2024年は果たして住宅の買い時? “失敗しない住宅選び”とそのプロセスとは

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2024年05月07日 07:10  マイナビニュース

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LIFULL HOME'S総研の中山です。四半世紀以上に渡って、住宅市場の動向について調査・分析を担当してきました。今回は、最近住宅購入希望者から最もよく聞かれる質問を通じて、住宅の買い時や住宅選びについて大切なことをご一緒に考えてみたいと思います。

○最近最も多い質問は「今は買い時?」「今買っても本当に大丈夫?」



セミナーやウェビナー、普段の取材・打ち合わせなどを通じて知り合った方など、多くの住宅購入希望者から聞かれる質問の大半が、この2つに集約されます。つまり、今住宅購入を決断することにとても大きな不安を抱えている方がたくさんいらっしゃるということだと思います。


無理もありません、東京で新築マンションの価格が平均で1億円突破などとニュース報道を目にすれば、このタイミングで住宅購入に踏み切って本当に良いのだろうか、購入できたとして30年以上の長期に渡る住宅ローンの返済を維持・継続していけるのだろうか、と誰しも不安を感じるのは当然です。



この質問に対しては、私は大抵、以下のようにお答えしています。

今が買い時かどうかという状況判断については、買い時には実は2つの観点があって、1つは市場価格が安いとか、住宅ローン金利が低いとか、マーケットの状況が買い手にとって有利かどうかという“客観的な買い時”、もう1つは結婚&出産、転職などライフステージの変化に伴う“個人的な買い時”があることをお伝えします。そして、この2つの買い時のタイミングが合うことが理想ではあるのですが、それがぴったり重なることはなかなかありませんから、ではどちらを優先するかと言えば“個人的な買い時”を優先すべきであるとお答えしています。



このようにお答えすると、今は住宅価格が高くて予算に合わないとか、都心で住宅購入したいのに郊外方面での購入を検討せざるを得なくなるなど、当初の計画を変更するのは嫌だと、なるべく当初の計画通りに住宅購入を進めたいとのお話が返って来ることもあるのですが、では、その当初の計画とは、そして例えば都心のタワーマンションに住みたいと思う理由とは何でしょうか。

○“理想の家”を手に入れるハードルは低くない。現実を見つめるところから住宅購入は始まる



大抵の場合、住宅購入を検討し始めるきっかけは“あこがれ”から始まります。賃貸住宅での生活が続くと、2年ごとに更新手続きがあったり更新料がかかったり、また更新時に賃料が上がるケースもあります。しかも自分の所有物ではないので日常の使用に制約がある場合も多く、(精神的に)何かと窮屈に感じる賃貸から転居してそろそろ自分の家が欲しい、自分の思い通りになる&使える家が欲しいと考え始めるのはごく自然な流れだと思います。そもそも賃貸住宅は利回り物件、つまり大家さんがその物件を貸して収益を上げるために建設されていますから、一部の高級賃貸住宅などを除けば、物件の品質や仕様に限度があるのも事実です。やはり内装や設備のクオリティ、防音性や断熱性、そして安全性など住宅性能が全般的に高いのは分譲仕様で建設されている物件なので、いつかは自分の家が欲しいと思うのは当然のことと言えるでしょう。



しかし、実際にその家はどのような家かを考え始めると、どうしても理想の家のイメージが先行して、つまり予算的なことをはじめは意識せずに住宅購入・建設を考えることになりますが、(金に糸目をつけずに住宅購入が可能な人を除いて)当然のことながら、予算・コストという現実問題が壁として立ちはだかることになります。



ただし、ここで予算オーバーだから駄目だとすぐに諦めることはありません。住宅購入を後押ししてくれる親からの援助は期待できそうなのか、公的な住宅購入支援制度を活用できないか、補助金や住宅ローン控除を活用してどの程度コストを削減できるのかをシミュレートしてみましょう。もちろんそれだけではなく、コストを削減するために、自分と家族が住宅について譲れない条件と、ある程度譲歩できる条件とを書き出してみることも大切です。譲れないのは住宅の立地なのか広さなのか、それとも部屋の数なのか、快適性や静穏性なのかなどをしっかり考えることで、現実的な選択ができるようになります。住宅購入目的で貯蓄している資金が目標額に達した場合でも、住宅ローンのシミュレーションを通じて毎月の返済額のイメージを予め持っておくことが必要です。



ここでポイントになるのは、住宅の“本体価格”だけでなく、住宅所有に関連して発生するランニング・コスト、例えば固定資産税や都市計画税といった公租公課、マンションの場合は管理費や修繕積立金、自動車を所有している場合は駐車場代も含めてシミュレートする必要があることです。これを怠ると、後から資金がショートしたとか、予期せぬ出費で生活が苦しくなったとか、住宅購入を後悔する原因となるケースが発生することもあるので、検討項目に漏れはないかをしっかりチェックしてください。これらの確認作業を通じて、予算面も含めて自分と家族が本当に“個人的な買い時”に差し掛かっているのかどうか、を判断する目安にすることができます。

○マーケットの状況:待っていても価格は下がらない、むしろ上がる可能性が高い



では今度は“客観的な買い時”かどうかを検討することにしましょう。マーケットの状況が買い手にとって有利であるかどうかを検討することが“客観的な買い時”であるか否かを判断するための材料になります。

まずは価格の推移です。ご存じの通り、新築住宅の価格はここ数年上昇し続けています。ロシアのウクライナ侵攻を契機とする資材価格の高騰もありますが、最も大きい要因は2020年以降続く円安傾向です。2020年初頭に1ドル=103円前後だった為替相場は、2024年5月には1ドル=157円前後まで円安が進行していますから、専ら輸入に頼る住宅用資材の価格は単純計算でこの間に5割程度値上がりしていることになります。



日米欧の基準金利に相応の格差があることで、円を売ってドルやユーロを買う動きには歯止めが掛からず、(財務省による為替介入が積極的に行われなければ)円安傾向は今後も続き、資材価格の上昇も続くことになります。また建設業や運輸業など、住宅建設に必要な人件費も、2024年4月から残業時間に“総量規制”がかかることとなって今後更なる高騰が予想されています(いわゆる2024年問題)。したがって、これから建設する住宅の価格はこれらのコストの押し上げによって、下がる可能性はほぼないと考えるべきでしょう。



ただし、当たり前ですが、住宅価格の相場水準および上昇率は全国一律ではありません。東京など大都市圏では価格上昇が顕著で、価格水準自体も極めて高いのですが、むしろこれは例外で、首都圏でも準近郊から郊外エリアでは5,000万円以下で住宅が分譲されているエリアもたくさんあり、また中古住宅を購入してリノベーションするという方法もありますから、住宅を購入しようと思えばいくらでも手段はあると考えてください。住宅価格が全般的に上昇する傾向にあっても、エリアによって価格水準に大きな違いがあることを知って、その価格水準と交通条件や生活条件などを比較検討し、自分と家族がそのエリアにフィットして生活していくことができそうかを具体的にイメージすることが重要なのです。

○住宅ローン金利の“性質と動向”を知って賢く対策を講じることも重要なポイント



次に住宅ローン金利の推移です。ご存じの通り、日銀は歴史的な低金利政策を終えて、極めて慎重に金融引き締め=金利が緩やかに上昇する方向で政策を実施することを検討しています。つまり長期的には日本の国債金利は上昇する可能性が高く、従って住宅ローン金利も徐々に上がっていく可能性があるということになります。住宅ローンには固定型と変動型があり、固定型には一定期間固定してその後金利を見直すものと、全期間(多くの場合35年程度)固定するものがあります。変動型は借り入れた後も金利が変動することがあるという意味ですが、現状では金利水準自体が低いこともあって新規借入の約9割、全体の7割程度が変動金利で借り入れられていると言われています。



現在の全期間固定型の住宅ローンは優遇適用後の金利が1.9%前後で上昇基調、変動金利は0.5%前後でほぼ横ばい推移していますから、現状では変動金利で借り入れることが返済金額を低く抑えることができて、経済合理性の高い選択と言えます。しかし、変動金利は借り入れ後も金利が変動する、つまり上昇する可能性があるため、今後の返済額も上がってしまうから不安だという人が数多くいらっしゃるのも事実です。この点については、将来的な金利変動を正確に分析することはできないので予測の範囲を出ませんが、ポイントになるのは固定金利と変動金利の金利差です。



現状では1.4ポイント程度の差があるのですが、この金利差が個々の住宅ローンの元本に照らしていくらに相当するのかを計算しましょう。また、その金利差が埋まるまでにどれくらいの期間を要するのかは定かではありませんが、急激に金利を上げてしまうことは住宅購入に急ブレーキをかけ、住宅市場そのものを冷やしてしまって再び金融緩和せざるを得なくなるという可能性がありますから、その変動幅は月ベースで0.01%程度と考えられています。つまり現状の金利差から単純計算で140カ月分(11年超)のバッファがあるのであれば、その間に繰り上げ返済を実施するなどして元本を圧縮するほうが、返済総額を少なくすることができる近道ということになります。



また、変動金利型住宅ローンは、多くの場合金利が上昇しても“5年ルール”および“125%ルールが適用されます。住宅ローンはあくまでも各金融機関の商品なので例外もありますが、基本的には金利が上昇しても5年間は毎月の返済額が従前に据え置かれ(その分返済期間が延びます)、5年後に引き上げる際も従前返済額の25%アップまで、というルールが適用されますから、金利上昇に連動して返済額がどんどん上昇し、返済できずに破綻してしまうという可能性は極めて低いとご認識ください。また、万一住宅ローンの返済が困難な状況になったとしても、金融機関の窓口で一定期間利息の返済のみにするなどの対応策も用意されていますから、単純に金利が上がってしまうと返済できなくなってしまう、などといたずらに不安に思う必要はないのです。



上記2つの考察から、住宅価格は全般的に上昇しても、住宅ローン金利の性格を知って対処すれば、現状でも大きな不安を感じることなく住宅を購入できそうだということがわかります。つまり、住宅購入を漠然と考えるのではなく、具体的に検討して1つ1つ対応していけば安心材料が増え、結果的に住宅購入に結び付くのです。“客観的な買い時”であるかどうかは、自らの購入戦略を明確にすることによって買い時にすることができる、と考えてください。

○住宅購入において最も大事なことは……



以上、住宅の買い時について、個人的な側面と客観的な側面からそれぞれアプローチすることで、判断が可能であることを説明してきましたが、もう一つ忘れてはいけないこと、最も重要なことを示してこのコラムの結論に代えたいと思います。



最も重要なこととは、この家を購入して“自分と家族が末永く幸せに暮らせるかどうか”という視点を、絶対に失ってはならないということです。資産価値もステータス性も高く誰もが憧れるようなエリアに購入した家は、購入直後は高揚感もあって満足度が極めて高いものですが、毎月の住宅ローンを返済し続けるという現実は変えることができませんから、住宅ローン返済のために生活を切り詰めるといったことがないように、家族で楽しく生活し続けることを何よりも優先して住宅選び、居住エリア選択をしていただきたいと思います。資産価値が高い家を(多くの場合高額で)購入できれば経済的な成功を得る第一歩になるかもしれませんが、それは決して自分と家族の幸せに優先するものではないのです。



是非、戦略的に、そして具体的に住宅購入を検討して、幸せに暮らせる家を手に入れてください。



中山登志朗 LIFULL HOME'S 総研 副所長 兼 チーフアナリスト。出版社を経て、1998年よりシンクタンクにて不動産マーケット分析、知見提供業務を担当。不動産市況分析の専門家としてテレビ、新聞、雑誌、ウェブサイトなどメディアへのコメント提供、寄稿、出演を行うほか、年間数多くの不動産市況セミナーで講演。2014年9月にHOME'S総研(現:LIFULL HOME'S総研)副所長に就任。国土交通省、経済産業省、東京都ほかの審議会委員などを歴任。(一社)安心ストック住宅推進協会理事。 この著者の記事一覧はこちら(中山登志朗)

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