暖房器具メーカーが作った「焙煎機能付きコーヒーメーカー」が20年も売れ続けている理由

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2024年05月12日 07:20  ITmedia NEWS

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ボディカラーがステンレス調からマットブラックに変更された新モデルの「焙煎機能付きコーヒーメーカーMC-504」(直販価格9万9990円)は、ダイニチ工業Webショップの直販のみで販売

 コロナ禍の在宅勤務時間に“おうちコーヒー”にハマったという人は多い。通常のドリップコーヒーに加えて、ミルを搭載し、常に挽きたてが淹れられる全自動コーヒーメーカーも製品数が増加。家庭でもよりおいしいコーヒーが淹れられることから、コーヒー好きの人気を集めている。


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 全日本コーヒー協会の調査でも、コロナ禍の2022年には、1人が1週間に家庭で飲むコーヒーの消費量は7.67杯まで上昇。さらに1人が飲む量も、レギュラーコーヒーがインスタントコーヒーを抜くなど、よりおいしさが求められているのだ。


 そんななか、一部の上級者に人気なのがコーヒー豆の焙煎だ。生豆を自家焙煎することで、煎りたてから時間経過で変わっていくコーヒーの風味が楽しめる。家庭用焙煎機にはさまざまな製品があるが、長く支持を集めているのがダイニチ工業のコーヒー機器だ。カフェプロシリーズは20年以上売れ続けているロングセラー(累計販売台数は非公表)で、ラインアップは焙煎機能付きコーヒーメーカーと、焙煎機の2シリーズ。24年4月には2シリーズともデザインを一新し、ともに新モデルが登場した。


 そこで、焙煎機能付きコーヒーメーカーが長く売れ続ける人気の理由について、製品の開発担当の内海茂雄さんに話を聞いた。


●ストーブの燃焼技術を転用して、コーヒー焙煎機を開発


 ダイニチ工業は1957年に創立された、石油コンロや石油ストーブなどを製造販売する暖房器具メーカーだ。現在は業務用大型ストーブや家庭用ストーブで高いシェアを誇っている。そんな同社がコーヒー機器に参入したのは97年のこと。


 もともとは、当時の社長が取引先の商社から「コーヒーの生豆を仕入れ、焙煎して販売している」という話を聞いたことが始まりだという。暖房器具メーカーであるダイニチ工業は、高いレベルの燃焼技術や温度制御技術を保有しており、これらを活用すればコーヒーの焙煎ができるのではないかと考えたそうだ。


 「ヒーターで均一に熱を加える技術や温度調節技術は持っていたので、技術の水平展開という視点でコーヒー焙煎機の開発がスタートしました。とはいえ、社内にコーヒーのプロがいたわけでもなく、いわば素人集団でコーヒー製品の開発をスタートしました」(ダイニチ工業 デザイン部 部長 内海茂雄さん)


 そのため最初に行ったのは、コーヒーのおいしい喫茶店に行くことだった。当時はまだインターネット上に有益な情報もなく、「焙煎について教えてください」と喫茶店に突撃する日々だったそうだ。


 そうして「カフェプロ」ブランド初の製品として97年に誕生したのが、初代の「焙煎機能付きコーヒーメーカー MC-501」だ。生豆からの焙煎機能、ミル機能、コーヒードリップのすべての機能を備える。そして2000年には、焙煎機能を独立させた「コーヒー豆焙煎機 MR-101」を発売。これらがダイニチ工業のコーヒー機器事業の始まりだ。


●煎りたてからの味の変化が楽しめる


 その後、焙煎機能付きコーヒーメーカーとコーヒー豆焙煎機は、細かなマイナーチェンジを繰り返しながら販売を続ける。そして24年4月、デザインをステンレスを基調とした茶色いカラーからマットブラックに改めた新モデル「焙煎機能付きコーヒーメーカーMC-504」と「コーヒー豆焙煎機 MR-102」を発売した。


 ダイニチ工業の焙煎機能の特徴は、上下から熱を加えるダブルヒーターの採用だ。このダブル焙煎方式の採用によりムラなく焙煎できる。さらにセンサーが豆の温度を検知し、きめ細かく制御することで、電気ヒーター直火式ながら均一の仕上りを実現するのだ。


 焙煎機能付きコーヒーメーカーは、1回に60gの生豆を焙煎でき、焙煎レベルはライト、ミディアム、シティの3段階で設定できる。コーヒー豆焙煎機は、1回に120gを焙煎でき、風味3段階、煎り加減4段階の12段階で設定できる。


 「新発売の焙煎機能付きコーヒーメーカーとコーヒー豆焙煎機は、電気ヒーターによる直火焙煎なので、コーヒー豆がはぜるパチパチという音が強く出ます。焙煎が終わって冷却が進んだあと、飲める状態になります。この煎りたての豆をドリップすると豆がものすごく膨らみ、スッキリした雑味のないコーヒーが淹れられます。これを1、2日寝かしてから淹れると、深みのある落ち着いた味になります。焙煎後の変化も楽しんでほしいですね」(内海さん)


 焙煎したコーヒー豆は、一般的にロースターで数日寝かせることが多い。このため煎りたてのコーヒーが淹れられるのは、自家焙煎だからこそだといえる。焙煎機能付きコーヒーメーカーが1回に焙煎できる60gのコーヒー豆は約10杯分。毎日2杯ずつ淹れれば、5日間の味の変化が楽しめるというわけだ。


 さらにダイニチ工業では不良サイズの豆を事前に取り除き、焙煎ムラを出にくくした生豆もWebで販売しており、手軽にコーヒー焙煎に挑戦できる。


●約20年変わらないモノつくりが生んだロングセラー


 内海さんによるとこれまでのモデルチェンジで、排煙やニオイ対策などの細かな改良は行っているもの、基本的な仕組みや構造は初代モデルから継承されているという。


 「最初にデザインしたのが97年なので、ちょっとレトロすぎて現代のキッチンやンテリアにはなじまないと考え、23年に発売した『コーヒー豆焙煎機 MR-F60』と合わせたデザインにリニューアルしました。20年以上売り続ける間には、コンビニのコーヒーが始まったり、エスプレッソが流行ったりと、コーヒー市場の変化を見てきました。確かに流行は変わりますが、きちんと焙煎して、きちんとドリップできれるベースがあれば、長く愛されると思っています」(内海さん)


 暖房器具メーカーであるダイニチ工業は、安全性と部品の保守などに力を入れており、カフェプロシリーズも20年間メンテナンスを行ってきた。現在は家庭用として販売しているが、もともとは業務用を想定して開発されたこともあり、長期使用に耐える高い品質を備えている点も、長く売れ続けている理由の1つだ。


 「社内にも、97年や00年に発売した初代モデルを使っている人がいます。調子が悪くなっても部品をきちんと管理しているので直して使えます。安全性やメンテナンスに対する意識は、他メーカーと比べて非常に高いと思っています。我々のメイン事業である石油暖房製品は、この意識がないと火災につながるという背景もあるでしょう」(内海さん)


 さらにダイニチ工業では23年に、23年ぶりとなる新製品として、熱風式を採用した「コーヒー豆焙煎機 MR-F60」を発売し、同時にブランドロゴも一新した。今回のリニューアルは、ボディカラーをMR-F60にあわせて、シリーズの一体感を出していくものだ。


 こちらのコーヒー豆焙煎機は3万円台と入手しやすい価格で、メディアが主催する23年末の家電アワードで受賞するなど、高い評価を集めている。そして、今回発売された焙煎機能付きコーヒーメーカーとコーヒー豆焙煎機も、この流れに乗ってさらなる人気を集める可能性がある。


 現在、焙煎機能付きコーヒーメーカーとコーヒー豆焙煎機は直販限定での販売だが、家電量販店との商談が折り合えば、店頭販売も考えているそうだ。


 この20年、ほとんど販売促進費や広告宣伝費を掛けることなく、販売してきたカフェプロシリーズ。「ブームに左右されずに売れ続けてきた」と内海さんは語る。現在では口コミやコーヒーブームもあり、ゆっくりとではあるが広がりを見せている。


 自家焙煎機は18年頃にパナソニックが製品を投入(現在サービスは終了)、その後も多くのメーカーから発売されている。とはいえ、自家焙煎は加熱と品質の担保の難しさや安全性、ニオイや煙対策など、非常に課題が多い。


 そんな中で、約20年前に家庭で使える焙煎機能付きコーヒーメーカーや焙煎機を製品化し、安全性やメンテナンス性にこだわりながら長く売り続けてきたダイニチは、まさに先駆者なのだ。


(コヤマタカヒロ)


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  • ブルーヒーターのダイニチさんだから灯油燃やして焙煎するのかと焦った。一緒に売ってるとはいえ生豆を買うのがネックよね。
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