「母の遺産は虐待の慰謝料」娘が怒りの“独占”主張 「甥や友人にあげたい」遺言書スルーしても大丈夫?

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2024年05月07日 10:10  弁護士ドットコム

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折り合いの悪かった母の遺言書を無視して相続したい──。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。


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幼少期に母から精神的な虐待を受けていたという女性。母は、亡父からの遺産を含めかなりの財産を持っており、近年命に関わる病を患い、終活に向けた動きを見せています。



母が亡くなった際の法定相続人は一人っ子の女性のみですが、母は「甥っ子や友人にも遺したい」とこぼし、自身の希望を盛り込んだ遺言書を作成する予定のようです。



女性としては、幼い頃の辛かった日々を思ってか、「母の遺産は私への慰謝料。1円たりとも他人に渡したくない」とし、母の遺言書に従わずに済む方法があるのか気にしています。遺言書の内容を無視して遺産を相続することは可能なのでしょうか。宮地紘子弁護士に聞きました。



●遺言書の内容を無視は「できない」

──遺言書とはまったく異なる内容で遺産分割するのは可能なのでしょうか。



一般的に、相続人全員の同意があれば、遺言書の内容と異なる遺産分割をすることも可能です。この場合、相続人全員で遺産分割協議をすることになります。遺産分割協議を経て、相続人全員が合意した内容の遺産分割をすることができます。



ただし、遺言執行者(遺言者の死後、遺言書の内容を実現する手続きをする人、民法1012条1項)がいる場合には、相続人全員に加えて遺言執行者の同意が必要です。



──「甥っ子や友人にも遺産を渡す」旨の遺言書があった場合で、法定相続人1人の意向で遺言書に反する相続も可能でしょうか。



法定相続人以外に遺言書によって財産を受け取る人(受遺者)がいる場合、法定相続人1人の意向で遺言書に反する相続をすることはできません。これを許してしまうと、受遺者の権利を相続人が一方的に奪うことになってしまうからです。



今回のケースのように、法定相続人ではない「甥っ子や友人」が受遺者となっている場合には、法定相続人が子1人であったとしても、法定相続人1人の意向で遺言書に反する相続をすることはできません。



──遺言書の存在をなかったことにしようと勝手に処分した場合、何か法的ペナルティはありますか。



民法891条5号は「遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者」は「相続人になることができない」と規定しています。そのため、遺言書を勝手に処分した場合、相続欠格事由に該当し、相続人の権利を失うことになる可能性があります。



相続欠格事由に該当する場合については、遺言書を故意に偽造、変造、破棄又は隠匿したことに加え、相続に関して不当な利益を得ることを目的としてなされたものであることを必要とする判例もあります。



また、遺言書を勝手に処分する行為は私用文書等毀棄罪(刑法259条)に該当し、刑事事件に発展するケースもあります。遺言書の取り扱いや内容について心配なことがある場合には、身近な弁護士に相談されることをお勧めいたします。




【取材協力弁護士】
宮地 紘子(みやち・ひろこ)弁護士
名古屋市出身。勤務弁護士を経て独立後は離婚や相続などの家事事件を中心とした案件を数多く担当。JAPAN MENSA会員。家庭では1児の母。子育てと仕事の両立に日々奮闘中。
事務所名:八事総合法律事務所
事務所URL:http://www.yagotosogo.com


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