ハロプロのライブチケット「定価より高く転売」で書類送検、嫌われる「転売ヤー」の摘発が増えそうなワケ

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2024年05月22日 09:50  弁護士ドットコム

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「ハロー!プロジェクト」のアイドルグループのライブチケットを転売したとして、50代の男性会社員がこのほど、チケット不正転売禁止法違反の疑いで書類送検された。


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報道によると、男性は2023年6月、ライブチケット2枚を転売サイトに出品して、男女2人にそれぞれ2万円ずつ(定価は8000円と7500円)で転売した疑いが持たれている。



産経新聞によると、ハロプロ側が転売サイトなどで売買を発見したということだが、芸能問題にくわしい河西邦剛弁護士は「今後も摘発が続く可能性がある」と話す。河西弁護士に聞いた。



●過去の不正転売について摘発が続く可能性あり

報道に基づくと、ハロプロ側から警察に申告があったことが発端になっているようです。また、昨年6月の転売行為を対象としていることからも、ハロプロ系チケットでは、今後、過去の不正転売について摘発が続く可能性があります。



つまり、1年ほど前のある時点で、事務所側がネット上で不正転売されているチケットについて、複数の通報をしていたとすれば、すでに警察がそのうちいくつかの事件について捜査を進めていて、さらに送検が続くと思われます。



今回は、8000円と7500円のチケットをそれぞれ2万円で転売したということですが、事務所は1年ほど前に通報した際、出品金額に着目して、特に高額なケースを申告したというより、定価越えのチケットを複数、またはすべて通報したと考えられるからです。



●すべての取引履歴が把握されていると考えられる

そもそも、法律上、「チケット転売=犯罪」というわけではありません。ライブチケットの転売が犯罪となるのは、出品者が(1)興行主の事前の同意を得ずに、(2)反復継続の意思を持って、(3)販売価格を超える金額で売ることが要件とされています。



この場合、チケット不正転売禁止法により、1年以下の懲役または100万円以下の罰金となります(併科される可能性あり)。



そして、通報を受けた警察が摘発するためには、(2)「反復継続の意思を持って」の要件について、裏付け捜査を進める必要があります。



具体的には、チケット仲介サイトを捜索したり、捜査関係照会をかけて、過去のハロプロ系チケット転売履歴について幅広く掴み、今回の容疑者の取引履歴もすべて確認したからこそ、「2021年8月〜2023年10月までに計53枚を転売し、約70万円の利益を得ていた」(朝日新聞)ということを把握したのだと思われます。



ここで警察が「2021年8月」から転売していたと発表しているのは、公訴時効との関係だと思います。つまり、チケット不正転売禁止法の公訴時効が3年なので、警察から書類送検されたあとに検察官が起訴・不起訴を決めるタイミングで時効にかかっていないケースを対象にしたと考えられます。



逆に言えば、警察は、2021年8月以前の履歴も抑えている、つまりチケット仲介サイト等には過去のすべての履歴が残っているし、今後の取引についても履歴が残り続ける可能性があるということです。



●仲介サイトの法的責任は?

チケット不正転売禁止法については、抜け穴が多い法律とされています。その理由は、転売するつもりのない購入者が処罰されないこと。そして、「反復継続の意思を持って」について明確な基準がない、つまり、犯罪に該当する不正転売かはっきりしないということです。



その結果、仲介サイト側は、不正転売に該当する出品を規約で禁止しているので、「規約違反の出品をした出品者の責任だ」と弁解する余地があります。



一方、転売するつもりのない購入者も「規約を見て、出品されている定価越え チケットは(反復継続の意思がなく)不正転売に該当しないと思って購入した。もし不正転売であれば購入しなかったし、出品者に騙された」という弁解ができることになります。



これらの弁解につながるのは、不正転売する側だけを処罰している現状の法規制の結果です。そもそも高額転売をすべて規制したいのであれば、転売するつもりのない購入者も仲介サイトも規制するという法規制がありえます。しかし、現状はそうなっていません。



これは、安く買って・高く売るというのが、そもそもの商売の基本で、「営業の自由」は憲法に基づくものであり、チケット転売についてこれ以上の法規制というも現実的に慎重になっているのでしょう。



●転売に対する姿勢は運営次第

男女のアイドルに関係なく コンサート含めアイドル現場では、推しの前でファンはみんな平等であるべきという「夢の国理論」があり、お金を持っているファンがいつも良い条件でコンサートを見ることができてしまうと、現場の雰囲気がシラケて、結果としてファン離れにつながることもあります。



同時に、転売するつもりのない購入者は、高額でチケットを購入すること自体に納得しているので警察に通報することはなく、実質的に転売について通報して警察を動かせるのは、芸能事務所など興行主が中心になります。



現行法のもとで、転売の摘発に対して、積極的になるか否かの選択権は、それぞれの運営に委ねられているということになります。




【取材協力弁護士】
河西 邦剛(かさい・くにたか)弁護士
「レイ法律事務所」、芸能・エンターテイメント分野の統括パートナー。多数の芸能トラブル案件を扱うとともに著作権、商標権等の知的財産分野に詳しい。日本エンターテイナーライツ協会(ERA)共同代表理事。「清く楽しく美しい推し活〜推しから愛される術(東京法令出版)」著者。
事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:http://rei-law.com/


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