期で同2%増)、変動の大きいNECファシリティーズを除くと通期で同1%増となった。業種別ではパブリックが同1%減(同9%増)、エンタープライズが同5%増(同11%減)、その他が同8%減(同11%増)となった。エンタープライズの内訳では、金融が同16%増(同15%減)、製造が同3%減(同4%減)、流通・サービスが同3%増(同5%減)だった(図3)。


 この受注状況について、森田氏は業種ごとの動きと合わせて次のように説明した。


 「国内の受注状況は堅調に推移していると捉えている。パブリックは通期で1%減だったが、2021年度から2022年度にかけて大きく伸長し、2023年度も高水準を維持した格好だ。エンタープライズも通期で5%増と堅調に推移した。中でも金融が高水準だった2022年度をさらに大きく上回る伸びを示した。流通・サービスも堅調に推移した。製造は3%減だが、継続して採算性を踏まえて案件を選別しており、収益性は改善している。その他は下期から好転している」


 だが、富士通と比べると、伸びにおいては明暗が分かれたようにも感じられる。このことを指摘する質問に対し、森田氏は「国内の受注は2022年度、2023年度と好調で、高水準で推移している。いわば『発射台が結構高くなっている状態』が続いているというのが、われわれの捉え方だ。2024年度第1四半期(2024年4〜6月)に入ってもその状況は継続しており、当社のリソースにおいてご迷惑をかけないようにしたいと考えている」


 リソースについては、富士通の磯部氏も懸念事項に挙げたが、森田氏の上記の発言は本音がこぼれたようにも聞こえた。


 NECはこうした受注状況を踏まえ、2024年度の業績予想を明らかにした(図4)。ITサービスでは売上収益も営業利益も微増する計画だが、2021年度の実績から見ると着実に成長しているのが分かる。社会インフラも同様だ。堅実な経営スタイルが見て取れる。


 2024年度の国内IT需要の動きについてはどう見ているか。懸念される点はないのだろうか。これに対して森田氏と藤川氏は次のように答えた。


 「注目点として挙げたいのは、基幹システムのモダナイゼーション需要が今後さらに広がっていくかどうかだ。動きが見えているが、なかなか思い切って踏み出せない企業も多いように感じている。ただ、企業にとってはそこを踏み出さないと本当のDXには進めないので、今後、そうしたステップを踏むようなIT需要が増えることを期待している」(森田氏)


 「企業規模でいうと、中堅企業のIT需要が高まっていると感じている。当社としてもフォーカスしていきたい」(藤川氏)


 中堅企業については、政府も2024年を「中堅企業元年」と位置付け、重点的に支援することを打ち出している。「中堅企業」を法律で明確に定義し、国内投資などの優遇措置を通じて活性化を促す構えだ。藤川氏の発言はそうした動きを見据えたものだといえるだろう。


 最後に筆者の見立てを示しておこう。富士通とNECにおける2024年度のIT需要に関しては、次の2つがポイントになるだろう。


・基幹システムのモダナイゼーションが本格的に動き出すか


・その動きがDXによる経営改革につながっていくか


 こうした意味でも、2024年度の国内IT需要はその中身において大きな節目を迎えそうだ。


○著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功


フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。


このニュースに関するつぶやき

  • 大手企業の基幹システムは、1つ1つが高額だからね。顧客の更改時期によって凸凹はあるだろう。富士通の案件が堅調なのは、乗り換えが簡単ではないからだろう。業種志向性もあるしね。
    • イイネ!9
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